【03 光の消えた瞳 ーWNー】

デビューして初めて迎える年末の歌謡祭。
来週にはKMAもある。

色んなアイドルが一同に集まる年末年始の特番は、俺ら新人にとっては夢のような日でもある。

だからなのか、いつもうるさい楽屋が今日はさらにうるさい。

SG「ねぇねぇ!早くメイク終わってよ!てか、ヒョンはもうすっぴんでいいでしょ!」
MG「は!?何でだよ!やだよ!俺だってかっこよくして行きたい!」
HS「いつもより増し増しでかっこよくしてください!」

メンバーのテンションが高い理由は、色んな先輩アイドル達に会えるから。
その中でも1番楽しみにしてるのは、カルミアだ。

カルミアは3年前にデビューした。
その中のなまえって日本人メンバーを、何故か俺らは気に入っている。

日本人特有の礼儀正しさ、一歩下がってメンバーを見てる仕草、それなのにステージに立つと小さい体から発するパワフルなダンスと、少しハスキーで綺麗な声。
そして、照れたように肩を竦めて笑う姿に、俺らもなまえの虜になっていた。

JS「ウォヌヤ、どこ行くの?」
WN「ここ煩いから、ちょっとフラフラして来る。挨拶行くときになったら呼んで。」
JS「分かったよ。」
SC「すれ違ったら挨拶だけはするんだぞ。」

俺は子供か。

WN「分かってるよ。」
MH「ヒョン待って、僕も行く。」
WN「はは、じゃあ行こうか。」

ミョンホもうるさいのが苦手だったな。
2人で楽屋を出て、人の少ない場所を求めて歩く。

スンチョリヒョンに言われたように、すれ違う先輩達にもちゃんと挨拶をしながら。

MH「あ、ここカルミアの楽屋だ。」

ミョンホがそう言った瞬間、カルミアの楽屋のドアが開き、ペディンを羽織った女の人が出て来た。
その人は顔を上げることもなく、俺らが来た方とは逆の方向へ逃げるように歩き出した。

MH「ねぇ、今のって…。」
WN「うん、なまえちゃんだ。」

どうしたんだろうか…。
一瞬見えたなまえの顔は、俺の知ってる顔じゃなかった。

『あれ、アイツは?』
『出てった。』
『くそ、まだこっちの苛々は収まってねぇのに。』
『外に聞こえるから静かにして。』
『どうせスタッフしか居ないでしょ?』
『それでも聞こえたら面倒なことになるでしょ?』
『誰があんな日本人の話なんて聞くの?もし聞かれても問題ないわよ。それより、パイプ椅子に投げつけた時の顔見た?』
『平気ですって顔してたよね、まじウケる!』

…え。寒気がした、吐き気がした。
楽屋から聞こえるカルミアの声は、悪意と憎悪に満ちている。ステージ上でのあの可愛らしい声とは大違いだ。

俺らが憧れて来たカルミアは一体なんだっんたんだ…。

MH「なまえちゃん……探しに行かない?」
WN「…うん。」

ミョンホと2人でなまえを探す。

MH「どこ行っちゃったんだろう…。」
WN「…居た。」

会場の隅っこの埃まみれの倉庫の入り口に、なまえは小さく丸まって座っていた。

そっと近付くと手のひらいっぱいの薬が見えた。
その中には、強い痛み止めも見える。

なんで、なまえの周りは誰もなまえを助けないんだ?
なんで、マネージャーもスタッフも見て見ぬふりなんだ?

誰か、この小さい女の子を助けあげろよ。

「…もしかしてそれ、全部飲むんですか?」

なるべく優しく声を掛けたつもりだった。
だけど、なまえの肩はビクッと小さく震えて、そらかゆっくりと俺を見上げる。

一瞬目を凝らしたけど、逆光で俺の顔ははっきり見えてないっぽい。

「え、いや、飲みますね…。」
「…その青いの、痛み止めですよね?」

彼女は絶対に肯定しないだろう。
それでも聞きたかった。そうですと、助けてくださいと。

「違いますよ。全部ビタミン剤ですから。」
「…や、でも……」

何で彼女は助けを求めないんだ。
光の無い瞳を真っ直ぐに俺に向ける彼女を見つめてると電話が鳴った。

「あの、出ないんですか?」
「…出ます。もしもし?あ、うん、うん、分かった。すみません、呼ばれたので行きます。」
「はい。」
「また後で。」

シュアヒョンから、そろそろ戻って来いと連絡が来た。

きっとカルミアの楽屋にも挨拶に行くはずだ。
カルミアのなまえは今俺の目の前にいるのに…。

そう思いながら楽屋へと戻る。

MH「すごい薬の量だったね…。」
WN「うん…。」

自分たちの楽屋に戻る前に通るカルミアの楽屋からは、必死にタバコの匂いを消そうとしてる彼女達の声が聞こえてきた。

『てかあいつは?』
『別に居なくて良くね?あいつのファンなんていないだろ。』
『あはは!確かにー!』

カルミアにはルールがある。
1、楽屋を他のグループと離すこと。
2、楽屋に挨拶に来る時は事前に連絡をいれること。

そのルールが何で出来たのか、今ならよく分かった。

MH「…虐められてるって噂、本当だったんだね。」
WN「…だな。」
MH「ショックだよ…。」

噂もあった、なまえがグループ内で虐められてるって。
衣装も1人だけ違うし、コンサートのメント中も、なまえが話し出すとハヨン以外は聞いてないとか、ダンス中に足を踏んでるとか…、よく痣が出来てるとか。

それを前にテレビのバラエティで「ドジでよく転ぶんです。」って言ってた。
そんな姿も可愛いななんて当時の俺はテレビ越しのなまえを見て呑気に思ってた。

でも本当はメンバーにやられてたんだ。

SG「遅い!ヒョン達どこ行ってたんですか!」

楽屋のドアを開けるや否やスングァニが怒りながら駆け寄って来た。

MH「スングァナ、それどころじゃなー…」
WN「ごめん。行こ。」

ミョンホが何を言いたいのか分かって、言葉を被せた。

SG「行きましょ!」
DK「楽しみだなー!カルミア先輩に会うの!」
MG「なまえちゃんに覚えてもらわないと!」
HS「俺も!」

数日前からカルミアに会うのを楽しみにしてたメンバーに、なまえは虐められてるよ、なんてとても言えない。

ミョンホを見ると少し不満げな表情を浮かべていた。




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