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灰色の空。
吐く息は白い。
「…嘘でしょ、雪降ってきた…」
家を出る前にかろうじてテレビで見た天気予報では曇りだったはずなのに。今日からあのお天気お姉さんは信じないことにする。
いつもなら人で賑わっているこの通りも、今は閑散としていた。この天気と寒さじゃ当然だろうけど。
「…寒…」
ニットワンピースの上にコートも着込んで、その上手袋だってちゃんとしているのに、それでも外気は容赦なく私の体温を奪っていく。
このままこのベンチに座ったままじゃ凍えてしまう。どこかへ移動しなければ。しかし今の私は、無慈悲にも一文なしだ。所持品はスマホのみ。
…これからどうしよう。
そう思った時だった。
「どうしたんだい、こんな所に一人で」
「え…?」
ふと上から降ってきた言葉に顔を上げると、そこには今までに見たことがないくらいに美しい風貌の男性がそこにいた。
「…天使みたい」
「そう見える?それならそれで都合がいいな」
「どういう意味ですか」
「警戒心は薄い方がやりやすいだろ?今から君を暖かい場所に連れて行きたいと思っているから」
「…」
「どうかな」
なるほど、と内心納得する。
情事のお誘いだと悟る。それも一夜限りの。
確かに、私のように一人寂しく公園で黄昏ている女性なんて、格好の的だろう。
「……」
「嫌ならいい。余りにも寂しそうな顔をしていたから、声を掛けてみたくなっただけなんだ」
「あ…」
他に行くところなんてない。
このままここにいてバカみたいに風邪をひくか、目の前にいる天使みたいな人に連れられて屋根のある場所に移動するか、どちらかだ。
返事を躊躇う私を見て、どうやら申し出は断られるだろうと判断したその男の人は、踵を返そうとした。
「…っ、待ってください」
ベンチから立ち上がる。
はらはらと降る雪の中、こちらを見るこの人は本物の天使のように見えた。
「…私を連れて行ってください」
「ああ、もちろん。…後悔はないね?」
「はい」
「決まりだね。行こうか」
くす、と微笑みを浮かべると、私の腰にそっと手を回して歩き出す。
私よりも遥かに高い身長を持つ彼の横顔を盗み見ても、わずかに口角が上げられているだけで、そこからは何も読みとれなかった。
はらはらと白い雪が舞う。
その静寂は、戸惑いも寂しさも不安も、すべてを飲み込んでいく。
そんな錯覚を覚えた。
着いた先は想像とは程遠かった。
外観からでもよく分かる、高級感が溢れるホテル。
ほぼドローンで経営されている無人体制での営業が当たり前だけど、ここは違う。受付フロントも有人だし、果てはドアマンまでいるほどだ。
上階へ繋がるエレベーターのボタンを押しながら、彼は私に尋ねた。
「何か想像と違ったかい?」
「…もっとこう、いかにも休憩します≠チて所に連れて行かれるのかと思ってました」
「なるほどね」
「…」
目的のフロアにたどり着いたようだ。
エレベーターの扉が開き、腰に回されている手が、降りることを促している。
そこから奥へ進み、ほどなくしたところの部屋の前で彼は立ち止まった。そして上着のポケットから取り出したルームキーであるカードを取り出すとそれをかざす。
ピピっという機械音と共に、鍵がガチャリと外れる音がした。
「もう一度聞くけど、後悔はないね?」
私を見下ろす、恐ろしいほど綺麗な金色の瞳。本当は後悔も不安もあったけれど、私は頷いて見せた。
そんな私の虚栄心など、この人にはきっと見透かされているのだろう。
ドアが内側に開き、「どうぞ」と促される。私は意を決してその部屋に足を踏み入れた。
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