【其の壱 遊郭街再建】

2005年、世界恐慌が起こり、世界中の経済が破綻した。それは日本も同じで、かつて無いほどの経済危機に陥った。
それにより貧困の差は激しくなり、日本にもスラム街と呼ばれる地域が誕生した。

スラム街やその周辺では違法風俗店が乱立、また所謂立ちんぼと言われる女性が多発した。
ホームレスや、違法ドラッグなどの取引、また人身売買なども行われ始めた。

かつて、世界一治安の良い国だと言われた日本は、姿を消した。


ーー政府はこれを受け、来年2011年までに主要都市に遊郭街を建設することを発表しました。
これにより、現在無許可で営業している風営法違反の店舗、並びに客引きの一斉検挙に乗り出す見込みです。
遊郭街建設地域は以下の通りです。

東京都吉原、北海道札幌市すすきの、愛知県名古屋市錦、大阪府宗右衛門町…

テレビから聞こえたニュースに母は『これで少しは治安が良くなるかしらね。』と、イギリスから取り寄せたなんちゃらって言う高い紅茶と、マカロンを食べながら他人事のように呟く。

遊郭街なんて言えば聞こえはいいが、ようは政府管理の風俗街が出来るってだけの話だ。

「大して変わらないんじゃない?」

風俗系だけがまとまっても、性接待がないキャバクラとかはそのまま営業出来るらしいから、歌舞伎町とかはそのままだ。

『飲み屋も全部政府が管理してくれたらいいのに。』

汚らわしいとでも言うように鼻を鳴らす母。だけど母だって元々は銀座でホステスをやっていた。
そこで父と知り合ったんだから、そこまで毛嫌いしなくてもとは思う。

『遊郭街が出来るってことは、お金がないご家庭のお子さんは売られちゃうのかしら?』
「………かもね。」

実際、私の学校でも転校するって言ってた子が、実はスラム街で人身売買されたって噂もある。
スラム街で売られるより、遊郭街に売られた方がマシなのか、私にはよく分からないけど、売るくらいなら子供なんて作らなければいいのにとは思う。

『あんたは良かったわね、お金になんて困らないし、外見も私に似て美人だし、一生安泰よ!』

父はニューヨークに本社を持つ弁護士事務所の日本支部のリーダーで、世界中を飛び回っている。
生まれてからお金に困ったことはない。

母は当時銀座で1番高級なクラブのナンバーワンだっただけあって、かなり美人だと思う。
性格はご覧の通りだけど…。

『まあでもあんたはもう少し愛嬌を覚えた方がいいわね。美人なのに冷たいのよ。』
「愛嬌振りまいて寄ってくるような男はこっちから願い下げだ。」

そう言えば母は本当に中学生なのかしらと笑った。

政府が遊郭街を作るとの発表は、世界でも取り上げられて、日本の政策を真似する国も出て来ていた。

遊郭街の完成が近づくにつれ、テレビでも学校でも毎日そのニュースで持ちきりだった。


そして、2011年5月1日全国の遊郭街に先駆けて、東京吉原の遊郭街がオープンした。


ーー本日全国に先駆けてオープンした東京都吉原の遊郭街。
古き良き江戸時代の日本を再現したようです。


テレビに映された遊郭街の大きな門。
そこから先が遊郭街になっているようだ。


ーー遊郭街の一つ目の門を通り抜けると、古き良き日本の風景が蘇ったように、たくさんの飲食店、またお土産屋などもあります。
さららに奥に進むと…もう一つ門が現れました。
ここから先が、本当の遊郭街のようです。


一つ目の門は誰でも出入り自由で、京都や鎌倉、江戸時代村のような昔ながらな作りの建物が連なっている。

本当に江戸にタイムスリップしたような街並みだ。

そして、さらに奥にある大きな門。
この先が遊女が居る、本当の遊郭街。

第二の門からは身分証の提示が必要らしく、また皇居のように、辺り一面を囲い、その周りは池のようになっているようだ。

その理由は未成年者の侵入を防ぐためと、遊女のプライバシーを守る為らしい。

実際のところはどうなのか知らないけど…。

『ねぇ、知ってる?』
「何が?」
『3組の子、吉原に売られたらしいよ。』
「…まじか……。」

吉原への身売りは、スラム街での身売りよりよっぽどの外見、ビッチじゃ無い限り高いらしい。
処女だと更に高いことから、貧困層とまではいかなくても金に目が眩んだ大人が子供を吉原に身売りさせる事が流行っていた。

『さっさと彼氏作って処女捨てようかな…。』
「案外それが得策かもね。」

まあ私もユリも、身売りされることなんて絶対ないと思うんだけどね…。




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