【02 誰も私を救えない ーなまえー】

今日の歌謡祭は出演者を見て、私が少し楽しみにしてた日でもある。

歌謡祭の為、早くから会場入りしてリハーサルの順番を待つ。

他のスタッフさんやアーティストが行き交うステージ袖での待機に加え、舞台裏のブイログまで撮られてるからオンニ達も私に危害を加え辛い。

『カルミアの皆さん、リハお願いします。』

オンニ達はリハでも気を抜かない。
それはリハに力を入れるって意味ではなく、あざとく男に媚びるって方。

リハなのにスカートやショートパンツ、クロップ丈のTシャツとか。
私はもちろん上下スエットかジャージ。

少しでも肌が出てるとオンニ達が怒るから。

メイクに入る前だからマスクと帽子も絶対外せない。
目の下のくまがひどいし、昨日殴られた頬が少し青くなっているから。

夏はキツイけど、オンニ達の機嫌を損ねるよりは、よっぱどマシ。
今年の夏は熱中症で倒れかけたけど…。

『カルミアの皆さんありがとうございました!本番も宜しくお願いします。』
FY『お願いしまぁーす!』

私は小さくお辞儀をし、ステージを降りる。

『なまえー!』

暗闇から私を呼ぶ声が聞こえ顔を上げると、テヨンオンニ、スヨンオンニ、ユリオンニとSHINee先輩が駆け寄って来た。

TY(テヨン)『なまえー!会いたかったよー!みんなも元気だった?』
SR『はい!』

私を抱き締めながらメンバーにも声をかけるテヨンオンニ。
ぎゅっとされすぎてちょっと苦しいけど、幸せだからいい。

SY(スヨン)『テヨンだけずるい!私もなまえハグしたい!』
YR(ユリ)『私も!』

憧れの少女時代オンニ3人に抱き締められて、それだけで生きてて良かったと思う私は、やっぱり単純なのかもしれない。

だけど、この後のことを考えると憂鬱にもなる。

TM(テミン)『なまえ相変わらずダンスキレッキレだったね!』
「テミンオッパ程ではないですよ。」
KEY『みんなもなまえ見習わないと!』
「キボムオッパ…」

キボムオッパの言葉に少しムッとした表情を浮かべるオンニ達に気付いた。

やっぱり楽屋戻ったら大変そう…。

MH(ミンホ)『まあまあ!皆んなだって良かったよ!』
MN『ミノオッパ!ありがとうございます!』

ミノオッパが擁護してくれたおかげで、オンニ達の表情が少し柔らかくなってホッとする。

JH(ジョンヒョン)『…なまえ?大丈夫?』
「…え、あ、はい。大丈夫です。」

そう?と首を傾げたあと、優しく微笑んでポンポンと頭を撫でてくれるジョンヒョンオッパ。

何で私はSMに入らなかったんだろう…。
SMの合格通知がもう少し早く来てたら、私は今頃こんな辛い思いはしてなかったのに…。

神様は意地悪だ…。

ON(オニュ)『そろそろリハだって!なまえもみんなもまたあとでね!』

私の頭を撫でステージに上がっていくSHINeeオッパ達を見送る。

TY『私たちも戻らないと!またあとでねー!楽屋遊びにきてねー!』

最後に私をもう一度ギューっとして、少女時代のオンニ達も楽屋に戻って行った。

笑顔で手を振るオンニと私。
だけど、みんなの姿が見えなくなった途端、空気が凍る気がした。

FY『何でいっつもあんたばっかりなの?ほんっと腹立つこのクソガキ。媚び売ってんじゃねーよ。』
SR『楽屋行くまで我慢してねー。』
MN『はい、エバちゃん、楽屋行きましょうね!』

ミニョンオンニに肩を組まれる。
それだけで背筋が凍る。

パフォーマンスに影響が出るのだけはやめてほしいな…。
なんて思ったけど、勿論そんなのは無理で…。

ガシャン!

楽屋に入った瞬間、髪の毛を掴まれてパイプ椅子に投げつけられた。
そのせいで肩と肘を強打した。

「…っ……。」
YJ『なまえ!』
「…大丈夫です。」

反射的に駆け寄って来てくれたユンジェオンニにそう告げる。

FY『あーまじ腹立つ。タバコ。』
『は、はい。』

メイクオンニがファヨンオンニにタバコを渡す。
楽屋では吸わないようにするってマネオッパと約束したのに…。

SR『楽屋で吸わないでよ。臭いじゃない。挨拶に来た子に気付かれるわよ?』
FY『そんなのこの調子に乗ったチビのせいにしとけばいいよ。』

調子になんて乗ってないのに…。

FY『あんたさ、マジいつになったら辞めるわけ?てか何したら辞めてくれんの?あんたがカルミアの華?センター?意味わかんないんだけど。』

そんなこと私に言われても…。
私だってカルミアに加入なんてしたくなかった。

MN『何でエバばっかり好かれんの?実際私たちの方が可愛くない?スタイルもいいし。』

確かに私はカルミアの中で1番小さい。
可愛くも、綺麗でもない。

「…私が、1番そう思ってます……。」
SR『じゃあなんで辞めないの?』
「…っ、それは……」

グッとスエットの裾を握る。
本当は今すぐにだって辞めたい。
だけど…。

SR『私あんたのその目、ほんと嫌い。』
MN『健気に頑張りますって感じ?』
FY『…早く消えろよ!』

ファヨンオンニがテーブルを蹴る。
大きな音が楽屋に響いた。

『あ、あの…そろそろメイクします。』
SR『あ、そう。メイクだって。エバ。』
「…はい。」

今日のスタッフさんは新しめの人が多い。
そのせいか、オンニ達もやりたい放題だ。

メイクの順番は私が1番最初。
理由は誰かに見られる前に痣やくまを隠さないといけないから。

強打した肩と肘が痛い。

『終わりました。』

メイクのおかけで痣はすっかり目立たなくなった。

「…ありがとうございました。」

メイクの後、私はいつも自分の髪の毛をセットする。
大きな事務所じゃないから、そんなにスタッフさんが居ない。

だから、私はメイク以外は自分でするようになった。
だけど、肩と肘を強打したせいで腕が上がらない。

…あ、これヤバいかも……。
少女時代先輩の楽屋に行ってやってもらう?
でも何て言う?
無理だよね…。取り敢えずさっさと用意してマネオッパに氷もらおうかな…。

何となく、それっぽく見えるように髪を整える。

『これ、今日のオープニング用のドレスです。』
「ありがとうございます。」

スタイリストオンニに手伝ってもらいながらドレスに着替える。

「…っ。」
『あの、大丈夫ですか?』
「すみません、大丈夫です。」

衣装に着替え、ペディンを羽織り鞄を持って楽屋を出る。

こんなに大勢のアーティストさんやスタッフさんが行き来してる中、目立たないように、人気のない場所を見つけるのはが上手くなったと思う。

前世は忍者だったのかもしれない。
マネオッパを探したけど、オッパは打ち合わせしてるのか見当たらない。

あんまりちょろちょろして他のアーティストさんに見つかったら困る。
いつも通り人気の少ない場所を見つけて腰を下ろした。

痛み止め飲んでおくか…。
変装してこっそり通ってる病院からもらってる薬をカバンから取り出す。

痛み止め、精神安定剤…
他にもビタミン剤など。

こんなもの飲んでまで続ける意味あるのかな。
手のひらいっぱいの薬とサプリメントやビタミン剤に自分でも可笑しくなる。

「…もしかしてそれ、全部飲むんですか?」

背後から声がして恐る恐る顔を上げる。
逆光で誰かははっきりしない。
声からして男性だってことはわかる。

「あ、えっと、飲みます…。」
「…その青いの、痛み止めですよね?」

鋭いなこの人。誰なんだろう、スタッフさんかな。
それとも、どっかのマネージャーさん?

「違いますよ。全部ビタミン剤です。」
「…や、でも……」

言葉の途中で男の人のスマホが鳴った。

「あの、出ないんですか?」
「…出ます。もしもし?あ、うん、うん、分かった。すみません、呼ばれたので行きます。」
「はい。」
「また後で。」

そう言って男の人は走って行った。
また後でってどういう事だろう。

あ、口止めするの忘れちゃった…。
でも私の姿も暗くてはっきりとは見えてないだろうし…大丈夫かな。

今までバレたこともないし。

手のひらいっぱいの薬を何回かに分けて飲み込んだ。
きっとこれが今日の最初で最後の私の食事かな…。

痛み止めが効くまでボーっとしてると、私のスマホが震えた。

ユンジェ

楽屋戻って来て。エバに会いたいって子達が挨拶に来てるよ。


ユンジェオンニからのカトクに、ズキンと頭が痛くなった。

私のファンだとか、私に会いたいとか言ってくれる人がいることは本当に嬉しい。
だけど、その後は大抵いつも酷い目に遭うんだ。

でも、流石に無視する訳には行かないよね…。


すぐ戻ります



そう返事をして重い腰を上げ、楽屋に戻った。




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