貴方のことが。






「兵長、好きです」



薄暗い廊下に、声が小さく響く。
私の声は情けなくも震えているけれど、当然だ。

ずっと昔から想ってきた相手に、たった今、想いを告げているのだから。



「…」



彼から返事はない。
壁に軽く寄りかかり腕を組んだまま、視線だけをこちらに寄越していた。




「あの日、襲ってくる巨人から貴方に助けられた時から。ずっとずっと、兵長だけを見てきました」



ウォールマリアが破壊され、人々が混乱に陥ったあの日。

目の前まで伸びてきた巨人の手を前にして、少しも動くことができずにいた私を助けてくれたのはリヴァイさんだった。


すぐに去っていく背中を呼び止めることなどできずに、私は彼を見送った。




その日から頭の中は彼のことばかり。
リヴァイ兵長という存在は有名だったから以前から知っていた。

彼に少しでも近づきたいと思ったから、訓練兵に志願もして、なんとか調査兵団の仲間入りをした。




あの日から何年経ったろう。
それでも私の想いは、少しも色褪せていない。



「…急に呼び出して、何を聞かされるのかと思ったが。…そうか」



初めてリヴァイさんが口を開いた。



「知っての通りだが、俺は調査兵団の一員だ。いつ死ぬかも分からねえ、明日にはいなくなってる可能性だってある」

「…」

「お前が俺にとってどうでもいいヤツなら、今すぐ愛を囁いて抱いてやってもいいが…。そうじゃねえのが問題だ」

「…それって…」

「いいか、よく聞け。一度しか言わねえ」



リヴァイさんの背中が壁から離れた。
私と向き合う形で立つと、その鋭い視線と私の視線が交錯する。



「ユリ。俺もお前を大事に思っている。だからこそ、俺を想うのはもうやめろ」

「!…」

「できることなら兵団も辞めて、街で静かに暮らすことを選べ。…そして他の誰かと、幸せになれ」



気持ちが高揚したのはほんの一瞬で。
その後に続いたリヴァイさんの言葉に、私の頭の芯がどんどん冷たくなっていくようだった。



「…話は終いだ」

「じゃあ、今すぐに私を好きだと言って、抱いてください」

「あ?話を聞いていたのか?俺はお前を…」

「リヴァイさんを想う事が許されないなんて嫌です!それなら貴方にとってどうでもいい人間になりたい。それでいい」

「ユリ…」

「それなら…私に触れてくれますか…?」



一貴方を想い続けることを、許してくれますか。



涙で滲んだ視界に、リヴァイさんの姿が浮かぶ。
戸惑いと、迷いと…あと何か分からないような感情を混ぜたような表情だった。



「人類最強も…そんな顔をするんですね」



そう言って、へらっと笑う。
その拍子に目の端から涙がこぼれたけれど、そんな事は構わなかった。

リヴァイさんはそれを聞いて、険しかった表情を少し和らげると、私の身体を緩く包み込んだ。



「お前には敵わねぇな」

「リヴァイさん…」

「こうなった以上、命令だ。俺が死んでも、俺を想うことをやめるな」

「…はい」




頷いて、リヴァイさんの肩に額を預ける。

額から伝わってきた彼の体温が愛おしくて、私はまた少し、涙した。





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