Chrush on you
ずっと、アイツは仲の良い幼馴染だった。
それが「何か違う」と感じ始めたのはつい最近のことで、そしてそれが何なのか分からないほど、オレはもう子供ではないつもりだ。
ユリが遊星やジャックと話したり、笑い合ったりしているところを見るとやたらイラつく。ほら今だって、そんなに無邪気に無防備に笑いやがって。…くっそ。
「おいどうしたんだ、クロウ」
少し離れたところからそんな様子を見ていたオレを見て、遊星が声をかけてきた。苛つきは恐らく顔に出ていたのだろう、遊星は訝しげに視線をこちらに向けている。
配達の仕事を終えて帰ってきたのはつい今しがたのこと。WRGPに向けて、Dホイールの開発のために資金を稼ぐべく日々働いている。
今日の分をすべて終えてポッポタイムに戻ってきたオレは、一休みすべく部屋に向かう途中だった。それが帰ってくるなり遊星と楽しそうに話すユリの姿があって、思わずその光景をじろじろと見ちまったんだ。
「クロウ、たくさんお仕事して疲れてるの?大丈夫?」
軽い足音を立ててこちらに駆けてくるユリ。途端に嬉しいという気持ちがこみ上げてきたけど、やっぱり苛立ちは完全に消えてはくれなかった。
「…べっつに。何でもねぇよ」
「え…」
「オレは部屋に行って休む。じゃーな」
「あ、クロウ…」
呼び止めるユリの声を無視して上の階に上がり、部屋に入る。後ろ手でドアをいささか乱暴に閉めたあと、ベッドに倒れ込んだ。あーあ、やっちまった。オレ完全にカッコ悪ィ奴じゃねぇか。
「…はー…」
額に手を当てて、ぐしゃりと髪を握ってため息をつく。どうしてこうなるんだ。オレはせめて、ユリの前ではカッコ付けてたいってのに。
「…クロウ?私」
疲れた身体をベッドに横たえてぼうっと天井を眺めていた時、ドア越しにユリの声がした。
「入ってもいい?」
「…ああ。構わねーぜ」
若干の気だるさを纏う身体を起こして、ベッドの上に座る。するとドアを開け、こちらを窺うようにしてユリが部屋に入ってきた。その手にはマグカップがひとつ握られている。
「クロウ、疲れてるのかなって思って。ココア淹れてきた」
「おー、サンキュ」
「いつもご苦労様。はい」
湯気の立つマグカップを受け取る。
ユリは昔からいつもこうだ。オレが疲れているような様子を見せると、気遣って温かいものを淹れたり、労いの言葉を掛けたりしてくれる。そんな優しさに、オレは昔から救われてきた。
マグカップを傾けて、慣れ親しんだ味のココアを飲み下す。ほっとするような甘さが身体の中にふわっと広がるのを感じた。あー、やっぱコレだな。
「…クロウ」
「ん?どうした?」
「なんか、その…さっき、怒ってた?」
おずおずと尋ねるユリ。
大方、自分が何かやってしまったのかと勘違いをしているんだろう。コイツはそういう奴だ。
「いーや。怒っちゃいねぇよ」
「そ、そう?」
途端に、ほっとしたように表情を和らげる。
オレの嫉妬なんかでユリに心配させちまったことを後悔した。オレも態度改めねぇとな。
「なぁユリ、こっち来てくんねぇか」
「え?うん…」
サイドテーブルにマグカップを置く。
指先でちょいちょい、とこちらに来るよう指示をすれば大人しく従った。そしてベッドに座るオレの前に立つユリの手を取り、その手の甲に音を立てて軽くキスをした。
「…く、クロウっ?!」
「へっ。どーだ」
ユリを見上げて、ニヤリと笑って見せる。
そう、クロウ様はやられっぱなしじゃねーんだぜ。コレで少しはお前もオレの事を意識しやがれってんだ。
「…っ」
あ、あれ。
「もう、何ふざけてんの」っつー感じの言葉待ってんだが。そんで怒るか呆れるかくらいの反応が返って来るかなって思ってたんだけど。
みるみるうちに赤くなってくユリの顔。
片手で口元を抑えて、少し潤んだ瞳でオレを見下ろしている。あ、その表情ヤベェな、なんてちょっと場違いな事考えた。
「…も、戻るね」
消え入りそうな声でそう言って、ユリは小走りで部屋を出て行った。去り際に見えたアイツの耳まで真っ赤だった。
「…なんだよ」
どくどくと波打つ鼓動を感じながら、ベッドに仰向けに倒れる。意識させようと思ったつもりが、コレじゃ逆効果じゃねぇか。
くそ。アイツの中も、オレで一杯になりやがれってんだ。
そのまま夜は更けていって、ようやく眠りにつけたのは数時間後の話だった。
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