*もう、大丈夫ですよ。


大倶利伽羅は手加減したのか、鶴丸は小傷にもなる事なく、至ってピンピンしたまま笑いながら広間を出て行った。
暫く鶴丸を蹴り続けていた大倶利伽羅は、軽く息切れし、その上疲労してしまい、盛大に舌打ちしながら広間を出て行き、その大倶利伽羅の背中を見送ったのがつい先程の事。

この広間に残ったのは、鈴と燭台切のみとなり、はてさて、この後はどうしたらいいのだろうか…、と考えを巡らせようとした時だった。

肩にぽん、と手を置かれ、その手の持ち主を見上げると、燭台切は困ったように微笑んでおり、気まずそうに視線を逸らした。


「え、と・・・、キミの部屋なんだけど…」

「あ、部屋…」

「うん、少し考えたんだけど、今この本丸に新しい部屋を用意する事が出来ないんだ」

「へ?!いえ!!そんなのお気遣いなく!!雨風を凌げれば何処でも構いませんので!!」

「ちょっと…、僕が女の子に対して、そんなかっこ悪い事する訳ないでしょ??」

「う…、そう、ですか…?」

「うん、そうなの。それでね、本当に申し訳ないんだけど、キミが使えそうな部屋って、その・・・」

「…?」


燭台切から言われた部屋に関して、鈴は全く頭になかったのだから、先に先にと行動する燭台切は、流石、伊達男、と言ったところなのだろうか。
凄くスマートに物事を進めるのだから、鈴は少しときめいてしまった。

神様相手になんて図々しいんだろう・・・と、思いながら。

話していくうちに最初は軽い雰囲気だった空気が重たくなり、燭台切の口もなんだか重くなっていってるように感じ、何をそんなに言いづらそうにしているんだろう?と鈴は思っていた。

突然やって来て、部屋があるなんて思ってはいなかった。
取りあえず、雨風しのげればいいかな、と軽く思ってたぐらいで。
だから、新しい部屋なんて、正直、全く望んではいなかった。
だから、新しい部屋を用意する事が出来ないと訊いた時は、納得もした。

それは、鈴の反応を見ながら口を開いている燭台切も分かってる事な筈なのに、どうしてそんなに言いづらそうにしているのか・・・

次の瞬間、燭台切から言われた言葉に鈴は、ようやく理解する事が出来た。


「前任の審神者が使っていた部屋、なんだ・・・」

「あ…、なるほど」


確か前任の審神者は男性だった筈だ。
だから、燭台切的に元は男性が使っていた部屋を女性に使わせるのが嫌だった…、と言う事だったのだろうか。

確かに男性が使っていた部屋をそのまま使うのは、何となく気が引けるが、掃除をしてしまえば、そんなのは気にならないとは思う。
鈴は男所帯で生活していたから、今更、部屋が男臭い!なんて、そんな敏感に感じはしないだろう。


「大丈夫ですよ、燭台切様」

「え、でも・・・」

「私、男所帯で育ったので、今更ちょっとやそっとでは気にしませんから」


鈴がにこ、と微笑んでみせると燭台切は、少しほっとした様子だったが、それでも表情は晴れず、視線を不自然に彷徨わせていて、口を開けたり閉じたりしており。
もう一度、大丈夫だと伝えると、グッと唇を噛み締め、何故か鈴の手をぎゅっと握り、その手を離した。


「…じゃあ、着いてきて、案内するよ」

「あ、はい!!」


前任の審神者の部屋に向かい歩き出した燭台切の後を追い、屋敷の中を歩いたのだが・・・

途中、部屋の前を通る度に何度も結構な数の刀剣男士の神気を感じたのだが、やはり人間と言うだけで警戒されているのか、顔を合わせる事はなく、誰とも出会う事はなかった。
その感じた神気は、やはり弱々しく、淀んでいて、早く手入れしなければ危ないかも…、と思ってしまう神気も感じた。

あまり刺激せず、穏便に事を進めたいのだけれど、もしもの時は強硬手段に出なければならないかもしれない。


「あ、着いたよ」

「此処、ですか?」

「?うん、此処が前任の審神者の部屋だよ」

「審神者の部屋って、端にあるものなんですね」

「え・・・?」

「え、だって…、そうなる事は滅多にないかもしれないですが、敵が侵入して来た時に審神者が直ぐに標的にならないように、他の本丸では他の刀剣男士の皆様が使っていらっしゃるお部屋の間に挟まれるよう、ある筈なんですが…」

「あ…、まあ、普通…、はね、そうだと思うよ」

「でも、此処の本丸の審神者の部屋は端ですし…」

「端の方が都合良かったんだよ…、前任にしたらね」

「それはどうゆう…?」


鈴の問いかけに燭台切は答えず、廊下と部屋の仕切りの障子戸を開けると、そこに広がっていた審神者の部屋に鈴は言葉も出ず、口元に手をやり、口を押えた。

審神者の部屋は、随分と空気の入れ替えすらしていなかったのか、むわっとした汗の臭いが広がっていて、その汗の臭いに交じって、生臭い臭いも感じ。
部屋の中には、所謂、大人の玩具が無造作に転がっていて、部屋の真ん中に敷かれっぱなしの布団には変な染みがついていた。

この部屋に広がっている状況から何も察せない程、鈴は無知ではなく、前任の審神者がこの本丸の刀剣男士の皆にしてきた行為の数々が目に浮かび絶句し、咄嗟に燭台切の顔を見上げると、燭台切の顔色は真っ青で、目にはうっすら涙が膜を張っていて、拒絶反応が出ているのが明確に分かった。

この状態の燭台切をいつまでもこの場に居させる訳にはいかず。
鈴はおずおずと燭台切の服の裾を引っ張った。


「燭台切様、もういいですから…、お部屋に戻って、お休みになられて下さい」

「で、でもっ、こ、この部屋、っ、片付けなきゃっ…!!」

「そんなの私がしますから!燭台切様はお部屋にお戻り下さい!!」


お願いします…、そう最後に言った言葉は小さく、決して聞きやすい声量ではなかった筈なのだが、すぐ傍に居た燭台切には十分聞こえていたようで。
息の飲む声が聞こえ、鈴の頭をゆっくり優しく撫でると、ごめんね、と弱々しい声がし、鈴は首を緩く振り、燭台切の背中を軽く押し、この場から早く立ち去るよう促した。

燭台切は一歩足を前に出したが踏み止まり、その目は私を捕えたが、鈴は出来るだけ優しく微笑み、もう一度燭台切の背中を押し。
燭台切は、一歩足を出す度に振り返り鈴を見たが、鈴は首を振るだけで、何も口にはしなかった。

そんな私に燭台切は泣きそうな顔をされたけどこの部屋に耐える事は出来なかったのか、前に進み、私はその背中を見送り、燭台切の姿が見えなくなったところで、鈴はやっとまともな呼吸する事が出来た。

此処に来る前、政府職員からこの本丸の事は軽く訊いていた。
それは本当に軽く、前任の審神者は男性だった事、人間不信な刀剣男士の方がいる事。

それぐらいしか訊いておらず、どうしてこの本丸はブラックと認定されてしまったのか…、その理由は一切訊いておらず、後で分かるだろう、と軽い気持ちでいたのだが、まさか夜伽ブラックだったとは思ってもみなかった。

次第に前任の審神者に対し怒りで沸々とし始め、この部屋があるから、部屋の中がいつまで経っても前任の名残があるから悪いんだ、と鈴は思うようになり、鈴はおもむろに窓と云う窓を全て開け放ち、変な染みの着いた布団やら大人の玩具やら。
前任の名残のあるものは全て庭に投げ出し、勝手に見つけたバケツ、雑巾を手にし畳を何回も拭き、壁、襖、窓、と、前任が触れたと思うような所は全て拭き。
刀剣男士の皆を刺激しないギリギリのラインの所まで廊下は拭き掃除をした。

庭に投げ出した物は、少しの間は放置していても大丈夫だろう。

此処は審神者の部屋の前で、こんな場所に来る刀剣男士はいない筈だ。
むしろ、避けている場所に違いないので、少しの間は大丈夫だろう、そうタカを括っていたのだが。

ノンストップで怒り任せに掃除をしていたからか、あらかた片付けた時にどっと疲れが押し寄せてきて、縁側に腰を下ろし、ふう、と一息つき。
現世から飲み物に困った時用に持って来ていた、お茶のペットボトルを鞄の中から取り出し、キャップを開け、ごくごくと半分程飲み干し、傍らにペットボトルを置いた時だった。

すぐ側で神気を感じ視線を動かすと、そこには服が破け、目が虚ろな男性が居て。
その後ろには、こちらを睨みながらも、その男性の腕を掴み、こちらに来させないようにしている男性が一人。

確か、前の男性は鯰尾藤四郎で、後ろの男性は骨喰藤四郎。
二振りとも粟田口と云う刀派の脇差の刀剣男士の付喪神だった筈だ。

鯰尾の状態は凄く酷く、神気も淀んでとても気が荒れているし、目が虚ろで、正確な判断が出来ていないように感じる。
骨喰は鯰尾程ではないにしろ、やはり神気は淀んでいて、その神気は凄く不安定だった。

骨喰は鯰尾をこちらに行かせないよう必死に止めようとされているけれど、どこにそんな力があるのか、鯰尾の足は止まらず、少しずつだがこちらに近付いて来ている。

・・・、いや、鯰尾が力がある訳でないのだ。
骨喰は、言い方は悪いかもしれないが、壊れかかっている鯰尾を力づくで止めて、鯰尾の体が壊れる事を恐れて、本気の力で止める事が出来ないのだ。

そんな骨喰に気付かず、鯰尾はこちらに向かって来る。
その口は何かを言っているかのようにぱくぱくと閉じたり開いたりを繰り返している。


「あ、あるじ・・・、」

「…え、」

「あるじ、さいきんおれをあいてにしません、よね・・・、どうしてですか?」

「鯰尾、さま・・・?」

「もしかして、ほねばみをあいてにしてるんですか?」

「な、鯰尾様?!」

「もー、いったじゃないですか、ほねばみよりおれのほうがいいですよ、って」

「兄弟?!」

「いっ!!」


たどたどしい口調で、鈴に話しかける鯰尾。

だが、鯰尾の言葉を聞くと、どうも違和感を感じた。

鯰尾は、鈴の事を主、と呼んだ。
鈴は鯰尾の主なんかではない。

鈴は今日此処に来たばかりで、鯰尾や骨喰とは当然面識がなく、今初めて顔を合わせている。
それなのに鯰尾は、鈴と面識のある言い方をしており、どうも前任の審神者と思っている…、そう思えた。

そんな鯰尾に戸惑っていると、鯰尾は急に走り出し、鈴にタックルするかのように飛び付き、咄嗟の事に鈴も骨喰も反応出来ず、私は鯰尾を受け止めきれず、押し倒され、骨喰は届かなかった手を未だに宙に浮かせたままだった。


「鯰尾様?!大丈夫ですか?!」


鈴にタックルを仕掛けてきた鯰尾がピクリとも動かない事に焦った鈴は、起き上がろうと肘を支えにし、体重を後ろにかけた時だった。

虚ろな目を細め、ぺろりと赤い舌で唇を舐めた鯰尾は自分の体重を前に乗せ、少し上体を上げると、その勢いのまま、鈴の唇を舐め取り、そのまま顔は下降していき、その赤い舌を首筋に這わせ、鎖骨に吸い付いた。
ちゅう、ときつく吸われ、鈴の体はきゅう、と固くなり、鈴は息を詰めた。


「あれ、あるじ、すこしふとりました?すごくやわらかくて、きもちいいですけど」

「ひゃあ、っ、な、まずお、っさま?!」

「ふふっ、あるじ、やわらかくてきもちいいです、」

「やあっ、んんっ、は、ぁっ」


するすると脇腹を撫で、鎖骨に這わしていた舌は、服を捲った所から露わになった肌へと移り、舌でぺろ、と舐めたり、吸い付いたり。
鯰尾からされる行為にびく、びく、と体を跳ねさせていた鈴だが、こんな事をこれ以上鯰尾にさせる訳にはいかない、と。
そう、強く思うと、腹筋で何とか上体を起き上がらせ、鯰尾の方に手を添え、グッと鯰尾と距離を開けた。

その鈴の行動に鯰尾は一瞬動きを止め、少し間のあった後、唇をガタガタと震わせ、その唇は段々と紫色に変色していった。

その鯰尾の急激な変化に鈴はただ戸惑い、頭がパニックになりそうな時だった。

ガタガタと震えていた鯰尾の唇から何か聞こえ、必死に耳を澄ませてみた。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「鯰尾、様…?」

「へたでごめんなさい、もっとうまくなりますから、っ、だから、ほねばみには、もうっ!!」

「お、落ち着いて下さい!」

「お、おれ、がんばりますから、っ、だから!!」

「鯰尾様!!」

「っ!!」


呪文のように“ごめんなさい”を繰り返す、鯰尾。
そして、その後に続いた言葉に鈴はぎゅう、と胸が締め付けられ、グッと奥歯を噛み締めた。

必死に“主”に許しを乞う鯰尾に鈴は声を張り、鯰尾の名前を呼んだ。

当然、鯰尾も骨喰もビクッと体を大きく震わせ、その表情は恐怖に染まったのだが、鈴は骨喰の目をじっと見つめ、そんな鈴の目に骨喰は目を揺るがせ、戸惑っていたのだが、鈴がゆっくりを頷くと、骨喰の顔から少し恐怖は消え、骨喰はすっと視線を逸らし、兄弟である鯰尾に視線を移した。

鈴の体にピッタリとくっつく距離にいる鯰尾は、体をガタガタと震わせていたのだが、鈴はそんな鯰尾の体を出来るだけ優しく抱き締め、その小さくなった背中を何度も何度も撫でた。

暫くそうしていると、鯰尾から震えはなくなり、それを感じると少し距離を開け、鈴は鯰尾の虚ろな菫色の瞳をじっと見つめた。
鯰尾は目を逸らす事もなく、じっと鈴の目を見つめ返し、そんな鯰尾に鈴はふんわりと微笑んだ。


「鯰尾様、私が誰か分かりますか?」

「・・・・、わからない」

「ええ、分からなくていいんです。
私は、今日、つい先程、此処に来たばかりの手入れ師です」

「ていれ、し…?」

「ええ、そうです。手入れ師ですよ」

「ていれ、し…、あるじ、じゃない・・・?」

「ええ、鯰尾様の知っていらっしゃる“主”ではありません」

「あるじ、は・・・?」

「“主”は、もうここには居ません」

「い、ない・・・?」

「ええ、いません。もう、戻って来る事もありません」

「い、ない・・・、もう、いない・・・」

「ええ、いないんです。だから、鯰尾様?」

「・・・?」

「さっきみたいな事は、もうしなくてもいいんです」

「しなくても、いい・・・、?」

「ええ、いいんです。
だから、もう、安心して下さい・・・、鯰尾様も、骨喰様も…、もう傷付く事はないんです」

「おれ、も…、ほねばみ、も・・・」

「ええ、お二人共。お二人だけじゃないです、この本丸にいらっしゃる皆様も、です」

「みんな、も・・・」

「ええ、皆も、です」

「お、れ・・・、おれっ・・・」


菫色の瞳に涙が張り、その涙が溢れ零れ落ちると同時に鯰尾は鈴の胸目掛け飛び込んできた。
鈴の胸で大声を出しながら泣き、鈴はそんな鯰尾の背中を撫で、鯰尾が落ち着くのを待った。

骨喰は、泣き出した鯰尾に駆け寄り、鯰尾の傍で歯を食いしばり、大きな涙の粒を流した。

どれぐらいそうしていたのかは分からないが、鯰尾も骨喰も落ち着きを取り戻し、骨喰に支えられ、鯰尾は鈴から離れた。


「兄弟がすまなかった」

「いえ・・・」


心配そうに鯰尾を窺いながら、鈴にそう言った骨喰。
あまり鈴を見ようとはしないが、少し見えたその目は先程に比べて、幾分か落ち着き、柔らかなモノへと変わっていた。


「鯰尾様・・・?」

「・・・・」


優しくその名前を呼ぶと鯰尾は鈴を見た。
その目は泣き腫らし、うさぎみたいに真っ赤になっていたが、菫色の瞳は綺麗に澄んでいて、その瞳にほっと息を吐いた。


「私の事は信用されていないかもしれません。ですが、手入れだけ、させていただけないでしょうか?」


その言葉に鯰尾も骨喰も目を開いて驚かれたが、鯰尾は少しの沈黙のあと、じっと鈴の目を見つめ、ゆっくりとその目を閉じた。


「いいですよ」

「兄弟・・・?」

「別に信用はしてないけど・・・、貴女の霊力は心地いいですからね」


閉じていた目を開け、少し困ったように見える笑みを浮かべた鯰尾。
その言葉に鈴も困ったように笑みを浮かべた。


「そんなに心地いいんですか?わたしの霊力って」


鈴の言葉にこくんと頷くと、鯰尾は鈴の足元に座り、その頭を鈴の膝に乗せ、ゆっくりと目を閉じた。

その鯰尾の頭に手を軽く置くと掌に霊力を集め、ゆっくりと鯰尾の体内へと巡らすように霊力を注ぎ。
次第に感じる、鯰尾の淀んだ神気が消え、暖かな神気で満たされていくのを感じ鈴の口は自然と緩んでいた。

手入れが終わる頃には、鯰尾は眠っており、そんな鯰尾に気付いた骨喰は鯰尾を抱きかかえ、縁側の暖かなお日様の当たる場所に移し、服に着いた砂やらを掃いながら穏やかな顔をして眠っている鯰尾にふんわりと穏やか笑みを浮かべた。


「兄弟のこんな穏やかな表情を見るのは久し振りだ…」


ぽつり、と骨喰の零した言葉に胸が締め付けられた。

ずっと戦ってきた、鯰尾。
次第に明るい笑顔も減り、言葉数も少なくなり、最終的にはこんな状態になってしまった。
そんな鯰尾の変化に誰よりも早く気付き、傍に居て、ただ弱っていく鯰尾を支えていた骨喰。

だから、今の鯰尾の状態に安堵し、喜び、嬉しい。

そんな感情が訊いて、見て取れた。


「手入れ師、だったか」

「はい」

「俺も手入れしてくれないか」

「・・・え?」

「だめ、だろうか・・・」

「いえ!!だめと言う事はありません!!ただ、驚いてしまって・・・」

「そうか・・・、兄弟が言っていた」

「・・・?」

「貴女の霊力は、心地が良い、と…」

「ぷっ、またそれですか?」


今日何度目かのその言葉につい吹き出してしまい、骨喰もそんな鈴に表情を緩ませた。

鯰尾や骨喰には、やはりこんな表情が良く似合う。


「して、くれるか?」

「ええ、勿論です」


首を傾げながら、鈴にそう尋ねた骨喰に深く頷くと骨喰は鯰尾の体を奥へとずらし、そのずらした空いたスペースに横たわり、鯰尾を抱え込むようにしてゆっくりと目を閉じた。

鈴は、それを確認し、骨喰の頭に軽く手を置き、鯰尾同様、霊力を骨喰に注いだ。
少しして、骨喰の淀んだ神気は無くなり、暖かい神気で満たされ、手入れが終わる頃には、骨喰もぐっすりと穏やかな顔をして眠りについていた。

穏やかな表情で寄り添って眠っている二人の兄弟に鈴は笑みを浮かべ、その二人の柔らかな髪を何度か撫で、手持ちのボストンバッグの中から膝掛を一枚取り出し、それを鯰尾の方へ、着ていたジャケットを骨喰の方へと掛け、残ったお茶を飲みながら、その寝顔を見ていた。

その穏やかな時間が一時間程経った頃、お茶とお菓子を持って来た燭台切とそれに着いて来た大倶利伽羅、鶴丸が一瞬目を丸くしたが、次の瞬間には穏やかな笑みを浮かべ、鶴丸と大倶利伽羅は鯰尾と骨喰を起こさないよう優しく抱きかかえると、二振りの自室へと向かった。

日が落ちだして気温が下がったまま、一時間ばかり薄手の長袖Tシャツで居たからか鈴の体は冷え、思わずくしゃみを一つしてしまえば、燭台切にスーツの上着を着せらた。
あまりにも大きく、ぶかぶかなのは当たり前で手は当然出なく、袖をぶらぶらとさせていたら、燭台切に凄い勢いで抱き締められ、弾力のある胸に鼻をぶつけてしまった。

直ぐ、刀剣男士の皆を手入れ出来るとは思っていない。
大倶利伽羅にしろ、鶴丸にしろ・・・、先程の鯰尾や骨喰は、ただタイミングが良かっただけ。

だから、直ぐに手入れが出来るとは思っていないけど、手遅れになる前に手入れしなければ・・・、そう心に強く思った。

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