【07 なまえ】
何が何だか分からない。
ここにいるはずのない見慣れた人が、今私を抱きしめてる。
この場所すら知るはずもない、そもそも私に何の興味もなかった人なのに…。
戸惑いを隠せないまま、私を抱きしめる彼の胸を強く押して体に隙間を作り、彼を見上げる。
「……スンチョルさん……、あの…、な、なんでい………」
「なまえ!!!」
私の言葉を遮るように、背後からまた名前を呼ばれ反射的に振り向けば、また1人、見慣れた顔がいた。
ガサッ!
持っていたビニール袋をその手から落とし、大きな腕で私を引き寄せ抱きしめる。
ああ、これは夢だ。そう、きっと夢。
そう思いたかった。
けれど頭上から聞こえる涙声は紛れもなく本物だ。
「なまえ…会いたかった……。」
「……ミンギュ…くん……」
「……めちゃくちゃ探した…。」
…え?探した?
彼らが?私を?
「……探した?」
半年ぶりに発した韓国語に少し違和感を感じながらも、独り言のように呟いた。
「当たり前じゃん。大事なメンバーなんだから。」
そう言ってさっきより強く私を抱きしめる。
“大事なメンバー”
その言葉が妙に胸に響いて、泣きそうになった。
けれど、私が泣くのは違う気がして、ぐっと涙を飲み込み深呼吸をしてから彼の胸を押した。
「……取り敢えず、上がってください。」
2人にそう告げ家に入ろうとする私の腕をゆりが掴んだ。
「ごめん、最中あとで食べよう!」
『そんなのどうでもいい。なまえ、素直になってね?こんなところまで日本語も分からないのに2人きりでなまえを探して来てくれたんだから。』
ゆりは優しくそう言って私の手を少しだけキュッと握った。
確かにマネージャーや他の人の姿は見当たらない。
本当に2人きりでこんな田舎まで来たのだろうか。
「飲み物用意するので、座っててください。」
2人にそう告げキッチンに向かおうとくるりと後ろを向くと、その腕を引っ張られた。
振り向くとミンギュくんが不安そうな表情で私の手を掴んでいた。
「飲み物入れてくるので待っ…」
MG「俺も行く。」
「…え?いや、あのキッチンはすぐそ…」
MG「俺も行く!」
いや、そんな大豪邸でもあるまいし、キッチンなんてリビングから数歩先にあるわけで…。
SC「もうなまえと一時も離れたくないんだよ。」
ソファーに座ってるスンチョルさんが優しい笑みを浮かべながらそう言えば、ミンギュくんはコクコクと激しく頷く。
MG「なまえのせい。」
SC「そう、なまえのせい。」
私のせいか…。
仕方なくミンギュくんとキッチンに並ぶ。
「アイスアメリカーノでいいですか?」
MG「うん!ヒョンもいい?」
SC「おう。」
アメリカーノを2つと自分用とゆりにアイスカフェラテを作りリビングに持っていく。
ゆりにアイスカフェラテを持っていく時も、ミンギュくんは私にピッタリとくっついてきた。
スンチョルさんがソファーに座り、私は1人用の椅子に座ろうとしたけど、ミンギュくんが膝の上に座ってって言うから、大人しく床に座った。
ミンギュくんは私の隣に胡座をかいて座ってる。
少しの沈黙。
時計の秒針の音だけがやけに大きく感じる。
ここは私から話すべきなのだろうか。
急に活動休止してごめんなさいと謝るべきだろう。
それに関しては皆んなに迷惑をかけたし。
そう思い口を開こうと顔を上げた瞬間、向かいにいたスンチョルさんと目があった。
「………あ、あの…」
SC「なまえ!ごめん!本当にごめん。」
「…え……?」
突然頭を下げて謝るスンチョルさんに慌ててミンギュくんに視線を移すと、ミンギュくんまでごめん!と頭を下げる。
「…え?あ、あの頭あげてください。わ、私の方こそすみませんでした…。勝手に休んで…しかも連絡もなく………。」
正直、皆んなが私を忘れるのを待っていた。
私がいなくたってSEVENTEENはSEVENTEENだ。私の存在なんて必要ない。
SC「せめて連絡は欲しかったな…。」
「…ごめんなさい。」
そうだよね…。
せめて連絡はするべきだった。大人として社会人として。
でもあの時は、そんな当たり前のことも分からないくらいしんどくて、辛かった。
いっそ誰かが望むように、私なんて死んじゃえばいいと思った。
でも、死ぬことすら怖くて出来なかった…。
MG「…なまえ、ごめっ…泣かないで。」
ミンギュくんの大きな体がまた私に覆い被さる。
あ、私泣いてたんだ…。私に泣く権利なんてないのに…。
無意識に流れ出た涙を、ミンギュくんは優しく拭ってくれた。
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