憂いなんて飲み込んで





最近のアキラ君は、いつも表情が険しい。
一緒にいてもどこか上の空で、たまに私の話なんて聞いてないんじゃないかって時すらある。

そんな時、「疲れてるのに会ってくれてありがとう」と言葉を彼に投げてから、私は内心で悲しい気持ちに沈むのだった。


今だってそう。
座卓を挟んでお互いに向かい合って座っているけれど、アキラ君の視線は私を映しているようで映していない。違うことを頭の中で懸命に考えているみたいだ。

こういう時、どう言葉をかけていいのか分からない。所在なく目の前にある湯呑みから立ち上っている湯気を見つめていると、不意にアキラ君の声が耳に触れた。


「…ユリさん?」
「うん?」
「どうしたの?なんだかぼうっとしてるね」
「え……」


アキラ君が考え事をしていたみたいだから、話しかけられなかったんだよ。そう言えたらとても楽なのに。

きっと彼が考えているのは囲碁のこと。
彼は囲碁のことになると本当に熱心だというのは知っている。

だからこそ余計に何か口を挟むわけにはいかないし、残念ながら私達は交際してそう長くなく、思ったことを素直に言い合えるような間柄にはなれていない。


「…そう、かな?」
「うん。何か考え事?」


考え事をしていたのはアキラ君の方でしょう。
邪魔をしないように、話しかけずにいたんだよ。


「ううん、なんでもないよ」


そう言って微笑んでみせると、アキラ君はあまり納得していないような表情を見せた。


「ユリさん」


座卓の上に置いていた右手を、彼の手がそっと包む。
思わず顔を上げて彼の顔を見ると、少し眉根を下げて私を見ているアキラ君が目に映った。


「遠慮しないで。ボクはユリさんと、何でも言い合える関係になりたい」
「アキラ君…」


彼のまっすぐな視線に心が打たれて、心の内を打ち明けてしまおうか、と思う。けれど、すぐに「でも」と思い直した。私のせいで、彼の囲碁に対する情熱に水を差すのは嫌だ。

それなら気持ちを伝えず黙ったまま、抑えてやり過ごすのがいい。自分の中でそう完結させて、私は彼が添えてくれた手に自身の手を添えた。


「本当に、なんでもないの。ありがとう」
「そう?それならいいけど…」


私の言葉を鵜呑みにしていない事が伝わってくる。けどそれでも、この場は一度納得する事にしようと思ったのか、アキラ君は私に微笑みかけて言った。


「そうだ、ユリさんのために、ケーキを買っておいたんだ。美味しいって評判なんだって」
「え?そんな、アキラ君忙しいのにわざわざ…?」
「ユリさんのためだもの」


アキラ君は「ちょっと待ってて」と言うと腰を上げ、台所の方へと消えていった。


飲み込むことにした私の気持ちは、いつか堪えられずに溢れ出すのだろうか。その時アキラ君は、どんな反応をするのだろう。

その「いつか」を想像して、憂いが込み上げる。
けれど嬉しそうな顔をしてケーキの箱と小皿を手に戻ってきたアキラ君を見ると、今はこの思いを忘れられる気がした。



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