宵のせいにして



「え?レッド寮でパーティ?」
「ああ。ユリも来るだろ?」


授業からの帰り道、ヨハンから聞いた話によると、今日の夜からブルー寮でパーティが開かれるらしい。けれどその招待状は、ブルー寮とイエロー寮にしか届いておらず、レッド寮にまで行き届かなかったらしい。
そのため十代が行くことができず、それならいっそレッド寮で各々勝手に盛り上がろうじゃないか、という話になったらしい。


「うーん…どうしようかな、一応招待状は貰ったし…」
「いいじゃないか、来てくれよ。オレはユリが来てくれた方が嬉しいな」
「でも向こうのも気になるしなぁ…」


なんでもブルー寮で行なわれるパーティは、ガラム財閥のアモン・ガラムが主催したらしい。もしかしたら彼のデュエルを、そこで見ることが出来るかもしれないのだ。


「じゃ、向こうのパーティをちょっと覗いてから行くよ。それでも良い?」
「ああ、分かった。なるべく早く来てくれよ」
「うん。じゃ、あとでレッド寮で」


そう言ってヨハンと別れて、私はブルー寮へと向かった。
中へ入るとすでにパーティは始まっていて、みんながそれぞれ料理を食べたり談笑に興じているようだった。


「あ!ユリ先輩」
「レイちゃん、来てたんだね」
「はい。ユリ先輩は一人ですか?」
「うん。用があるからすぐに出てくけどね」
「そうなんですか」


辺りを見回すと、剣山君、マルタン君、明日香先輩、その他ブルー寮の生徒が数人いた。参加率は結構いいらしい。

壇上を見ると、アモン・ガラムが何やら生徒と話していた。しばらくは今のような談笑タイムが続いて、それからデュエルをするのかもしれない。あるいはしないのかもしれない。どっちにしても、望んだものを今すぐに見ることは叶わなそうな雰囲気だなと思ったので、私は適当に飲み物をグラスに注いで飲むことにした。


「(?ジュースにしては不思議な味がする)」
「ユリさん、来てたんだね」
「あ、レノくん」


声をかけられて振り向くと、そこには同じブルー寮のレノ君がいた。控えめな性格だけれど爽やかな笑顔とその見た目で、割と女子から人気のある生徒だ。


「あの、もし…よかったら、このパーティを抜け出して少し話さない?」
「え?話?」
「うん。…だめかな?」
「それは今話せないことなの?」


そう尋ねると、レノ君は妙に真面目な表情で頷いた。


「少しでいいんだ。ここだと…ちょっと」
「…でも…私、このあとー」
「悪いな。ユリはオレが予約済みだ」
「!ヨハン…」


申し訳ないがレノ君の誘いを断ろうとした時、そこにヨハンが現れた。


「ほら、行こうユリ」
「う、うん…ごめんね、レノ君」


呆気にとられたレノ君が何かを言う前に、ヨハンは私の手を引いて歩き出した。



そのままブルー寮を出て外に出ると、ようやくヨハンは手を離してくれた。


「…少し無理やり連れてきたみたいになっちまったかな」
「ううん、大丈夫。断るつもりだったし」
「そっか、良かった。あいつには悪いことしちまったけどな」
「なんだったんだろうね、話って」
「え?あいつが何を話そうとしてたか、気付いてないのか?」
「えっと…うん」
「ユリって鈍いんだな。好きになった奴は大変だ」


少し呆れたように笑うヨハン。なぜだか突然、自分の心臓がどくどくと波打ってきたのを感じた。頭の芯がぼうっとしてきて、頬が火照ってきているのを感じる。


「…っ…」
「ユリ?どうしたんだ?」
「…ヨハ、ン…」


足元がふらついて転びかけたけれど、ヨハンが肩を抱いて支えてくれた。立っているのが難しいのが向こうにも伝わったらしく、支えてもらっている状態のまま、その場に座り込んだ。


「ユリ?…もしかして、酒を飲んだのか?」
「お酒ぇ…?…あー…」


そういえば、さっきのパーティで飲んだもの。ジュースだと思っていたが、あれはお酒だったのか。


「(どうりで変な味がすると思った…)」
「少しここで休んで行くか?」
「んー…ありがとヨハン」
「っ…!」


頭の芯がとろけていく感覚。なんだかとても気持ちが良くなって、触れたくなって、私はヨハンの身体に腕を回してしがみついた。


「お、おい、ユリ!」
「ん…ヨハン、赤くなってるぅ」


男の子なのに、ヨハンからはいい香りがして。その耳を見ると、真っ赤に染まっていた。


「赤くもなるぜ、そりゃ…」
「?」
「…ユリ」
「…ん…」


ヨハンの真剣な声と、真剣な顔が降ってきたかと思うと、次の瞬間、唇に柔らかい感覚があった。それはほんの一秒に満たない程度で離れていったけれど、その熱は私をじんと痺れさせるには十分だった。
そしてそのままヨハンの腕に抱きしめられる。心臓がどくどくと波打っているのが、お酒のせいなのか、緊張のせいなのか分からなくなる。


「…ヨハン…?」
「悪い…抑えられなかった。…忘れてくれよ」


今までに聞いたことのない、切なさが混じった声。そしてヨハンの体温を感じたまま、私は意識を手放したのだった。



ー翌日ー

「あ!おはようヨハン!」
「…あぁ、おはよう」
「あれ?顔赤い…?」
「な、なんでもない!」
「?変なの…」


進展するのは、きっともう少し先の話。



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