伊達男なら女を困らせるな



薬研の苦労もあり、今日の夕飯の豚の生姜焼きは無事に完成した。

薬研が担当したキャベツの千切りは、山のようになっていて、その半分を宗三が当たり前のように別のボウルに入れ、自分の傍らに置いたのを見たのは、正直驚いた。

彼は本当にそれだけのキャベツを消費するらしく、鈴は信じられない表情を見せた。
あの細い体で、あれだけのキャベツを胃に納めようとしている。

大倶利伽羅は、まあ、納得は出来る。
彼は沢山食べそうなイメージがあるから。

鶴丸も意外だったが、細い割に上背があるから、沢山食べても違和感はない。

けれど、あの宗三だ。
細く儚げな見た目からは、全く想像が出来ない。

想像出来ないからか、半信半疑でいたが、いざ食べる時になったら信じざるを得なくなった。

粟田口の刀剣達は、柔らかな豚肉に絡み付く、甘辛いタレに頬が落ちそうだ、と幸せそうに表情を緩めながら口を動かし。

三条の者は、目を輝かせながら、口に運んでいた。


「三日月さん、小狐丸さん、味はどうかな、濃くない?」


夕飯を決める際、あっさりとしたものが食べたい、と言っていた三日月。
けれど、いざ自分達が食べてみると、結構味が濃いように感じ、不安になった燭台切が三日月にそう訊ねた。


「うむ、濃いと云うことはないぞ」

「ええ、野菜と一緒に食し、肉と白米を一緒に食せば、丁度良いです」


にこにこと笑みを浮かべながらそう言った三日月と小狐丸に燭台切は、安心したかのように胸を撫で下ろした。

そのまま左文字の方を見ると、豚肉を美味しそうに頬張り、白米を豚肉で巻き、それを口に放り込むその様子は、口に出さずとも旨いと物語っていた。
小夜に豚肉を一切れずつ分け、兄二振りはタレとキャベツを絡め、黙々とキャベツを消費していた。


「燭台切殿」

「なんだい?」

「このタレは、まだありますか?」

「タレ、かい?」

「ええ、タレです」


しょぼん、とした宗三を見ると、彼の皿の上にタレは残っておらず、その彼の傍らにはまだキャベツが一山あった。
彼はどうやら、このタレにキャベツを絡めて食べるのが気に入ったらしく、豚肉の追加の要望ではなく、タレの追加を希望してきた。

燭台切は苦笑いを浮かべたが、どこか嬉しそうで、ちょっと待ってて、と言うと台所へと向かった。

その遣り取りを見ていた鈴は、ちらり、と伊達の刀である、大倶利伽羅と鶴丸へと視線を移した。

その瞬間、鈴の動きは止まった。

彼ら二振りが大漢食なのは、初日から知っていた。
足りない、と不満気に頬を膨らませていたぐらいだ。

だから、この二振りには、皿には山になるぐらい豚肉を乗せたし、その皿も今皆が使っている物より二回り近く大きな皿だった。
白米も丼茶碗に山を作って出し、二振りのおかわりも想定して多目に炊き、おかわり用のお櫃も彼らの側に置いておいた。

それなのに、生姜焼きの皿には殆ど豚肉は残っていないし、マヨネーズも半分無くなっていて、お櫃の白米も残り3分の1程になっていた。

食べていない時の反動なのか、それとも、元からこれぐらい食べていたのか。
鈴は分からない事だが、他の面々の様子を見るに元からこれぐらい食べていたのだろう、特に驚いた様子もなく、気にもしていなかった。

少々カオスな気もするが、鈴は大人しく食事を口に運びながら、他の面々の食事風景を眺めていた。

少しして、燭台切がタレだけを作って戻って来て、それを宗三に渡すと、宗三は目を輝かせふにゃりと幸せそうに微笑んだ。

カオスだが、平和で幸せそうな光景に、鈴は此処に来た意味があった、と心から思えた。

食事も終え、汚れた食器を纏め、一度台所へと行き、お湯に食器を浸け、人数分のお茶を皆に注ぐと食後の満腹感から、眠そうに目をしょぼしょぼさせている刀剣男士が目立ってきた。

それは主に粟田口の短刀なのだが、眠たいのを堪え明日は何をしよう、と話し合っている光景はキラキラと輝いていて、”明日”を楽しみにしているようだった。

そんな光景を見て微笑ましく思っていた手入れ師だったが、問題は目の前の一振りの刀剣男士だった。


「先に湯浴みしてきて…、ね?」

「私は最後に頂きますので、燭台切様が先に…!」

「女性のキミに男が入った後のお湯なんて使わせたくないんだよ」

「男性が使った後のお湯なんて実家で慣れてます!そもそも、女である私が男性を差し置いて先に頂くなんて出来ません!!」


繰り広げられる、伊達男の意地と女の意地の張り合い。

特に流されやすい傾向にある鈴が、ここまで自分の意見を通そうとしているのは初めてみたし、意外と頑固なんだな、と、この遣り取りを見て感じたのは当然とも言えた。

いつまでも続きそうなこの遣り取りに、どう決着を付けさそうか、薬研と鯰尾を中心に粟田口会議が始まりそうになった時だった。

無口で無愛想がデフォの龍を飼っている男が行動に出た。

彼は、鈴が夕方に買った新しいバスタオルを手に取り、それを力一杯、燭台切に投げ付けると、ぼすん、と音を立てて燭台切の顔面に直撃したそれは、重力に従って、燭台切の膝の上に落ちた。

しーん、と静まり返った広間。

薬研、鯰尾、宗三は笑いを堪えるので必死になり、骨喰、三日月、小狐丸、江雪、小夜は目を丸くし口を開ける程。
同じ伊達の刀の鶴丸は、顔を覆い溜め息を吐き、タオルをぶつけられた燭台切は何が起こったのか分からない様子で目をパチクリさせていて、目の前でそれを見てしまった鈴は思わず口を自分の手で塞いでいた。

あまり表情の変わらない骨喰のこの表情はとても貴重で、こんな状況でなければ、写真の一枚にでも納めていただろうが、今はそんな事が出来る状況じゃない。
驚きつつも、冷静だった乱は、心の中でそう思った。


「か、らちゃん………?!」


鈴よりも先に我に返ったのは、燭台切だった。

自分の膝の上に落ちたタオルを自慢の握力で握り締め、プルプルと震えながら大倶利伽羅を見上げた。

大倶利伽羅はそんな燭台切を見下ろし、眉を片方吊り上げると、ふん、と鼻から息を吐いた。


「先に光忠、お前が入れ」

「ちょっ、伽羅ちゃん?!」

「伊達男なんだろう?女を困らすな」

「うっ……」


一瞬で解決してしまった。

大倶利伽羅の言葉に燭台切はぐっ、と言葉に詰まり、小さな消え入るような声で分かった、と言った。

それに満足したのか、大倶利伽羅は小さく息を吐くと再び腰を下ろした。

一体なんだったのか、分からない内に解決してしまい、鈴はパチパチと瞬きを繰り返し、頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。


「って、事だ。お嬢、先に風呂もらうぜ」

「え、あ、はい、いってらっしゃい…?」

「おう、いってくるぜ」


くっくっくっ、と喉で笑いながら、薬研がそう言ったが、やはり鈴は分かっていないらしく、終始、間の抜けた声で返答し、それに薬研が噴出した。
薬研は堪えきれない笑いを必死に堪えているようだが、目尻からは今にも涙が零れそうだし、声は引き攣り何度も咽ていた。

そうなりながらも、宗三に目で合図すると、宗三も肩を震わせながら着替えを片手に持ち、頭を下げ一足先に広間から出て行き、燭台切も着替えを片手に持つと、薬研に引きずられるように広間から出て行った。


「伽羅坊、もっと他に方法はあっただろう…」

「知らんな」

「あれじゃ、光坊の面子丸つぶれじゃないか」

「あいつの自業自得だ」

「そう言ってもなぁ…」


はぁ、と溜め息を吐きながら、鶴丸は頭をガシガシと掻いた。

止める事が出来なかった自分にも若干、責任はあるかもしれないが、いくら鈴を助ける為とは言え、あの燭台切にあんなやり方は少々過激だったのではないか。
カッコイイをモットーな彼のプライドを傷付けたりしたのではないだろうか。

彼は一度いじけると後々が面倒な事になる。
しかもそれは、他の刀剣男士の前では見せずに、自分の縁のある…、そう、伊達の刀の前でしか見せないだけに面倒極まりないのだ。

まあ、あとは薬研と…、今は此処に居ないへし切長谷部ぐらいだろう。
燭台切が伊達の刀以外でまだ気心知れているのは、この二振りぐらいだ。
宗三は魔王が大切にしていた為、あまり会う機会が無かったからか、少しぎこちない。

だから、鶴丸は面倒臭く感じたのだ、燭台切はある意味しつこいから。

でも、そこは燭台切よりも長く生きてる刀故か、鶴丸本来の性質故か。

彼は、なるようになるだろう、と考えていた事を何処かへ放り出してしまった。

この切り替えの早さが鶴丸の良い所ではあるが、それが悪い方向へいってしまうのも、また事実である。

燭台切達、刀剣男士の次組が風呂へ向かって、10分程経った時だった。

鈴が少しそわそわしだし、仕切りに外へと視線を動かしていた。

それに気付いた者は、鈴が何かしたい、と気付いたのだが、下手に自分が声を掛けていいのか、迷っていた。

そうなった原因は、大倶利伽羅にあった。

鈴が何をするのも、真っ先に彼が気付き、先に動いていた。
そのせいもあって、鈴と行動を共にするのは、大倶利伽羅だと認識してしまって、行動に移せずにいた。

そんなのは、彼らの錯覚であるし、大倶利伽羅が鈴の世話をするのは、偶然が重なった結果なのだが、何となく、そう認識してしまったが故に行動に移せない。

むしろ、自分達は気付いたのに、何で大倶利伽羅は気付かないんだ、と、そっちの方に考えがいってしまって、大倶利伽羅にとって、とんだとばっちりだ。

そんな大倶利伽羅は、口元に薄く笑みを浮かべていた。
それは、誰にも気づかれない程の小さなものだった。

大倶利伽羅は勿論、気付いていた。
鈴がそわそわし、外をしきりに気にしている事に勿論気付いていたし、他の者が自分に向けてる視線の意味にも気付いていた。


「(ここまで上手くいくとは、思わなかったな)」


口に出さず、彼は思った。

自分だけが、鈴の側に居ても、居る事が当然だと思ってはいけない。
周りが、自分と鈴以外が、鈴の側にいるのは、大倶利伽羅だと思わなければならなかった。

そうしないと、自分と鈴の間に割り込む奴がいる。
そんな事を許すわけがない。

こんな独占欲丸出しな自分は自分らしくないと頭では分かっていた。
だが、そうせずにはいられなかった。

本丸の門の前で初めて会った時。
鶴丸に迫られていたのを助けた時。
鈴の隣に立って食器を洗っていた時。
鈴と二人で話して鈴の事を知った時。

鈴と過ごした時間は、自分が生きてきた時間の中では、ほんの一瞬。
瞬き一回にも満たない時間だ。

でも、鈴の事が気になって仕方なかった。
鈴の隣に居るのは自分だと思えて仕方なかった。

どうしてそう思うのか、自分でも本当に分からなかった。
知りもしない人間の事をどうしてここまで側に置きたがるのか分からない。

分からない事だらけで、こんな自分が嫌になる。
自分が自分じゃないみたいで気持ち悪い。

だが、どうして、どうして。

考えても見付からない答えに目を閉じ、頭を軽く振って、目を開けた。

相変わらず鈴は、そわそわしていて、壁に掛けてあった時計を見て、また外を気にした。

大倶利伽羅は、面倒臭そうに取り繕って、腰を上げた。

大倶利伽羅が動いた事で、一瞬して安堵の空気に包まれたのだが、ある刀剣男士だけが、面白くなさそうに表情を歪めた。
だが、それに気付く者は一振りもおらず、それに対し、更に表情を歪めた。


「おい」

「は、はいっ!!」


大倶利伽羅は、音もなく鈴に近付くと至って普通に声を掛けた。
そう、至って普通に、いつものように声を掛けたのだが、鈴の体は面白いぐらいに跳ねた。

当然、大倶利伽羅は面白くなく、む、と眉間に皺を寄せた。


「行くぞ」

「え、ど、何処へ…」

「何処へ行きたいのかは、アンタが知ってるだろう」


何を言っているんだ、と、言わんばかりにそう言った大倶利伽羅に鈴は、あ、と小さく口が開き、大倶利伽羅の言った事が理解出来たのか、機敏な動きで立ち上がった。

そして鈴の手首を掴むと、そのまま引っ張り広間から連れ出した。

先程、鈴が行きたい場所は鈴が知っていると言った大倶利伽羅だが、鈴を引っ張って連れて来たのは、鈴が行きたいと思っていた場所だった。

大倶利伽羅は、鈴が行きたい場所を知っていた。

何て事ない、鈴の考えていた事を読み取っただけだ。

燭台切達が風呂へ向かって10分程して、そわそわしだした。
時計を気にしたり、外を気にしたりしていた。

外を気にしていたのは、燭台切達が風呂から上がって来るのを気にしていたから。
時間を気にしていたのは、まさに上がってくるのではないか、と思ったから。

そうなると、鈴が行きたい場所は、自分の部屋だ。

自分の部屋に戻って、着替えを用意したかった。
皆が早く眠れるように早く風呂に入りたかった。

自分の事より、他の事を優先する彼女の考えそうな事だった。

だが、鈴は一人で本丸内を歩き回るのは燭台切を筆頭に禁止されていた。
その原因を作ったのは、今は普通に一緒に食事をするまでになった宗三のせいだが、宗三みたいな刀剣男士が他にいるかもしれない。
だから、鈴はこの場の誰かと一緒に行動するしかなく、でも、鈴から頼むのは気が引けて頼むに頼めなかった。


「少し、お待ち頂いても良いですか?」

「ああ、」


遠慮気味に大倶利伽羅に言った鈴は、彼から了承を得ると、いそいそとバッグの中から着替えを取り出した。

その鈴の背中を大倶利伽羅は障子戸に凭れ掛かったまま、眺めた。

小さな背中だ。
短刀ぐらいの小さな背中。

この小さな背中の持ち主が、今のこの本丸を良い方に変えている。
不思議な感覚だった。

鈴に気付かれないよう、鈴を見ていると鈴は小さな動きで肩を回した。
その鈴の仕草を見て大倶利伽羅は、ある事を思い出した。

何代か前の審神者が、疲れた、と言って良くしていた動きだった。


「疲れたのか」


大倶利伽羅は、そう彼女に訊ねた。

だが、鈴から返ってきたのは、苦笑いだけだった。

その鈴の反応に大倶利伽羅は、む、と不機嫌になった。

鈴は気を使って、変な気を回させないように曖昧に返したのだが、彼には、それが気に食わなかった。

疲れているなら、疲れていると正直に言って欲しかった。
自分に変な気は遣わなくていい、思った事、感じた事を言って欲しかった。

そう思っているだけに不機嫌になったのだが、どこか抜けている鈴はそれに気付く事が出来なかった。

不機嫌になった大倶利伽羅に困りつつ、鈴は着替えを片手に彼の方へと足を進めた。

そして、自分より背の高い彼を見上げると、彼も鈴をジッと見つめた。

真っ直ぐ鈴の目を見詰めると、また不思議な感覚になった。
何度も何度も感じるこの感覚に苛立ち、むしゃくしゃしたが、それを鈴に見せないよう、グッ、と堪えた。

だが、そんな大倶利伽羅の努力虚しく、鈴はうっすらと彼の変化に気付いてしまった。
その種類には気付いていないが、彼の感情の変化を彼の神力を伝わって感じたのだ。

あまり良い感情ではないと分かったのだが、どうして彼がそうなったのか、やはり分からなかった。

申し訳ないやら、気まずいからで、彼から目を逸らしたかったのだが、何故か逸らす事が出来なかった。

甘い琥珀色の瞳から目を逸らせなかった。
その琥珀色の瞳の中に自分の顔が映りこみ、その琥珀色の目がすぅ、と細められた。

皮手袋に嵌められた、大きく骨張った手が持ち上げられ、その指が鈴の頬を撫で、その指は、頬から下降し、顎のラインを柔らかに撫でた。
その指は、するり、と掠めるように鈴の唇へと辿り着いた。

下唇を親指の腹で撫でるその仕草は、壊れ物に触れるかのような優しさだった。

大倶利伽羅は、ふと、鈴の名を呼びたくなった。
どうしてそう思ったのか分からないが、鈴の名を紡ぎたかった。

苦しそうに眉間に皺を寄せた大倶利伽羅に鈴は、咄嗟に口を開き、名を呼ぼうとした。
だが、その瞬間、大倶利伽羅は一度目をきつく閉じると、鈴の唇から指を離し、彼の目は外へと向けられた。

そして、顔を上げると、小さな声で呟いた。


「晴れたな」

「え………?」


その大倶利伽羅の言葉に鈴は小さな声を出し、彼と同じように空を見上げた。

見上げた先には、薄くかかった雲と、その雲の間から濃紺の夜空と宝石箱のような星空が覗いた。
晴れている、とは、言い難い夜空だが、曇天が常だった頃に比べると、晴れていると言ってもいい程だった。

キラキラと覗く星空に鈴は、開いた口が塞がらなかった。

現世では見る事が出来ないぐらいの星空だった。
夜も明るい現世では、街の灯りのせいで、星の輝きが消えてしまっていた。

だが、ここは。
この本丸は、周りは山に囲まれていて、街灯もビルの灯りもない所だ。

だから、星の輝きが良く見える。

鈴は初めて見た星空に感動して、大倶利伽羅の事をすっかり忘れてしまっていた。

勿論、大倶利伽羅は、そんな鈴に気付いていた。

口を小さく開けて、首が痛くならないだろうか、と、つい心配してしまうぐらい空を見上げて、目を輝かせていた。

たったこれだけで鈴は感動出来る。
それに驚きつつも、見ていて飽きない反応に彼は小さく微笑みを浮かべた。


「行くぞ」

「っ、あ、はい!」


出来ればこの程度の星空で良ければ、まだ鈴に見せてやりたかった。

ここまで雲が少なくなった空は、鈴の霊力あってこその結果だ。
その本人である鈴の気の済むまま見せてやりたかった。

だが、時間的にも、そろそろ燭台切達が風呂から上がってくる頃合いだ。

折角、間に合うように鈴を広間から連れ出したのに、これではその意味がない。

申し訳ない気持ちになりつつも、鈴に合図すると鈴はハッとした表情になり、先に歩き出した大倶利伽羅を追うように足を進めた。

大倶利伽羅に比べると小さな歩幅の鈴は、少し気を抜くと彼と距離が開いてしまう。
だが、それに気付いた大倶利伽羅は距離が開きすぎると足を止め、鈴が追い付くのを待った。

それを何度か繰り返し、広間へ着くと丁度、風呂上りの燭台切達が、コップを片手に座ろうとしていた。

風呂上りで暑いのは分かるが、薬研はパンツ一丁だったし、燭台切も上を着ていなかった。
唯一、ちゃんと着ているのは宗三だが、前が異常なぐらい肌蹴ていた。

鈴に気付いた瞬間、広間は叫び声に包まれた。

と、言っても、叫び声を上げたのは燭台切だけで、薬研は「こんな恰好でわりぃな、風呂上りなもんで暑いんだ」と、ニカッと爽やかな笑みを浮かべ、そう言ったし、宗三は「湯上りの時ぐらい、別にかまわないでしょう」と、気にしていないようだった。
だが、鶴丸の「内番服の時もそれなりに肌蹴ているだろう」の言葉に、髪を拭いていたタオルを渾身の一撃並の威力で投げ付け、ここもカオスな状況になりつつあった。

鈴自身、風呂上りにパンツ一丁や上半身裸なんて、兄弟で見慣れていたから、そうゆうものなのだと認識していたから特に気にしていなかった。

……、そう、燭台切だけが、大騒ぎして絶叫していたのだ。

もはやパニックになって、その場から動く事が出来ない燭台切に鈴は少しの優しさで、す、と視線を外す事しか出来なかった。

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