お掃除しませう!
燭台切のスーツを羽織り、部屋の中を隅々まで掃除し、粗方片付き始めた頃、お茶に使った湯呑を引き下げに来た燭台切。
ふと外を見ると薄暗くなっていて、人間の体とは不思議なモノで“夜”だと理解すると自然と空腹を感じるもので、鈴も例外ではなく、ぐぅ、と小さな音を出してしまい、燭台切とつい、目を合わせたのち、顔が一気に赤くなるのを感じた。
「もう、暗いからね」
「す、すみません!お昼から何も食べていなかったので、つい…」
「お昼から食べてなかったの?ふふっ、それなら仕方ないよ、気にしないで」
鈴のお腹が鳴った事に燭台切は、くすり、と小さく微笑み、ぽんぽん、と鈴の頭を撫でた。
「…そう言えば」
「ん?」
「その、皆様はお夕飯はどうされているんですか?」
「夕餉かい?んー…、ここ暫くは食べてない、かな?」
「…え?」
「夕餉だけじゃないけどね。朝餉も昼餉も食べてないかな」
「ど、どうして…!!」
ふと疑問に思って、そのまま燭台切に訊ねたのだが、その言葉に鈴は驚き、目を丸くしてしまった。
暫く何も食べていない…?
「審神者が居た時は、審神者が食材を買って、僕やあと数人が調理して皆で食べてたんだけどね。
でも、審神者が居なくなって、審神者が用意していた食材が入らなくなって、それから何も食べてないんだ」
僕には食材の用意なんて出来ないからね。
そう困ったように軽い口調で言った燭台切だが、鈴にとっては衝撃的な言葉以外のなにものでもなく、信じられない気持ちから何も言葉にする事が出来なかった。
そんな鈴に燭台切は不思議そうに見ていたのだが、次第に頭が回り始め、焦りながらにもこの本丸に来る前に政府職員から言われた言葉を思い出した。
“本丸で入用な物が出来た場合は政府の通販サイトがあるからそれを利用し購入する事”
それを思い出し、手渡された携帯端末で、その通販サイトを開き、本丸IDと手入れ師IDを入力し、ログイン。
そのまま思い付いた限りの食材を速達で購入し、携帯端末の画面を閉じた。
「それは、なんだい?」
「これですか?携帯端末と言って…、うーん、便利な物です」
「へぇー…、そんな物あるんだね」
興味津々に携帯端末を凝視する燭台切に凄く適当な答えしか用意出来なく、非常に申し訳ない気持ちになってしまった。
携帯端末の説明は、機械に疎い鈴には詳しい説明は出来なかった。
「それで、その携帯端末?で何をしたの?」
「あ!えっと、食材を購入しました」
「食材を…?」
「まさか食材の購入を審神者がしていたとは知らなくて、刀剣男士の方が注文しているものだと思ってまして…、速達で購入したので、食材はもうそろそろ届くかと思います。」
「え、それって…」
「はい!お夕飯が食べられます」
鈴のした事がぴん、と繋がったのか、燭台切はパアッ、と表情が明るくなって、嬉しそうに表情を緩め、凄く喜んだみたいだった。
だが、その表情は次第に暗くなり、鈴が首を傾げた時、燭台切が重い口を開いた。
「料理出来るのも食べる事が出来るのも凄く嬉しいんだけど、直ぐには出来ないんだ…」
「え?」
「ここ暫く厨は使っていなかったからね。僕もまた厨が使えるとは思ってなかったから、掃除してないんだ」
「なるほど…」
食材が無ければ、台所も使う事もない。
だから掃除はしていなかったそうで、台所は汚れに汚れているらしい。
確かにそんな状態では気持ち良く料理なんて出来ないだろう。
さて、どうするか…、と考え始めた矢先。
こちらに向かって来る神気と足音に気付き、ふと、廊下の方に視線を向けると、そこには鶴丸と大倶利伽羅の姿があり。
ぱちり、と鈴と視線が合わさった。
「まさか、骨喰が起きないとは…、驚いたぜ」
「余程、疲れてたんだね…、鶴さんも伽羅ちゃんもご苦労様」
肩をぐるぐると回しながらそう言った鶴丸に燭台切は労わる言葉をかけた。
鶴丸の言葉を聞くに骨喰が起きなかったのは珍しいらしく、余程、心身ともに疲れ切っていた事を再度知り。
今は良く眠っているらしいので、自然と目を覚ますまで寝かせてあげたいと思った。
すると鈴のお腹から、また、ぐぅ、と音が鳴り、そう言えば、夕食の話しをしていたんだと思い出した。
それで台所の話しになって・・・
「あ!!」
「「「?!!」」」
突然出た大声に自分も驚いたが、三人は鈴以上に体を跳ねさせ驚いた様子で、何事だ、と鈴を見る視線に鈴は申し訳なく思いながら、口を開いた。
「えっと、ですね…?」
「な、なんだ?」
「先程、燭台切様から窺ったのですが、台所が汚れているらしくて」
「あ、ああ、確かに汚れているな。それがどうかしたのかい?」
「その話しを聞く前に私、食材を購入したんです」
「食材を?」
「はい、そろそろお夕飯の時間ですし…」
「…俺は慣れ合うつもりはない」
鈴の言いたい事を理解したのか、つん、と顔を背けた大倶利伽羅に内心、当然だよなぁ、と思いつつも、再び口を開いた。
因みに鶴丸は首を傾げながら、不思議そうな顔をされているのだが。
「え、と…、皆様には申し訳ないのですが、台所を掃除するのを手伝って頂けたらと思いまして…」
次第に下がっていく視線に三人がどんな表情をしているのかは分からない。
分からないが、少なくとも嫌がっている様子は感じられなく、恐る恐る視線を上げると、そこにはキラキラと目を輝かせている燭台切、目を丸くし口を大きく開けている鶴丸、じとりと鈴を見ている大倶利伽羅の三者三様の姿があった。
喜んでる表情と驚いてる表情と呆れている表情…、仕方ない反応で何も言えなかった。
「こりゃ驚いた…、俺に掃除させるなんてなぁ」
「無理にとは言いません!ですが掃除が早く終わればお夕飯が食べられます!」
「夕餉…、久し振りに食えるのか?!」
「は、はい!今日のお夕飯だけとは言わず、明日も明後日も朝昼晩と食べれます!」
「あなや・・・!!」
力いっぱい、そう、セールスの如く力説すると鶴丸はガクッと膝を付き、蹲ってしまい。
焦った鈴は、ただ、あわあわとするしかなかったのだが、燭台切の言葉でほっと胸を撫で下ろした。
「鶴さん、食べる事が好きだから」
「そ、そうでしたか…」
それ程喜んで貰えるは思ってもいなかったが、これは掃除道具やらを注文しても良い流れなのだろうか?
「え、と?掃除に使う物とか注文しても、いいです、か?」
そう、恐る恐る尋ねると、燭台切は頷き、鶴丸は何回も頷き、大倶利伽羅は溜め息を吐きながらも小さく頷いた。
その反応を見て、もう一度通販サイトを開き、掃除用の台所洗剤やらスポンジやら、台所回りの物をこれまた速達で注文し、注文した事を伝えると勢いよく立ち上がった鶴丸に腕を引っ張られ、その後に燭台切と大倶利伽羅が続き、台所へと向かった。
目的地の台所は、確かに気持ち良く料理出来そうにないぐらいに汚れていて、掃除するのを放棄させたくなるぐらいだった。
蜘蛛の巣はあちらこちらに張っていて、火元は油にギトギト、床は埃と油のコンボでベタベタしていて、シンクは水垢汚れで凄かった。
一回目に注文した食材と二回目に注文した掃除道具等は、配達してくれた人の配慮なのかは分からないが、台所にあった外と繋がっている外と繋がっているいる扉の外にあり、ほっと胸を撫で下ろした。
幾ら段ボールに入って届いたからって、こんな状態の台所に置かれたんじゃ、何か嫌だ。
さて、どう手分けして掃除しようか…
「取り敢えず、蜘蛛の巣を片付けてから床を掃除して…
シンクと火元、後は長らく食器を使っていなかったみたいなので、食器洗いと…、どこを掃除したいとかありますか?」
「そうだな…、俺は蜘蛛の巣を掃うとするか。それが終わったら、床掃除でもしようじゃないか」
「それじゃあ、僕は火元をやるよ」
「…流し台をやる」
「じゃあ、私は食器洗いですね。
えっと、それじゃあ、これで蜘蛛の巣を掃って下さい。
それが終わったら、一度これで床の汚れを粗方軽く落としてもらって、今度はこのモップと洗剤を使って根気よく汚れを落として下さい」
「ああ、任せてくれ」
「燭台切様は…」
「あ、大丈夫だよ。これを使えば良いんだよね?」
「はい、それです!」
「俺はこれか」
「あ、はい!えっと、それでは宜しくお願いします!!」
トントン拍子に分担が決まり、掃除の説明をしたり、しなかったりもしたが掃除は開始された。
何が驚いたって、鶴丸が一番面倒であろう所を掃除すると自ら名乗り出た事だ。
それ程、食べる事が好きなんだろうと分かった。
燭台切には特に説明する事無く、洗剤や使う用具も選び、シャツを腕まくりして油汚れの戦いに身を投じた。
大倶利伽羅は自然と残った洗剤が流し台に使う洗剤だと察したのかそれを手に取り、硬めのスポンジを手に取り水垢汚れを落としにかかった。
それぞれ掃除を始めたのを確認して、私は食器を棚から取り出し、欠けていたりしている物を脇に避け、使える食器を揃えた。
使えない食器は掃除用具等が入っていた段ボールに一時的に入れ。
それが終わると食材を冷蔵庫に入れるべく、冷蔵庫を開けると絶句してしまった。
何か、うん…、目にしたくまい光景が広がっていたから。
何だろう、この、黒くねばぁっとした液体?は。
素手で触りたくないな、でも、掃除しなきゃ、と葛藤していたのだが、掃除しなければ買った食材は冷蔵庫に入れる事に出来なく、結論を言うと掃除をしなければならない。
すーはー、と深呼吸して、勢いで冷蔵庫の中の掃除を始めた。
外に出て直ぐの所に水道があるのを確認していたので、外せる部分は外して、外へ持って行き、水を掛け流し、手頃な大き目のタライがあったので、そこに洗剤を混ぜた水を張り、そこに外した部分を浸け、汚れを浮かせる為に暫く放置。
その間に枠などの外せない部分をひたすら拭き取り、なんとか汚れが落ちたところで、放置していた部分を拭き、水で洗い流し、水けを拭き、それを再びそれを冷蔵庫に嵌め込んで、綺麗になった冷蔵庫に食材を放り込んだ。
そんな感じで料理をする際に使う調理道具等も洗っていき、鈴が終わる頃に大倶利伽羅が終わり、空いた流し台を使い食器を洗い始めた。
その時、鈴の隣に大倶利伽羅が立ち、鈴の手元とまだ泡だらけの食器を交互に見た。
そんな大倶利伽羅に首を傾げたが、これ以上食器を重ねる事は出来ないと感じ、泡だらけの食器を洗い流してそれを重ねていくと、買ったばかりの布巾を使い、次々にその食器を拭いていく、大倶利伽羅。
その拭いた食器は、鈴の届かない、大倶利伽羅の右側に重ねられていき、第一弾が終わるとその食器を食器棚へと仕舞いにいった。
…何だろうか、この同棲してる恋人みたいな遣り取りは。
そんな事をふと思ってしまい、ふるふると頭を振り、その考えを振り払うと、無心になって、食器を洗っていった。
その洗っていった食器は泡を流し落とすと再び大倶利伽羅が拭いていったのだが、食器も八割方終わった頃、燭台切も終わり、鶴丸の手伝いをしていた。
食器が全て終わった時には、台所は見間違えるぐらいにピカピカと綺麗になっていた。
「お疲れ様でした!」
「いやー、驚いた。厨はこんなにも綺麗だったんだなぁ!」
「これで気持ち良く料理が出来るよ!!」
「光忠、早く作れ」
「ちょ、伽羅ちゃん?!」
ピカピカの台所に感動?している、鶴丸と燭台切。
そんな燭台切の尻を膝で蹴り上げ、そう言った大倶利伽羅にもー!と、抗議する燭台切に本当に此処はブラック本丸だったのかと分からなくなっていた。
確かに最初は恐怖心があったが、今はそんな恐怖心はなく、普通に接する事が出来ている。
あれ、まだ出会ってそんなに時間経っていない筈なんだけどな。おかしい。
「もー、伽羅ちゃんってば…、さて!ご飯作るね!!」
ふんふんっ、と鼻歌を歌いながら、これまた通販サイトで買っていたピンクのエプロンを躊躇う事なく手に取り身に着ける。
そして気付いてしまったのだが、今燭台切が身に着けてるエプロンは胸元が非常にキツそうだ。
これでも大き目のサイズを買ったつもりなんだけど、それでも胸元がキツそうって、燭台切は巨乳なんだなぁ…、と、どこか遠い目をした鈴だが、それに気付く者はいなかった。
そんなエプロンを身に着け、冷蔵庫の中をふんふん、と頷きながら見て、少しうーん、と考えると、人参、キャベツ、玉ねぎを取り出し、段ボール一箱丸々買ったストレートタイプの乾麺を人数分、そして、簡易スープを取り出した。
「おっ、野菜盛り沢山のらーめんか!!」
「うん、これなら手早く作れるしね。
鶴さんも、伽羅ちゃんもこれ以上待てないでしょ?」
悪戯に笑みを浮かべる燭台切に鶴丸も大倶利伽羅も、うっ、と言葉に詰まり、気まずそうに視線を逸らした。
そんな二振りを見て、鈴もエプロンを身に着け、手を洗い燭台切の隣に並んだ。
「どうしたの?」
「手伝います!お野菜を洗えばいいですか?」
「あ、うん!お願いするよ!」
「はい!!」
キャベツを一枚一枚、丁寧に剥がし、葉が虫に食われ黒くなってる部分は千切り、捨ててから水で洗い。
人参も水で洗い皮を剥き、玉ねぎも皮を剥き、水で洗い、スープの味を整えていた燭台切に報告すると燭台切は満足そうに笑みを浮かべた。
「ありがとう、助かったよ」
「いえ!!あの、私で良ければ切りましょうか?」
「いいのかい?」
「はい!…これ以上時間をかけるとお二人が我慢出来そうにありませんし」
「…ぷっ、そうだね、じゃあお願いするよ」
「はい!」
野菜ラーメンとの事でキャベツはざく切りに、人参は3mmぐらいの厚さにスライスして短冊切り、玉ねぎは5mmぐらいでスライス。
そんな感じで次々と切っていき、それをザルに移していき、全て切り終わるとフライパンで軽く炒め、しんなりとさせると後は燭台切にバトンタッチ。
燭台切は麺を絶妙に茹で、スープをラーメン鉢に注ぎ、茹でた麺を投入、そこに野菜を盛り付け、夕食は完成した。
台所には四人が使えるだけのダイニングテーブルがあり、今日の所はそこで食べる事にした。
余程、食べる事に飢えていたのか、鶴丸と大倶利伽羅は物凄いスピードで完食し、その光景に呆気にとられながら、鈴も燭台切も食べ終わった。
使った食器は鶴丸と大倶利伽羅が片付ける事になり、満腹なお腹を擦りながら食後のお茶を飲んでいた。
「美味しかったです…」
「良かった、それを聞いて安心したよ。
料理なんて久し振りだったから感覚が思い出せなくて不安だったんだ」
心の底から安心した燭台切の言葉に本当に美味しかった事を伝えると燭台切は照れたように微笑み、ふにゃりと表情を緩めた。
そして食後の片付けを終えた、鶴丸と大倶利伽羅も交えお茶を再開した。
「いやー、久々に満足したぞ」
「鶴さん凄かったよ?結構多めにしたつもりだったんだけど、ぺろりと平らげちゃったから」
「いや、あれは仕方ないと思うぞ?現に伽羅坊なんて、凄い勢いだったじゃないか」
「確かに。伽羅ちゃんも凄く良く食べたよね」
「うるさいっ」
「ははっ、まあ、良く食べる事はいい事じゃないか。はー…、これで風呂もあれば完璧なんだがなぁ…」
その鶴丸の言葉を聞いて、鈴はピシッと固まった。
お風呂がない?え、嘘でしょ??
「お風呂、ない…、ですか?」
「言ってなかったか?風呂はある事はあるんだが、段々と誰も使えないようになってな、風呂の掃除をしてないんだ」
けろり、と軽くそう言った鶴丸に目が点になってしまった。
誰も使えないように、って意味は、多分、お風呂に入るだけの気力がなくなっていったからだとは思う。
それは多分そうなんだと理解したのだが…、お風呂が使えないとは…
「鶴丸様達は、お風呂はどうされていたんですか?」
そう言えば、鶴丸、大倶利伽羅、燭台切は、今の所比較的に動けている方に分類される方達だ。
それならお風呂に入っていても当然な感じがするのだが、話しを聞く限り入っていないようだし…、と、そう思って尋ねた。
「水に濡らしたタオルで体を拭いてるんだ。本当は湯船に浸かって、ゆっくり疲れを取りたいんだけどね」
苦笑いでそう教えてくれた燭台切に成る程、と納得した。
それなら明日は、浴室の掃除をしなければならない。
鈴も出来れば、湯船に浸かって疲れを取りたかった。
まあ、今日は取り敢えず、体を拭く事で済ませよう。
「さて、そろそろ部屋に戻るか。
こんなに満たされた気分になったのは久し振りだからな、睡魔が襲ってきた」
くあ、と大きな口を開け、欠伸をする鶴丸に頷き、台所から出ようとした時だった。
後ろから、あっ、と小さな声が聞こえて振り向くと、燭台切が何か言いたそうにしていて、立ち止まって燭台切の目を見て、どうしたのか尋ねてみた。
「今日買ってくれた食材なんだけど…、どうしてこんなに買ったの?」
「え?」
「今日の夕餉、明日の朝昼晩の食事にしても、僕達四人だとあまりにも多過ぎないかかい?」
「ああ、それはですね、他の刀剣男士の皆様の分です」
「みんなの?」
「はい。食べるか食べないか分からなかったんですけどね」
「でも…」
「ええ、確かに料理してると知っても誰も出で来てはくれませんでした。
此処の本丸に皆様いらっしゃるんです、買って当然だと思いますよ?」
「キミ…」
料理を始めた頃、少しの神気を感じた。
台所から少し離れた所からこちらの様子を窺っているのは分かっていたのだが、誰も台所に来る事はなかった。
もしかすると鈴が居たからかもしれない。
そこで、ふぅ、と息を吐き、続きを口にした。
「私が居たから来なかったのかもしれません。
もし、そうなら、完全に私の配慮不足で…、なので、私は極力台所には近付きません」
「で、でも!!」
「料理は大変かもしれませんが、燭台切様がお作りになって下さいませんか?
同じ刀剣男士で気の知れた燭台切様が作った食事なら、皆様食べられるかもしれません」
「でも、この食材はキミが用意してくれたのに…!!」
「そんな事気にしません。
皆様が満たされるのなら、私は寧ろ喜びますよ?
もし、誰かに訊かれたら…、こう、答えてくれませんか?」
「え…?」
「手入れ師が初めての通販で勝手が分からず大量に買ってしまった、腐らすのも勿体無いから食べてくれないか、と」
「そ、んな…」
そこまで言うと燭台切は、悔しそうに表情を歪め、グッと拳を作った。
そんな鈴たちの会話を聞いていたのか先を歩いていた筈の鶴丸、大倶利伽羅は足を止め、こちらの様子を窺っていて。
そんな二振りに、にこりと微笑み、再び燭台切に向き合い、ぎゅ、と燭台切の手を握った。
「大丈夫ですよ、私は平気です。
それで皆様が良くなるなら、私はこれ以上の幸せはないです」
ね?と、言い聞かせるように言うと燭台切は、ぎゅっ、と目をキツく閉じ、鈴の手を振り払い、鈴を力いっぱい抱き締めた。
「燭台切、様…?」
「キミは…、優しいね…」
「…、優しくないですよ?これは私の勝手なエゴです…、結局は自分の満足の為なんですよ」
「それでも、だよ…?それを出来る人間は、優しいって言うんだよ?」
「……、それなら、そんな私に泣いて下さる燭台切様は、もっとお優しいです」
燭台切の胸元をグッと押し、燭台切の顔を覗き込むと燭台切の顔は涙でぐちゃぐちゃになっていて、その濡れた顔をハンカチの代わりで失礼ながらにも袖口で拭うと燭台切は更に涙を流し。
そんな燭台切に鈴は苦笑いを浮かべた。
燭台切は再び鈴をぎゅっ、と抱き締め、離れる気配が全くない事にどうしたらいいのか分からず。
混乱で段々と頭が真っ白になりだした時だった。
先程までこちらを窺っていた大倶利伽羅がベリッと効果音が付きそうな勢いで鈴と燭台切を引き離すと、今度は大倶利伽羅に抱き締められるハメになった。
そんな状態で鶴丸は周りで騒ぎだし、何かを言っていたのだが、それよりも鈴は大倶利伽羅から感じる怒りらしき感情にどうしていいのか分からなくなり、戸惑い、途方に暮れた。
だから、自分に起こってる事にいっぱいいっぱいだった鈴は気付かなかった。
こちらの様子を遠くで見ている視線に―――――
**************
「五条の小童があんなになるとは…、あやつ何者じゃ?」
「さてな、俺にも良く分からんが…」
「……、して、どう出る?」
「……そうさな、もう暫く様子見ても構わんだろう、焦らずともよい」
「…おぬしがそう言うなら、かまわんがな」
さて、お手並み拝見といこうか、手入れ師とやら―――――
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