片恋
ユリのことをつい目で追ってしまう自分がいる。
一体、いつからだろう。
「…でね、対局中にフク君が読み違えて、あー!待って!!ヘンなトコ打っちゃった〜≠チて言ったんだよ」
「ハハ、マジか」
ユリと伊角さん。
オレと進藤の前を並んで歩く2人の背中。
楽しそうに笑うユリの横顔が視界に入ると、胸が高鳴ると同時に嫉妬心が湧き上がってくるのを感じる。
隣にいるのはオレじゃないんだから、そんな楽しそうな顔を向けないでくれ。
「和谷?」
「え?」
「んだよ、オレの話聞いてた?ハラ減ったからマック行こうぜっつったの」
声をかけられてふと我に帰ると、進藤が隣で口を尖らせていた。慌てて「ああ、いいぜ」と返す。マック寄るんなら、きっとユリも来るだろう。そうしたらもう少し一緒にいられる。
「それでね、結局私の勝ちだったんだけど、フク君がそのあとずっと落ち込んじゃって」
「うん」
「落ち込まないでってジュース買ってあげたら、すぐ元気になってた」
「単純だな、アイツ」
そんな事があったのか。
そういえば昨日フクのヤツ、缶ジュース片手に嬉しそうにしてたような。
ユリの事ならどんな事も知りたい。
そんな何気ない日常の話の一つでさえ、オレに聞かせて欲しいと思う。
「ん?」
「!」
「なぁに?和谷君」
「い、いや別に」
オレの視線に気づいたユリが、足を止めてオレの方を見た。
「進藤がさ、マック行かないかって。ユリも伊角さんも一緒に行かね?」
「あ!いいねー!」
「オレもこの後は予定ないし、いいよ」
「よし、じゃあ決まりな」
「うん!」
ユリは笑顔で頷くと、踵を返して再び歩き出す。
この気持ちに気づかれてしまったら、今みたいに気楽に会話ができる関係が崩れてしまうかもしれない。
同じ院生同士。
その中でもオレたちは仲が良くて、たまにこうして棋院帰りに遊んだり、昼メシを食べたりしてる。
そう、今の関係も悪くはないはずなんだ。
オレがただ、前と違って欲張りになってしまっただけ。今より少しでもユリに近づきたいだけ。
…それなのに、こんなにも胸が苦しい。
その手を取って、手を繋いで、君の隣を歩けたらどんなに幸せだろうか。
「和谷君、進藤君、早くー!」
いつの間に少し距離が空いてしまっていたのだろう。
先に到着した、離れたところから手を振っているユリを見たら、また少しちくりと胸が痛んだ。