君の背中



「…」
「…んー」
「おーい、ユリ?」
「…まだだめ」


ヨハンの問いかけに、ユリは呟くように答えた。寮の部屋でデッキ調整をしていたヨハンの背中に手を回して、そこに顔を埋めたり頬をすり寄せたりしている。

先程からずっとこの調子で、ヨハンはカードとにらめっこをしている合間合間にこうして声をかけていた。


「さっきからずっとじゃないか。いつまでそうしてるつもりなんだ?」
「…気がすむまで」
「なんだそりゃ」


ま、いいけどさ、とヨハンは微笑みながら言った。
男性にしては高めのその声。背中に耳を当てた態勢でいると、それが背中越しに振動して体温と一緒に伝わってきて、それがたまらなく心を満たしてくれるのをユリは感じていた。


「…んー、やっぱこっちのがいいかな」


カードを置いたり手に取ったりするので、ヨハンの身体は多少前後に動く。それでも隙間をあけまいと、ユリはぴったりとくっついていた。

細身だけどしっかりと筋肉がついていて、自分とは違ったその身体つきを、異性として意識せずにはいられない。今度は逆にその腕で抱き締めて欲しいだなんて、欲が出てきてしまいそうになる。
そうなってしまう前に、とユリは回していた腕を解いて距離を置いた。


「…ん、もういいのか?」
「…うん、ありがとヨハン」


本当はまだそのままの体勢でいたかった。
けどそれを軽々しく口に出して伝えてしまえるほど、ユリは我儘ではなかったし、図々しさを表に出せるような性格でもなかった。

今日は十分に体温を感じることができたのだからそれで満足しなければ、と自分に言い聞かせて立ち上がろうとした時、腕を掴まれたのを感じた。

驚いて振り返ろうとする間もなく、ふわりと背後からヨハンの腕が回されて、そのまま緩く包み込まれる。


「待てよ」
「…!」
「ユリばっかずるいぜ。オレだってこうしたい」


耳をくすぐる、少し悪戯っぽさが混じったヨハンの甘えた声。それだけでぎゅっと胸が締められるのだから、本当に彼の事が好きなのだと改めて思う。

首筋にヨハンの頬の感触がして、くすぐったさと照れくささで思わず首をすくめる。それに合わせたようにヨハンの腕の力が強められて、抱きすくめられる形になった。


「…なんかいいな、この体勢」


先程までとは逆転した体勢。
今度は背中越しにヨハンの心音がとくとくと伝わってくるのを感じる。
抱きしめている側でも良かったけど、抱きしめられる側もとても幸せだ、と思った。


「デッキ調整はもういいの?」
「まぁ、大体は終わったんだけどさ。ユリが行っちまうと思ったら、こうしたくなった」
「…そっか」


普段、ほかのアカデミアの生徒たちの前では決して出さないような甘えたトーン。こんな声を聞く事ができるのは、自分の特権なのだ。

本当は胸の鼓動が激しくて、平静を装うのにも一苦労だった。それでも手を離された後の事を考えると、1秒でも今この時間が続いて欲しいと思ってしまうから不思議だ。


そっと、自身の身体に回された彼の腕に手を乗せて目を閉じる。

また明日、ヨハンの背中に身体を預けに来たい、とユリは心の中で小さく願った。

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