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一人で泊まるには場所を持て余すくらい、だだっ広い部屋がそこにあった。
充分に暖房が効いていて、冷えた身体にはとてもありがたい。
巨大なモニターの前に置かれている、広いローテーブルに布張りのソファ。その反対側にはベッドが横並びに二つ並んでいる。
「…さて」
彼は私を振り返り、手を差し出した。
「コートを預かるよ。
身体が冷えているだろう、まずはシャワーでも浴びて温まってくるといい」
「…いいんですか?」
「もちろん。バスローブも女性用のものがある」
コートを脱いで手渡すと、ポールハンガーにそれを掛けてくれた。そして引き出しから白いバスローブを私に手渡し、ふわりと微笑む。
「空腹であれば、何かルームサービスを頼んでおくよ。僕も夕食を摂ろうと思っていたところだ」
「お願いします…」
「ああ」
そう返事をすると、彼はベッドに足を組んで座って、サイドテーブルに置かれていたメニューを静かにめくり始める。
何も言わずに立ち去るのも失礼かと思い、軽く頭を下げてから部屋を立ち去る。
短い廊下の先にあった浴室を見つけ、私はそこに入って扉を閉めた。
「シャワー、ありがとうございました」
「どういたしまして。さあ、食事が届いているから一緒に食べよう」
広間に戻ると、ローテーブルに料理が並べられていた。待っていてくれたのか手付かずだ。
私は間隔をあけて、彼が座っているソファに遠慮がちに腰掛けた。そんな私を見て、ふと気づいたように言う。
「…おや」
「?」
「いいね。とても扇情的だ」
「…っ」
バスローブを纏った姿を見て彼は微笑む。
一般的にこういうものは胸元が見え隠れしやすく、少しでも足を組もうものならば太ももの辺りまで晒されてしまう。
できれば着たくはなかったけれど、他に選択肢がなかったため仕方がなかった。
「そう緊張しないで。さあ、頂こうか」
「は、はい…」
なぜだろう。
初対面だというのに、彼が紡ぐ言葉と作り出す雰囲気は、なぜか空間の緊張を和らげてくれる。
元々の性質なのか、意図してやっているのかは分からないけれど、それが居心地よく思えてしまう自分がいた。
当たり障りのない会話を交わしながらフォークを口に運ぶ事を繰り返していると、あっという間に食事の時間は過ぎていった。
空になった皿をまとめてワゴンに乗せ、それを部屋の外に置いてくると、彼は再び戻ってきてソファに腰掛けた。
さっきよりもずっと近く。
間隔を開けずに、私の後ろに腕を回している。
じっと見下ろす金色の瞳を無視することなんて到底出来ないけれど、直視することなんてもっとできなかった。
囁くような口調で尋ねられる。
「君は、どうしてあそこにいたのかな」
「…っ」
彼の指先が私の首筋から鎖骨をつつ、となぞる。驚いて身体を固くすると、楽しそうに目を細めて笑った。
「見たところ、こういう事にも慣れていないようだし。何か事情が?」
「はい。…聞いても楽しいものではないと思いますが」
「そう、是非聞きたいな。僕は俗に言う普通≠フ交友関係が、ほぼ無いままに生きてきたから。興味があるよ」
「……」
つい数時間前の出来事を頭の中で反芻する。
心の痛みはすでに限界を越えていて、虚無すらも感じる。
どうせ行きずりで出会った人だ、聞かせても構わないだろう、と半ば投げやりな気持ちが込み上げた。
私はバスローブの紐を解いて、そっと開いて見せる。
驚いたのか、一瞬だけ息が止まる気配。
下着は上下とも付けていない。そして彼の目の前に晒された私の身体の至るところには、痣が散らばっていた。
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