冷たくて、甘い
じめじめと蒸し暑い日々が続く。
夜になると多少涼しくはなるものの、湿度が高いため少し動いただけでも汗をかいてしまうから嫌なものだ。
「最近あっちーな、ホント」
扇風機の前に私と並んで座っていた和谷君が呟くように言った。私は「ホントにね」と言葉を返し、窓の外に視線を移す。空は墨に塗られたようにとっぷりと黒く、星がちらちらと光っているのが見えた。
「アイス食う?ユリが好きなヤツ、買っといたぜ」
「え!ほんと?」
「ああ。待ってろ」
よっ、と和谷君が立ち上がり、冷蔵庫に向かう。
その後ろ姿を見守っていると、すぐに彼が袋を手に持って戻ってきた。
「ホラ」
「あー!アイスの実!しかもいちご味っ」
「そ。コンビニで見かけて買っといた」
「やったー!ありがとう」
前に一緒にコンビニに行った時、このアイスが好きだという話をしたような気がする。そんな些細な会話を覚えていてくれたんだと思うと嬉しかった。
袋を空けて、一粒アイスをつまむ。
それを口に含むと途端にいちごの甘酸っぱさとアイスの冷たさが広がって、私は思わず顔を綻ばせた。
「おいしい」
「良かった」
「和谷君も食べる?…」
そう言い終えるか終えないかくらいのところで、和谷君の香りをふわりと感じた。あれ、と思うまもなく、すぐ間近に和谷君の顔。
柔らかい唇が重なる。
それはほんのり温かくて、けど私の唇はアイスのせいで冷たくて、なんだか不思議な感覚だ。
「甘い」
唇を離すと、彼はぽつりと言葉を溢した。
その声色は優しくてどこか甘やかだ。
「ずるいよ。…不意打ち」
「悪ィ。ユリが可愛くて、つい」
そんなことを言われると、怒れなくなってしまう。いや、そもそも怒ってないんだけど。
どう言葉を返そうか迷っていると、「溶けちまうぞ」と和谷君がアイスの袋を指差した。
確かにそうだ、と思い、アイスを摘んで口に含む。
和谷君もどうぞ、と袋の口を彼に向けたけれど、彼はそれに手を伸ばさなかった。
代わりに、再び柔らかい感触が唇に触れて。
混ざり合ったところから、また、不思議な感覚が広がった。
それは冷たくて、甘い。