キスの温度



「ユリの手は冷たいな」


授業からの帰り道、ブルー寮に向かう途中。ヨハンは不意に私の手を取ってそう言った。


「うん、よく言われる」
「いつもそうなのか?」
「冷え性だから大体そうかも。冬なんかね、氷みたいに冷たくなっちゃうんだ」
「そうなのか。女の子は身体を冷やすとよくないって言うのに、大変だな」
「私の手とは逆に、ヨハンの手はあったかいね」


いつも、「細くて長くて綺麗だな」と思いながら見ている彼の指。その彼の指は、いま私の指を緩く絡め取っている。


「なぁ、少しオレの部屋に寄って行けよ」
「うん。そうしたいな」


今日の授業は全部終わったし、あとは部屋に帰ってゆっくり寛ごうと思っていただけだったから、ヨハンのお誘いは嬉しかった。



部屋を開けて中に招き入れてもらうと、清潔に使われている様子がそこにあった。ヨハンの性格からして、もっと散らかしていそうなイメージがあったのだ。


「なんだよ。意外そうな顔して」
「…綺麗にしてるんだな、と思って」
「そりゃあな。ずっとここにいるわけじゃないんだし」


その言葉に、胸が少しちくりと痛んだ。そう、ヨハンはアークティック校の留学生なのであって、デュエルアカデミアの生徒ではない。だから期限が来れば、いずれは向こうに帰ってしまうのだ。


「…ユリ」
「?」
「ここ。座れよ」


ソファに腰を下ろしたヨハンは私を見上げ、自身の隣のスペースを指差した。その言葉に従い隣に腰掛けると、ヨハンはにこっと笑って私の身体に腕を回した。


「…わ、どうしたの、いきなり…」
「ユリがそんなカオするからだろ」
「そんなって、どんな…」
「寂しそうな顔」
「…」
「大丈夫。向こうに帰っても、すぐまた会いに来るさ」


ヨハンは私の目を覗き込んで優しく笑ってくれた。その綺麗でまっすぐな目が、私は大好きだった。


「…約束だよ」
「ああ」


軽く頷くと、ヨハンは私の頬にそっと手を添えて、そのまま軽く首を傾けて唇を重ねてきた。なんとなくキスをされるかもしれないとは思っていたけれど、いざされてみると、どきどきして胸が苦しくなってしまう。


「…っ」
「…オレだって緊張してるんだぜ」
「うそ…全然余裕に見えるのに」
「そんなことないって。ほら」


困ったように眉根を下げた彼は、その胸板に私の手のひらを軽く乗せた。指先を伝って、どきどきと彼の鼓動を感じる。その鼓動の速さに驚いたけれど、それよりもヨハンの男性らしい体つきについ胸が高鳴ってしまった。細いのに、やはり男の子なんだな、と思う。


「な?」
「…うん」
「…こんな風になるの、ユリの前だけだぜ」


まっすぐな眼差し。ずるい、と思ってしまう。私だってヨハンの事が好きでたまらないのに、私ばかり彼にやられてしまっている気がして。


「…ん?さっきより手、あったかいな」
「あ…ほんとだ」
「なんだよ。もしかしてオレのせい?」
「…っ、そう、だよ」


顔が赤くなるのを止められなくて、少し目線を逸らした。視界の隅でヨハンが柔らかく笑ってくれたのが見えて、そのあとすぐに彼の顔が近づいてきた。


「…ん」


今度はさっきよりも少しだけ深くて、2回ほど軽く唇を吸われる。ちゅ、というその音は、私の身体を熱くするには十分すぎるほどだった。
そしてそのままぎゅっと抱き寄せられると、ヨハンは私の耳元で囁いた。


「どこにいても、オレがすぐユリを抱き締めに行くから。信じてくれよ」
「…うん…。ありがとう、ヨハン」


彼の背中に手を回して少し力を込めると、より一層一つになれたような気がした。


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