君とキスがしたい
「ホラ。顔、あげて」
「…」
「なんも怖くねーって。な?」
マイキーの手が、私の顎に添えられる。
学校の屋上。扉を出たすぐのところで私は、彼にいわゆる壁ドンをされている状態。
ゆっくりと顔が近づいてくる。
近づいてくるにつれて少しずつ閉じていくマイキーの目。
顔を少し傾けたその仕草がとてもセクシーだ、なんて呑気なことを考えてられるのもほんの一瞬だった。
「ーっ…やっぱ無理…」
唇が重なる前に、顔を両手で覆ってその場にずるずると崩れ落ちる。心臓はもうバクバクだ。
「ありゃ」と呟くマイキーの声が聞こえた。
「なんでだろうなー。ただチューするだけなんだけど、何がそんなに無理なんだ?」
「…君がね?カッコ良すぎるんだよ」
「そりゃどーも」
「否定はしないんだぁ…」
さすがは暴走族の総長。
しかしそんな肩書きとは裏腹に、私との初めてのキスを大事にしようとしてくれている。
これまでに何度かキスを迫られた。けどそのたびに、すんでのところで私は顔を背けてしまうのだ。
そもそもキスって、よく考えたらものすごい行為ではないだろうか。自分の唇と相手の唇を重ね合わせるなんて、平気でできるわけがない。
「ごめんね、マイキー…」
「いーって。気にすんなよ、ユリ」
しゃがみ込んで私に目線を合わせ、わしゃわしゃと頭を撫でてくれた。にっこり笑顔も浮かべている。
「でも…マイキーはキス、したいんでしょ?」
「そりゃーしてぇけど。無理やりなんてしたくないからサ。ユリがしたいと思ったらでいいよ」
「うん…」
「もっかい挑戦してみる?」
小さく頷くと、マイキーは「ん」と応えた。
頬に手が添えられて、ぎゅっと目を瞑って彼の唇が近づいてくるのを待ったけれど、その感触は唇ではなく額に与えられた。
「…?」
「ど?怖くねー?」
「うん…大丈夫」
そう答えるのを見てマイキーは目を細めた。
頬に何度がちゅ、ちゅっと音を立てて口づけを落とすと、それが頬に続いていく。
そこから耳たぶを甘噛みされて、思わず口から吐息が漏れた。
「は、ん…、マイキー…?」
「やらしー声」
彼の舌先が耳を舐めとっていく。ぞくぞくと背筋に何かが走るのを感じる。思わず彼が肩に羽織っている学ランに縋り付くと。
「ユリ」
名前を呼ばれる。ほんの数センチの距離に私の大好きなマイキーの顔があって、胸が大きく高鳴った。
マイキーは目を閉じて、口元に微笑みを薄く浮かべている。そんな彼の表情を見て、抑えがたい何かが込み上げてきた。
そして私は、マイキーにキスをした。
時間にすればほんの数秒。
けれどその数秒、私の世界にはマイキーひとりだけだった。そしてマイキーもきっと同じように感じてくれたはず。
「…できたじゃん」
「うん…」
マイキーはおでことおでこをこつんと合わせて、へへって笑った。
「どーだった?俺との初キス」
「なんか…息が詰まった」
「なんだそれ」
「それだけ好きってこと、なんだよ」
「…」
彼は驚いた表情を浮かべてこちらを見る。
ほっぺたやおでこにしてもらうキスももちろん好きだけれど、私はもっともっと、マイキーと唇を合わせたい、と思った。
「マイキー。キス、して?」
「ん。今度は途中でやめねーからな?」
「うん」
もう、大丈夫。
近づいてくるマイキーの顔を見ながら、私は唇に与えられる感触を待った。
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