片恋の夜
星が綺麗な夜だった。
ポッポタイムにご飯を作りに来ていた私は、そのままついでにみんなと一緒に食事を済ませてガレージを後にしようとしていた。
「いつもありがとう、ユリ」
「お前にしては中々上出来の味だったぞ」
「ユリ、今日も美味い飯ありがとな!」
遊星もジャックもクロウも、こうしていつも入り口まで見送りに来てくれる。そして私は軽く手を上げてみせて、別れの挨拶を口にするとそのままガレージを後にする。それが毎回の光景だった。
「…」
「遊星?」
けれど今日は違った。
ジャックとクロウが踵を返してガレージ内に入っていったというのに、遊星はその場に留まったままでいるのだ。
クロウも不思議に思ったのだろう、振り返って遊星に声を投げた。
「おーい遊星、どうした?」
「…少しユリに話があるんだ。すぐ終わる」
「ふーん。じゃ、後でな」
特に気にする様子もなく、納得したように2人はガレージの下へと降りていった。
そして残された遊星は私と向き合い、じっと私を見下ろしている。
「…どうしたの?」
「いや…送るよ。家まで」
「嬉しいけど、それは大丈夫だっていつも言ってるのに。ここからすぐ近くなんだから」
ほんの5分も歩かない程度の距離に、私の家はある。ここへ来るたびに遊星は「送る」と言ってくれるけど、申し訳なくて私は毎回断っていた。
「それより話って?」
「…こっちに」
「…遊星?」
質問の内容に答えることなく、遊星は私の手を引き、入り口から少し離れた場所へと移動した。
ポッポタイムの外壁と遊星に挟まれるようにして立つ。遊星は意を決したように顔を上げてこう言った。
「…聞いてくれるか」
「うん、どうしたの?そんなにあらたまって」
「オレは…」
そう言いかけたのに、そこから先は言葉に詰まってしまったようだった。言いたくても言えない、そんな様子だ。
よほど大事な話か、何か相談事なのかもしれない。だから緊張して言い出せないのだろう、と思った私は、おどけて言った。
「なになに。あっ、もしかして私のことが好きとか?もう遊星、照れちゃうよそんなのーっ」
苦笑いを浮かべて、少し呆れたように「いや、そうじゃなくてな」と言ってくれるのを期待してた。そうすれば空気も軽くなるし、いくらか話が切り出しやすいかなと思って口にした言葉だった。
「…」
「…ゆ、遊星?」
けど期待していたような言葉は降ってこなくて、代わりに遊星は押し黙ってしまった。そして薄闇の中でも分かるくらいに、頬が赤く染まっていく。
「え、っと…?」
「…知ってたのか」
「いや、知ってたわけじゃない…けど…」
なにかの冗談かと思ったけど、遊星のその表情を前にしてそんな考えはすぐになくなってしまった。これは本気だ、と思った。
「…ずっと言おうと思ってた。でも中々言い出す機会も、度胸もなくてな」
「…ほ、ほんとに?」
「え?」
「ほんとに、私のこと…?」
「…ああ」
私の目を見据えて小さく頷いた。
遊星が本気だというのは嫌という程伝わってくる。そもそも遊星は冗談なんて言うようなキャラじゃないし、こんな嘘をつくような人間では決してない。
「…ユリはオレの事をどう思っている」
「え…」
「聞かせてくれ。オレはもう…」
一歩、また遊星が距離を縮めて。
その腕を壁に預けて、逃がさないとでもいうように私を閉じ込める。
「自分の気持ちを、抑えられない」
「っ…ま、待って、遊星」
遊星の顔がゆっくりと近づいてきて、私は慌てて彼の肩に手を置いた。それで動きは止まってくれたけど、その真剣な眼差しは変わらなかった。
「私…遊星はアキちゃんの事が好きだと思ってたの。それに…」
それにアキちゃんは遊星の事が好きだ。
表立って話してくれたことはないけど、彼女を見ていればすぐに分かる事だった。遊星はそれに気づいているのかは知らないけど。
「…アキは大事な仲間だ。それ以上でもそれ以下でもない」
「…」
「オレは…、ユリだけを見てた。ずっと」
ぎゅ、と頭の上で拳が握りしめられる音がした。こんな遊星は今まで見たことがなかったし、私に思いが向けられていたのも今初めて知った。
どうすればいいのだろうと頭の中が混乱し始めた時、アキちゃんの笑顔がふっと脳裏に浮かんできた。ー私は、彼女の気持ちを傷つけることはできない、と思った。
「っ…ごめん、遊星!」
「ユリ!…待ってくれ、ユリ!」
遊星の身体を押しのけて、私はその場から走り去った。遊星の気持ちは嬉しかったけど、友達を傷付けることがそれと同じくらい怖かった。
「…はぁ、はぁ」
追ってくる気配はなかった。
私は膝に手を置いて乱れた呼吸を整えようとしたけれど、ぎゅっと胸を掴まれるような感覚に襲われてそのまま崩れ落ちた。
遊星から向けられた、熱情の込められた瞳が私の胸を焦がしている。
綺麗な星空を仰いで、私は大きく息を吐いた。
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