【act.01 秘密 ーちあきー】
自分で言うのも何だけど、私は今1番人気のある同人漫画家で、フリーライターだ。
ティーンズラブも書く。
雑誌で連載中のコラムが2つ。
現在連載中のティーンズラブ作品が1つと、2ヶ月に1回同人誌に載せる漫画も書いている。
毎日忙しいけど、書くことは大好きだから何の問題もない。
いや、正確には無かったのだ。
「……やばい、スランプです。ネタが無いです!」
『それはやばいな。』
自宅兼、事務所にあるソファーに倒れ込む私を、向かいのソファーに座りながら呑気に笑いながら見てる彼女は、アシスタント兼マネージメント、そして幼馴染のソラだ。
「やばいマジで…。何にも思い浮かばない。」
新しく執筆中の小説は、みんなが大好きなアイドルと一般人の恋に焦点を当てた。
所謂妄想全開!!!みたいな、でもリアリティも出るように書こうと思ってるのだが、もう何年もこの仕事をしているせいで、ネタも妄想も全て尽きてしまったのだ。
「何かネタ下さい。」
『私だってないって!ここずーっと仕事ばっかりで恋愛なんてご無沙汰です。』
「ですよねー。」
コラムの締切も近いって言うのに…。
『やっぱり実体験が無いと、この先も辛く無い?』
「…まあ。」
『ずっと世間を騙したまま、妄想で書き続けるの?』
「騙すってそんな人聞きの悪い…。」
正直に言おう。
私、ちあきは恋愛のスペシャリストなんて謳われてはいるけれど、実際には恋愛経験は0。
なので、勿論男性とそう言うあっはんなこともした事がない。
じゃあどう書いてるか?
全て妄想。ぜーんぶ妄想。
元々幼い頃から本を読んだり、映画を見るのが好きだった。
漫画も小説も読んでるうちに、段々と妄想が膨らんでいき、自分でも書いてみたいと思ったのが最初のきっかけだった。
色んな本を原文のまま読みたくて、英語、韓国語、スペイン語、フランス語を覚えた。
英語と韓国語以外は読めるだけで話せはしない。
最初に書いた小説を、何となくWEBで公開してみたらバズったのがきっかけで、本格的に書くことを仕事にすることを選んだ。
ソラは幼馴染で、広告代理店に勤めていた。
私が人気になると会社を辞めて、私のアシスタント的な業務をしてくれている。
『あ、じゃあちょっとイレギュラーな仕事受けてみる?』
「ん?どんな?」
『大人気アイドルに密着取材!そこから分かる人気の秘密、恋愛観を探る!』
密着取材?
「密着取材ってずーっと張り付いてるやつ?てか、ファンは見たいな?」
『何かそのアイドルのファンの子達が、ちあきに取材してもらいたがってるみたい。』
なるほどねぇ。
まあ取材ってなると大体上辺で答えてるから、本心でなんて答えないもんなぁ。
私が取材したところでそれは変わらないと思うんだけど…。
『でも今執筆途中の小説もアイドルと一般人の恋愛だし、そのネタにもなりそうだから受けてもいいと思うんだけど。』
「…確かに。」
ちょうどネタ切れだし、アイドルの秘密の恋愛なんかも聞けるかもしれない。
まあ、さすがにそれは記事には出来ないけど。
よし、受けてみよう。
「その依頼進めて。」
『了解!』
こうしてネタ切れかつ、妄想切れの私にナイスタイミングで飛び込んできた密着取材。
数日後詳しい資料が送られて来た。
どうやら私が密着するのは韓国のアイドルらしい。
確かに私の小説やエッセイ集は海外でも翻訳されて発売されてるけど、まさか外国から依頼が来るとは…。
1ヶ月の密着取材をするらしい。
カメラアシスタントは向こうの事務所の人がやってくれるらしい。
ソラは日本からサポートしてもらう。
荷物送ってもらったりしないといけないしね。
『気を付けて!あと、ボーグのコラム締め切り明後日の午後1までだから今日韓国着いたら書いてね。おっけ?』
「おっけ。じゃあ行ってくるね!」
ソラとは事務所で別れてタクシーで空港まで向かう。
その間に私が読むのは、ボーグのコラム用のネタ材料の官能小説。
女性視点のアダルト系はやっぱり数が少ないようで、私の妄想フル回転で書いてるコラムは大人気のようだ。
気分はさながらキャリーブラッドショー。
キャリーは自分の経験も豊富だし、友達もなかなか経験者ばっかりだっからネタは尽きなかったんだろうけど、生憎私は文学少女で本を読む事に夢中だったせいか友達はおろか、男性経験も0だ。
アラサーなのにヤバいよな…。
まあ、これはこれでいいネタにはなりそうだな。
女性が描く官能小説は美しいよなぁなんて、思ってるうちに空港に着いていた。
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