【05 初めましてーなまえー】
ユンジェオンニに呼ばれ、重たい腰を上げ楽屋に戻る。
ついいつもの癖で、楽屋に入る前にノックをしてしまった。
後でオンニ達に怒られるな…。
だって自分の楽屋に戻るのにノックする人なんて普通は居ないから。
楽屋から足音が聞こえ、ふうっと深呼吸をすると、ユンジェオンニがドアを開けてくれた。
「あ、あの…すいま…」
YJ『肩は大丈夫?』
「…え?」
ユンジェオンニ?
急に肩の心配をするオンニ、確かにさっき椅子に投げつけられた時に肩をぶつけて痛めたことは知ってるけど、まさか他のオンニ達が居る前で大丈夫なんて来るとは思わなくて、思わず目を見開いた。
YJ『さっきので肩、痛むんじゃない?』
FY『ユンジェ!』
ファヨンオンニの少し苛立った声に体はビクッと反応する。
YJ『なまえはメインダンサーですよ?肩痛めてるなら対処しないと。』
そう言ってペディンを脱がすオンニ。
今日のユンジェオンニはどうしたんだろう…。
優しくしてもらえるのは嬉しいけど、ユンジェオンニまで酷い目にあったら大変だ。
「…オンニありがとうございます。でも大丈夫ですから。」
脱がされたペディンを再び羽織り直す。
「本当ですか?」
「…え?」
「おい!ウォヌ!」
低い声が聞こえて顔を上げる。
けれど、ウォヌさんと呼ばれた人が誰なのか、人数が多すぎて分からない。
でも今の声はさっき倉庫で私に声をかけてきた人に似てる気がする。
どうか違う人でありますように…。
同一人物でも、あそこに居たのが私だと気づいていませんように。
SR『なまえ、こちらSEVENTEENの皆さんよ。あなたも挨拶して。』
「あ、はい。初めまして、なまえです。」
ぺこりと頭を下げる。
あぁ、ソラオンニまで最高に不機嫌だ。
「あ、ほ、本物のなまえだぁ!」
「なまえヌナ本当可愛い!」
「顔ちっさ!」
「こら!だからお前ら馴れ馴れしいんだって!」
何だろう。嬉しいのに、この後のことを思うと素直に喜べない。
「すみません、本当に。」
目の大きな人が私に向かって頭を下げる。
「いえ…、大丈夫です…。」
FY『あ、なまえ?そう言えば今日の獲物は見つかった?』
…獲物?何の話だろう?
私はオンニ達の視界に少しでも入らないように、いつも通り楽屋を出ただけだ。
「ファヨンオンニすみません、何のこ…」
MN『皆さんの自己紹介見たいです!』
私の言葉を遮って元気よく立ち上がったミニョンオンニ。
何だったんだろう一体…。
まあ、どうでもいいか。
SC「え、じゃ、じゃあ自己紹介しますね。SAY THE NAME、アニョハセヨ、SEVENTEENイムニダ!セブンティーン総括リーダーのエスクプスです。」
リーダーの方から1人ずつ、多分年齢順だろうか、挨拶が始まる。
HS「ほ、ホシです!お、俺なまえ…ちゃんの!」
何だか気まずくて俯いてると近くで自分の名前を呼ばれて慌てて顔を上げた。
HS「なまえちゃんの大ファンです!」
「あ、あの、…ありがとうございます…。」
あまりにも真っ直ぐにファンです何て言われたら、私だって照れてしまう。
HS「やばい、俺なまえと話しちゃった!」
ヒョンずるい!なんて声が上がってるけど、私の意識は既にこの後起こるであろうことに向いている。
絶対オンニ達に色々言われるんだろうな…。
「ウォヌです。」
「…っ!」
名前を聞いて慌てて顔を上げる。
やっぱり、さっき私に声を掛けてきた人だ。
でも、俯いてたせいで、誰がウォヌさんなのか分からない。
その後も自己紹介は続いた。
カルミアのファンですとか、私のファンですって言ってもらえるのは、やっぱり嬉しかった。
あんまり顔を見ないようにしてたから、誰が誰か分からないけど。
FY『なまえ人気なんだね。私たちはどうでもいいって感じかな?』
MN『ねー!みんななまえばっかりじゃん!妬いちゃうー!』
SG「ち、違いますよ!もちろん皆さんお美しいですし、大ファンです!ね!」
DK「うん!カルミア先輩みんな本当にお綺麗です!」
後輩達に口々に綺麗だの美しいだの言われ、オンニ達は上機嫌になってるようだ。
馬鹿みたい…。
オンニ達は何のためにアイドルになったんだろう。
SC「お前ら、そろそろ楽屋戻るぞ!」
リーダーさんの声にえーと残念がる声が上がる。
そんなに残念がらなくてもまたいつでも会えますよ!なんて、どっから声出してんだってくらい甘えた声で言うファヨンオンニ。
まあ、私も誰かが楽屋に来てくれればオンニ達の的になることは無いから有り難くもあるけど…。
SR『またいつでも遊びに来てくださいね!』
SC「はい!ありがとうございます!ほら、さっさと戻るぞー!」
私の横をぺこぺこと頭を下げながらゾロゾロと通り過ぎて行く。
目が合わないように、私も頭を下げてると、足元に靴が止まった。
顔を上げると眼鏡をかけた人が私をじっと見つめていた。
「…あ、あの…」
「…肩、」
…肩?
MG「ウォヌヒョン!何してんの?」
背の大きな人が眼鏡の人を呼ぶ。
この人がウォヌさんなんだ…。
WN「肩、無理しないでください。」
私にしか聞こえないくらいの声でそう言うと、ペコリと頭を下げて楽屋を後にした。
…今まで誰にもバレなかったのに、まさかバレるとは…。
でも、ウォヌさんなら大丈夫そうかな。
何となくだけど、誰かにペラペラ喋るようなタイプには見えないし。
FY『みんなかっこよかったね!』
MN『本当!もっと仲良くなりたいかも!』
FY『分かる!次会ったら連絡先とか交換する?』
MN『うん!しよう!オンニもする?』
SR『うん。しようかな?』
誰が1番タイプ?なんて盛り上がってるオンニ達。
さっきまでの私への怒りを、今は忘れてくれてるらしい。
よかった…。
楽屋にある時計を見ると、オープニングが始まるまでまだ少し時間があった。
隙を見て楽屋をそっと抜け出し、さっきまでいて倉庫に向かう。
「なまえ!」
…?
背後から名前を呼ばれ驚いて振り向くと、ウォヌさんが廊下を走ってくるのが見えた。
逃げるか、いや、そもそも逃げるのも変だよね。
立ち止まりウォヌさんが来るのを待つ。
WN「すみません、呼び捨てで呼んでしまって…。」
「いえ…。」
WN「あの、これ。」
スッと差し出されたビニール袋。
「…これは?」
WN「保冷剤とテーピングです。あと、栄養ドリンクとか、お菓子とか…、俺らの楽屋からこっそり持って来ました。」
「…え?」
もしかして、わざわざ私の為に?
WN「後輩のくせに烏滸がましくてすみません。でも、何かしたくて…。」
烏滸がましいなんて…。
「…ありがとうございます。嬉しいです!」
これは本心だった。
マネオッパも、デビュー当時から知ってるメイクオンニ、スタイリストオンニも私を気遣ってはくれる。ユンジェオンニも。
でも、私に構えば皆んなが酷い目に合うから、私は皆んなからの好意を避けて来た。
WN「肩、痛みますか?」
「…大丈夫です。」
本当は大丈夫なんかじゃない。
痛み止めを服用し過ぎてるせいか、この薬も効きが悪くなってる。
WN「なまえって嘘吐くの下手ですね。」
「…え。」
WN「こっち。」
ウォヌさんはスッと私の手を握ると、さっきまで私が居た倉庫の入り口へと向かった。
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