終わらない KISS OF FIRE【前】


両手に掛かる重さに何度も立ち止まりそうになりながらも、足を動かせば、少しずつだけど我が家へとは進んでいる。
自分を励まして、励まして、やっと我が家がある高層マンションに着いた。

最近になって、やっと見慣れたこのマンション。
このスマートキーにも慣れたら、これが凄く便利で、両手が塞がっていても鍵を開けれるんだから、こんな時こそピッタリだ。

ふるふると震える腕を持ち上げ、鍵を翳してロックを解除して、まだ電気の付いていない我が家へと帰った事に、ホッと息を吐いた。

今日、こんなにも大荷物だったのは、恋人が一緒ではなかったから。
いつもは、どちらかの恋人と買って帰るから、荷物は一つ。

恋人は、どちらも全て持とうとするから、毎回スーパーのサッカー台で奪い合いをするぐらい。
毎回、恋人が負けて、私が一つ持つのだけれど、不機嫌そうな表情をする恋人が愛しいと思ってしまう私は、どちらの恋人も好きなんだなぁ、と、実感する。

そんな恋人が、買い出し日である今日に限って、会議で2時間ばかりの残業が決定。

それをメールで知らされた私が、一人買い出しに赴いたのだけれど、流石に一人じゃ無理あったかも、と。
そんな事に気付いたのは、清算を終えてサッカー台に買った物を置いた時。

買ったモノは仕方ない、と、気合いを入れて帰って来たけど、やっぱり無茶があった。

玄関と廊下の電気を付けて、そのままキッチンへ。
キッチンの電気を付けると冷蔵庫を開けて買った物を仕舞ってから、自分の部屋に入って部屋着に着替えるとやっとオフモードに切り替えれて、気の抜けた声が出て、ベッドにぼふん、と、寝転がった。

今週、最後の出勤日だけあって、片付けないといけない仕事が山のようにあって頭がパンクしそうだった。
明日から三連休のせいかもしれないけれど、それを差し引いても、今日は忙し過ぎた。

少しぐらいこんな風にダラダラしても、赦される。
そんな事を思いながら、少しウトウトしたが最後。

少し横になるつもりだったのが、私の意識は沼に嵌まったようにズブズブと沈んでしまった。

************

「ん、ぅ…、ん、…ひ、ろ…、みつ、さ…、ん、?」

「化粧、カバーに付くぞ」

「ぁれ…、もう、…、帰った、の……?」

「ああ、ただいま…、百合」

「おかえりなさ、っんン、んっ、ぁ、」


髪を触られている感じがして、薄く目を開けると、ぼんやりと映ったのは恋人の一人。
ベッドの縁に腰掛けて、見た目の印象とは違って、壊れ物に触れるようにそれに思わず口元が緩んでしまう。

化粧したまま寝てしまった事に恋人は苦笑いを零して、私の唇に自分のそれを重ねた。

触れ合うだけだったそれが深いものに変わったけど、私は自分も舌を出して、彼の舌に絡めるようにすると、彼が小さく笑ったのを感じた。

彼は私の頭をそっと抑えて、更に私を求めてくれた。

今のこの生活になって、私は随分と恋人達に染められたと思う。
手を繋ぐのだってそう、キスだって、それ以外だって、恋人達の好みを覚えた。

でも経験値の差があるからか、どうしても、私が先にバテてしまう。


「ふ、っぁ、んんっ、はぁ、っ、んっ、ひ、ろっ、んっぅ、み、んぅ、っ、」

「まだ、っん、んンっ、は、ぁん、っ」


耳には、くちゅ、ちゅぷ、と、イヤらしい音が聞こえる。
その音だけじゃなくて、広光さんの吐息も鼓膜を震わせて、ずっと背筋がゾクゾクしてしまう。

腰まで震えてしまって、体の真ん中がきゅん、として、つい、太股を擦り合わせると、広光さんが、す、と太股を指先で撫でた。


「ん、ちゅ、っン、…ッ、はぁ、だめ、ふ、ぅん、ぁ、」

「は、っ…、分かってる、」

「ぁ、ンッ、んんっぅ、」


首筋や鎖骨にも唇を落として。
指先は太股や腰骨を撫でて。

それだけで、溶かされてしまいそうで。

そのまま、流されてしまいそうになったけど、頭の隅には光忠さんの事や夕飯の事、お風呂の事や色んな事があって。
それで、ダメ、なんて言ってしまったけど広光さんは、ちゃんと分かってたみたいで。

苦笑いを零しながら言われてしまったものだから、我が儘と思いつつも、物足りなさを感じてしまった私は、随分と変わってしまったのだと感じた。

最後に名残惜しげに糸を引きながら唇を離した広光さんは、私の頭を数回撫でて、その身を起こした。


「先に風呂にするか」

「それなら先に広光さんが入って、」

「夕飯の準備があるから、俺は後でいい。先に百合が入って来い」

「……、光忠さんは?」

「あいつは残業だ。同期に社畜同然の奴がいるんだが、そいつがここ二月程、ほぼ毎日残業で見兼ねた光忠が手伝いを勝手出てな」

「光忠さんらしい…、それじゃあ先にお風呂頂くね」

「ああ、そうしろ。その間に夕飯作っておく」


ちゅ、と、額に唇を落とした広光さんが部屋から出て行って、私は着替えを準備した。

それにしても、光忠さんは、本当に人当たりがいい。
幾ら同期だからって、残業してまでその人の分の仕事を手伝うなんて。

きっと今日帰って来るのは、日付が変わるぐらい。
何か光忠さんの為に出来る事はないか…、そこまで考えて、考える事を止めた。

私は良かれ、と思ってするけど、それは逆に光忠さんの負担になってしまう。

例えば、光忠さんの帰宅を待つ事。
彼は、それを極端に嫌がる人だから。

自分の帰宅が遅くなってしまった為に、私や広光さんの睡眠時間を削ってしまう。
そんな風に考えてしまうから、それを知ってからは、置き手紙を残すに留まるようになった。
私も広光さんも、それぐらい何の負担にもならないのに、自分の事より人の事を考えてしまう光忠さんだから、仕方のない事だとは思うけれど。

着替えを片手に部屋から出て、キッチンを覗くとギャルソンエプロンを付け、邪魔にならないように長い襟足を一つに結んだ広光さんの姿。
リズム良く包丁を動かし、食材を切っているその姿は、やはり料理慣れしていて、私よりも手際良いものだから、彼らに手料理を振る舞えるのは随分先になりそう。

キッチンを通り過ぎ、脱衣所に入ると早々と服を脱いで、そのまま浴室に。

いつものようにメイク落として、髪を洗って、体も洗って。
その間に追い焚きしていた浴槽の水は、お湯に変わっていて、丁度良い温度の湯舟に一気に肩まで浸かると、やっと一日が終わった気がした。

ふぅー、と、長い息を吐いて、体を十分に温める間、浴室テレビを何と無く付けた。

まだそれ程遅い時間じゃないからか、入浴中に初めて見た、生放送の音楽番組。
それも今始まったばかりなのか、司会の後ろにある階段のセットから、アーティストが登場しているところだった。

全てのアーティストが登場し終わったみたいだが、今回は特に好きなアーティストが居なかったから、少ししょんぼりしてしまった。
多分、日頃良くテレビを見ていれば、出演アーティストを知らせるようなCMを見るんだろうけど、三人で暮らしてから、不思議な事に余りテレビを見なくなった。

正確に言えば、地上波のテレビ、だけど。
見るとしたら、夜のニュース番組を何と無く見るだけ。

後は、借りて来たDVDや、契約しているケーブルテレビの番組。
食事中はテレビを付けないし、見るとなれば食後から寝るまでのほんの数時間。

一人での生活は、寂しくて帰宅早々テレビを付けて、寂しさを誤魔化していたけど、今は一緒に暮らしているから、そんな寂しさはない。
だから、随分とテレビ離れしてしまって、最近のドラマに疎くなり、同僚との会話についていけない。

ドラマは仕方ないにしろ、流石にニュースを見なくては、と、夜のニュース番組やネットニュースはなるべく見るようにしている。

適当に番組を回してみたけれど、特に興味を引きそうな番組はなかった。
こればかりは仕方なく、顔に浮かんだ汗を湯舟のお湯で数回洗い流し、テレビを消して素直にお風呂から上がる事にした。

脱衣所には、光忠さんがこだわった肌触りの良いバスマットとふわふわなバスタオル。
バスマットで足裏の水気や、下に落ちる肌に伝う水気を吸い取り、ふわふわなバスタオルで完全に水気を無くす。

やはり、光忠さんがこだわって、光忠さんお気に入りのメーカーなだけあり、使い心地は最高で、お風呂上がりのこの瞬間が密かな幸せだったりする。

ショーツを穿き、簡単に纏め上げていた髪を下ろして、フェイスタオルで髪の水気を取る。
挟むようにして水気を取るのは、不思議な事に光忠さんに教えてもらった。

それまでは、わしゃわしゃと乱暴にしていたけど、それを知った光忠さんに優しく怒られた。
何でも、そのやり方は、髪にダメージを与えるそうで、今みたいに挟むようにするのが髪にはベストだそうで。

それを教えて貰ってからは、素直に光忠さんの言う通りにしている。

怒鳴るように怒られるのも相当ダメージを受けるけど、あんな小さい子供を叱るような怒られ方の方がダメージが大きかった。

パンパン、と、挟むようにして水気を取ると、毛先から雫が垂れなくなった。
そのまま、鏡の収納扉を開き、ヘアオイルを取り、それを適量髪に馴染ませた。

不思議な事に、このヘアオイルも光忠さんに教えて貰ったブランド。
自分には全く必要のないものなのに、何故か光忠さんは知っていて、同棲二日目に私にプレゼントしてくれた物。

光忠さんの交友関係は知らないけれど、多分、美容に詳しい友人でもいるんだろう。

光忠さんにプレゼントして貰った、このヘアオイルは蓋を開けた時は、何とも言えない匂いだけど、髪に付けて乾かすと甘い匂いになって、とても気に入ってる。
一人暮らしだった時は、髪を乾かす事が面倒で、乾かさない日もあったけど、このヘアオイルのお陰で、ちゃんと乾かすようになった。

因みに此処まで、ショーツ一枚のほぼ裸の状態。
折角、湯舟に浸かって温まったのに、体が冷え切ってしまった。

でも、髪を拭く時に、服を着ていたら首元や背中部分が濡れてしまって気持ち悪くて。
何か良い方法はないか、と、模索しているけど見付からず、結局、このスタイルを維持している。

化粧水は後で良いか、と、パット入りのキャミソールを手に取ろうとした時だった。

脱衣所の扉が急に開かれて、私の動きは石のように固まり。
そのまま、ギギギ、と、音が鳴りそうな程、ぎこちなく扉の方を向くと、そこには広光さんの姿が。

私のこの格好に驚いているのか。
それとも、私が居た事に驚いているのか。
それは分からないけど、広光さんも私と同じように固まっていた。

実の所、広光さんに裸を見られたのは初めてだった。
明るい所で見られたのが初めて、と、言う訳じゃなく、本当に初めてで。

同棲を始めて、二月は経つのに、まだ広光さんと裸になるような事をしていないから。
さっきみたいなキスをしたり、ギリギリなところまではしているけど、それ以上先は一度もしていない。
キスをされるだけで、ぐちゅぐちゅに濡れてしまう程に開発…、みたいな事はされているけど、本当にそれ以上先はなかった。

だから、この状況にどうしていいのか分からない。

悲鳴を上げて良いものなのか。
出て行けと叫べば良いものなのか。

本当に分からない。

頭の中がグルグルとしてしまって、何が正解なのか分からない。

それに広光さんは、私と付き合うまで、純粋なゲイだった。
私限定で女性も愛せるバイにはなったけど、女体を見ても平気なのだろうか。
私が広光さんとそうゆう事をしたい、と、切り出さなかったのは、私の体を見て幻滅しないか不安だったから。

私には男にあって、女にはないモノがある。
その逆の男になく、女にあるモノがある。

それを見て、広光さんは私を変わらず愛してくれるのか。
それが不安で、怖くて、あからさま過ぎる程にキスより先を避けていた。


「ご飯…、出来た、の?」

「っ、あ、あぁ、」

「ごめん、直ぐ出るから先に座ってて、」

「わ、かった」


咄嗟に出たのは、そんな言葉だった。
広光さんは、ハッとして視線を逸らして、ぎこちなく頷くと少し焦りながら、脱衣所の扉を閉めた。
広光さんの姿が見えなくなったところで、何とも言い表せない溜め息が出た。

服の上越しから、秘部をなぞられたりとは、していたけど胸を触られた事はなかった。
けど、今ので私には男にはない乳房がある事が広光さんには分かってしまって。

もしかしたら、そんな事は分かっていたかもしれない。
ただ、無意識の内に触れてなかっただけで、分かってはいたかも。

でも、そうじゃなかったら?
私の裸を見て、胸がある事を目の当たりにして、幻滅してしまったら?

一度考えてしまうと、そんな事ばかり考えてしまって、泣いてしまいたい。

泣きそうになるのをぐっと堪えて、服を着て。
不安で逃げ出したい気持ちに必死に蓋をして、広光さんの待つダイニングへと向かった。


************


ダイニングへ行くと広光さんは座って待っていた。
結んでいた襟足はそのままだったけど、エプロンは外していて、椅子の背凭れに適当にかけられていた。

テーブルの上には、野菜とお肉がバランス良く使われたおかずが数品にお味噌汁と白ご飯。

それを見た瞬間、さっきまでの不安や気まずさは、何処へやら。

急激に空腹を感じ、お腹が小さく、きゅう、と、鳴った。

そう言えば、お昼から何も食べてなかった。
3時頃に少し持って行っていたお菓子を少し食べたけど、それ以降は飲み物以外口にしていなかった。

まだ湯気が上がる料理を前にして、我慢出来る筈がない。
広光さんの料理の腕は、自分自身が良く知っている。
こんなの絶対美味しいに決まっているのに我慢出来る訳がない。

自分の席に座ると真正面に広光さん。
気まずそうではあったけど、少なからず安心したかのように見えた。

多分、きっと。
私以上に困惑しているのは、広光さんの方。
初めて見た女の裸体に困惑していたり、気まずくなっている広光さんに私が出来るのは、何でもないフリをする事なんじゃないか。

さっきの安心した表情を浮かべた広光さんを見た瞬間、そうする事がベストなんじゃないか、そう思ったから。

広光さんと光忠さんとお揃いのお箸を持つと今すぐにでも頬張りたい衝動をぐっと堪えた。


「いただきますっ!」

「あぁ、ちゃんと食えよ」

「はいっ」


シャキシャキのお野菜。
シンプルな中華炒めだけど、お野菜の味がちゃんと残っていて、素材そのものを楽しめる。

お肉は鶏肉で、モモ肉を使っているから柔らかくて凄くジューシー。
じわ、と、口の中に鶏肉の肉汁が広がって堪らなく美味しい。

白いご飯も健康を考えて、プチプチとした食感の麦が入っていて癖になる。
お味噌汁もワカメと豆腐のシンプルなものだけど、味噌も濃くなく薄くなく良い塩梅で、体にじんわりと染み渡る感じがして落ち着く味で。

箸休めにあるほうれん草のお浸しも、出汁が美味しくて、ほうれん草臭さがなく食べやすい。

食事に夢中になって、あっという間に平らげてしまった。

広光さんが言っていた。
お前がそんな風に食べる姿を見るのが楽しみの一つだ、と。
だから俺も光忠も、いつも食べ過ぎてしまって、光忠なんか体重を気にしている、と。

それを聞いた時は、そんな事はないんじゃ…、と、思ったけど、実際。
一緒にご飯を食べるようになってから、広光さんも光忠さんも食事の量が増えたのは、確かだった。

だから、白米に麦を混ぜて炊くようになったし、お野菜の料理も増えた。

今日も広光さんは、良く食べた。
ご飯は三杯お代わりしたし、男の人だからお肉は好きなのは分かるけど、一人で鶏肉を半分以上食べていた。

食後の玄米茶を啜りながら、彼らの言った事を思い出していた。

食器は食洗機に放り込んだから洗い終るのを待つだけ。
後は、広光さんがお風呂に入るだけなんだけど、広光さんは余程仕事が疲れたのか、食後の事もあって、ソファに寝転がり眠たそうに欠伸を零している。


「広光さん、お風呂に入って寝た方が良いよ」

「……あぁ、」

「ほら、起きて。着替えは持って行くから、」

「…、はぁ、…分かった」


今にも寝そうな広光さんの体を揺らし、そう言いながら反動をつけて広光さんの腕を掴み起き上がらせた。
面倒臭くしながらも諦めた様子の広光さんは、頭をガシガシと掻き、大きな欠伸を一つ零して、ゆったりとした足取りで浴室へと消えた。

広光さんの姿が見えなくなって、はぁ、と、息を吐いた。

不自然ではなかっただろうか。
いつものように接していただろうか。

そんな不安から解放された瞬間に出た溜め息だった。

それを隠すように広光さんの部屋に入り、クローゼットから着替えを出すと部屋の中を見渡した。
以前に住んでいた部屋と同じように物が少なく、必要最低限の物しか置いていなくて、広光さんらしい部屋。

部屋は勿論、広光さんの匂いで一杯で。
凄く落ち着く匂いで、ああ、本当にこの人の事が好きなんだ。

この部屋に居ると広光さんに抱き締めて貰ってるみたいな感覚になる。
いつもみたいに、ぎゅ、と、優しく抱き締められて、沢山キスをしてもらって、耳元で甘い言葉を囁かれて。

それを思い出してしまって、つい、足を擦り合わせてしまった。

体の真ん中がきゅん、と、して、じわ、と、する。
触れられていないのに乳首が敏感になって服に擦れるだけで変な声が出そうになる。

私は、こんな女じゃなかった筈なのに。
思い出しただけで、こんなに感じるなんて、私じゃないのに。

広光さんに全て変えられた。
キスをされるだけで、触れられるだけで、感じる体になってしまった。

広光さんの事を考えれば考える程、秘部が熱を持って、じわ、と、する。

男性経験が殆どない私でも、こうなってしまっては、どうにかしたいと思うのは当然だった。

広光さんは、お風呂に行って、まだ時間は経っていない。
広光さんのベッドに凭れて、少し足を広げて座って、そろり、とショーツの中に手を忍び込ませると、指先にヌルリとした感触があった。

それを指先に付け、クリトリスに触れると、ビリビリッと体中に電流が走った。


「ンンッ、ぁっ、んっ〜〜〜〜、はァっ、ぁ、」


指の腹でクルクルなぞって、爪でカリ、と引っ掻くと呆気なくイッてしまった。
ビリビリとさっきよりも強い電流が体中を走り、太股はプルプルと震えて、爪先がぎゅう、と丸まった。

はあ、はあ、と、荒い息が出る。
頭の中がぼう、として、まともに頭が働かない。

それでも広光さんの部屋で、広光さんの匂いに包まれて、これだけで我慢出来る訳なかった。
体はもっと今より強い快感を求めていて、秘部が治まるどころか、更に疼いて。

気がおかしくなりそうだった。

体中熱を持って、その熱が外に出れずに燻ってる。

広光さんの入浴時間は長い。
男性の平均的な入浴時間よりは、と云う意味だけど、まだお風呂から上がって来ない筈。
ドキドキと心臓が早鐘を打ってるけれど、構う事無くショーツごとスボンを膝下まで下げた時だった。

ガチャ、と音がした。
そして次の瞬間には暗い部屋に差し込む、リビングからの明かり。
え、と咄嗟にドアの方に視線を向けると人の姿があって。
最初は逆光で分からなかったけど、そこには腰にタオルを巻いた広光さんの姿があった。