涙を流し、笑顔を浮かべる
ぶるっ、と冷え込みを感じて、重い瞼を開けた。
目に飛び込んだのは見慣れた天井で、体に乗っているのは少し重い掛布団。
暫く、ぼぅ、と天井を見つめつつも、朧気に頭の中に浮かぶのは優しく暖かな霊力を持つ彼女の姿。
何となく覚えてるけど、記憶があやふやで良く思い出せないけど、何かしてはいけない事をしてしまったような気がする。
ううん、と思わず眉を寄せてしまったけど、ふぅ、と息を吐き、起き上がった。
すると布団の重さで気付かなかったけど、久し振りに感じた体の軽さに思わず変な声が出てしまった。
俺の体ってこんなに軽かったんだなー。
それに妙に感動してしまって、腕をグルグルと回してみたり、掌を開いたり閉じたりしていると、隣が動く気配がしてそちらに目をやると俺が起きた事に気付いた骨喰が起きたようだ。
骨喰は眠たそうな目を擦りながら、キョロキョロと周りを見渡して、その視線が俺を捕えると目を大きく見開いて、次の瞬間には俺と同じ菫色の瞳を潤ませるとボロボロと大粒の涙を零した。
「骨喰…?」
骨喰の泣く姿に俺はどうしていいのか分からなくなって、驚くやらオロオロしてしまうやらで冷静さを欠いてしまったが、骨喰が泣いている理由を分かってしまって。
次第に俺の目にも涙が浮かんで、咄嗟に骨喰を抱き締め、わんわんと声を出しながら泣き、お互いの抱き締める力が強まり、体が悲鳴を上げるように痛かったけど、そんなの構う事もしなくて、ただ、涙を流した。
暫くそうして泣いていたけど、ふと、あの手入れ師の彼女は、どうしているのか気になって。
骨喰もきっと俺と同じ事を思ったんだと思う。
体をそっと離し目を合わすと、泣いて真っ赤になった目を柔らかに細め、小さく頷き。
骨喰の手を引っ張り立ち上がらせると、しっかりとした足取りで立ち、部屋を出た。
外は白んでいて、段々と朝日が昇りだしていて、空気はひんやりとしていた。
自分たちの重みでギシ、ギシ、と鳴る床の音を聞きながら、自分達の体内にゆっくりと流れる霊力と辺りに漂う同じ霊力を辿り歩き、その霊力が一番濃い場所に着くと、其処は思い出したくもない前任の審神者の部屋だった。
「っ!!」
「兄弟…、大丈夫、か…?」
「だ、だいじょうぶ…」
それにビクッ、と体が跳ね、強張り、骨喰が心配そうな声で訊いて来たけど、それよりも部屋の中から感じる彼女の霊力に妙に安心してしまって、障子戸を引き部屋の中に足を踏み入れた。
部屋の中は薄暗かったけど、夜目の効く俺達のはそんな困るモノでもなくて、正確に彼女が眠っている布団に近付き、布団の側まで来る事が出来た。
布団に横になり眠っている彼女の顔を覗き込むと、そこには涙の痕が頬に残っていて、骨喰とつい顔を見合わせてしまった。
「泣いていたみたい、だな」
骨喰はむっ、とした表情になり、開けっ放しだった障子戸を音を立てないように閉めたかと思ったら、再びこちらに戻って来て。
そして、彼女を真ん中にして俺と反対側に座ったのを見て、俺もその場に座った。
骨喰が難しい顔で眠っている彼女を見ているのを不思議に思った俺は、少し神経を研ぎ澄まして彼女を観察してみると三日月さんと小狐丸さんの神気を感じ取る事が出来た。
「三日月さんと小狐丸さん、かぁ…」
「そうらしい」
その纏っている神気の意味を大体察した俺達は思わず溜め息を吐いてしまった。
「彼女ガード緩そうだもんなぁ…」
「…あれだけした兄弟がそれを言うのか?」
「へ…?」
「覚えていないのか?」
「覚えて…、……あ”」
骨喰の言葉にはて?と首を傾げてしまって、必死に記憶を辿ると骨喰が言った言葉の意味がパッと頭に浮かんで思い出し、すっと骨喰から視線を逸らした。
起きた時に思い出しそうで思い出せなかった【何かしてはいけない事をしてしまったような気】ってこれだったのか…
じとじとと感じる骨喰の視線に耐えきれなく、ゆっくりと骨喰に視線を合わすと、その菫色の瞳には呆れが浮かんでいて、どうしようもなかった俺は、ははっ、と笑って誤魔化した。
…骨喰からは溜め息を零されたけど。
苦笑いを浮かべる俺に骨喰は、困ったような視線を向けた。
その視線にうっ、としてしまったけど、その視線は俺から彼女に移されて、その意味に俺も困った笑みを浮かべる事になった。
「三日月さんと小狐丸さんだけに良い思いをさせる訳にはいかないよなぁ」
そうごちるように零すと悪戯に笑みを浮かべて、彼女にくっつくようにぴったりと寄り添い寝転がり。
そんな俺の行動に骨喰が溜め息を吐いたのが分かったけど、骨喰もゴソゴソと動き、俺と同じように寝転がった。
素直じゃないなぁ、って思っていると、服を通り越し、肌に感じる優しく暖かな霊力に段々と瞼が重くなり、それに逆らう事すらせず、目を閉じ再び眠りについた。
すると、夢をみた。
思い出せないぐらい、ずっと見てなかった夢。
その夢は今みたいに、彼女を真ん中にして縁側に座り、短刀達が笑いながら元気に走り回って遊んでいる姿を穏やかな気持ちで見ている夢だった。
そして、俺達が目を覚ましたのは、空腹を感じたとかそんなの可愛い理由ではなく、耳がキーンとなるような彼女の叫び声だった。
「なっ?!へっ?!ど、どうして?!」
驚き、目をパチパチとさせ、今の状況を必死に理解しようとしている彼女がなんか可笑しくて、ぷっ、と吹き出すと骨喰も笑い。
そんな俺達に彼女はキョトンとしたけど、俺達に釣られて吹き出して。
部屋には次第に笑い声が広がり、燭台切さんが彼女の叫び声を聞き付け様子を見に来るまで、それは続いた。
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