ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―
Episode14
『届かない名前』
― 伝えたい想いはある。でも、その名前だけはまだ書けない。 ―
Day:Sunday(共同生活14日目)
⸻
Scene6
『変わった呼び方』
Sunday|07:30 PM
⸻
404 HOUSEへ戻る車の中では、
遊び疲れたメンバーたちが思い思いに今日の写真を見返していた。
⸻
「このウォヌさん、めっちゃ笑ってる。」
⸻
チェリンがスマートフォンを見せる。
⸻
「本当だ。」
⸻
「レアですね。」
⸻
チアキが笑うと、
ウォヌは少し照れくさそうに目を逸らした。
⸻
「……撮られてたんですね。」
⸻
「たくさん撮りました。」
⸻
「今日だけで200枚くらい。」
⸻
「そんなに?」
⸻
車内はまた笑い声に包まれた。
⸻
午後7時半。
404 HOUSEへ帰宅。
⸻
「ただいまー!」
⸻
「疲れたー!」
⸻
「でも楽しかった!」
⸻
それぞれ荷物を置き、
飲み物を用意すると、
自然とリビングに集まっていく。
⸻
ソファではチェリンとユナが撮った写真をテレビに映し、
今日一日の思い出を振り返っていた。
⸻
「これ見て!」
⸻
「スングァン、完全に変顔じゃん!」
⸻
「違う!あれは奇跡の一枚!」
⸻
「奇跡じゃなくて事故。」
⸻
スニョンの一言に、
部屋中が笑いに包まれる。
⸻
写真は次々と映し出される。
⸻
夕日の集合写真。
⸻
ジェスチャーゲーム。
⸻
影で作ったハート。
⸻
そして、
漢江を見つめるチアキの横顔。
⸻
「この写真、本当にきれい。」
⸻
ソヨンが小さく呟く。
⸻
「モデルさんみたい。」
⸻
「そんなことないです。」
⸻
チアキは照れて首を振る。
⸻
その時、
ミンギュが別の写真を探しながら声をかけた。
⸻
「チアキ、この写真見て。」
⸻
リビングが一瞬だけ静かになった。
⸻
「……え?」
⸻
チアキも思わず顔を上げる。
⸻
ミンギュ自身も、
周りの空気で初めて気づいた。
⸻
「あ……。」
⸻
耳まで少し赤くなる。
⸻
「ごめん。」
⸻
「チアキちゃん……。」
⸻
言い直そうとしたその時だった。
⸻
「いや。」
⸻
スングァンが笑いながら手を振る。
⸻
「もう”ちゃん”付けの方が不自然じゃない?」
⸻
「え?」
⸻
ミンギュが苦笑する。
⸻
「だってさ。」
⸻
「もう二週間一緒に住んでるんだよ?」
⸻
「俺なんて、さっきから心の中ではずっと『チアキ』だった。」
⸻
その言葉に、
スニョンも笑って頷いた。
⸻
「俺も。」
⸻
「気づいたら『チアキちゃん』って言う方が照れる。」
⸻
ジョンハンが穏やかに口を開く。
⸻
「呼び方って、不思議ですよね。」
⸻
「距離が縮まると、自然に変わるものだから。」
⸻
「チアキが嫌じゃなければ、そのままでいいと思う。」
⸻
全員の視線が、
チアキへ集まる。
⸻
スンチョルが優しく尋ねた。
⸻
「どう?」
⸻
「無理なら今まで通りで全然いい。」
⸻
「俺たちが勝手に変えることじゃないから。」
⸻
チアキは少しだけ考える。
⸻
みんなの顔を見る。
⸻
誰も急かしていない。
⸻
ただ、
彼女の答えを待っている。
⸻
チアキは小さく笑った。
⸻
「私は……。」
⸻
「大丈夫です。」
⸻
「皆さんが呼びやすい呼び方で呼んでください。」
⸻
数秒の静寂。
⸻
そして——。
⸻
「じゃあ今日から!」
⸻
スングァンが両手を叩く。
⸻
「よろしく、チアキ!」
⸻
「よろしく。」
⸻
スニョンも笑う。
⸻
「チアキ。」
⸻
ジョンハンが自然に名前を呼ぶ。
⸻
「今日は楽しかったね。」
⸻
「はい。」
⸻
チアキも笑顔で頷く。
⸻
ウォヌも少し照れながら口を開く。
⸻
「……チアキ。」
⸻
「今日の写真、あとで送ります。」
⸻
「ありがとうございます、ウォヌさん。」
⸻
その呼び方は、
チアキらしく変わらない。
⸻
ミンギュは少し照れ笑いを浮かべながら言う。
⸻
「改めて。」
⸻
「チアキ。」
⸻
「今日はありがとう。」
⸻
チアキも柔らかく笑う。
⸻
「こちらこそ。」
⸻
「ミンギュさん、ありがとうございました。」
⸻
「……まだ敬語なんですね。」
⸻
チェリンがくすっと笑う。
⸻
「それもチアキらしい。」
⸻
ソヨンも頷く。
⸻
「無理に変えなくていいよ。」
⸻
「今のチアキのままで。」
⸻
「はい。」
⸻
チアキは少し安心したように微笑んだ。
⸻
その夜から、
韓国人メンバーは少しずつ「チアキ」と呼ぶようになった。
⸻
チアキは変わらず、
「スンチョルさん」
「ジョンハンさん」
「ウォヌさん」
「スニョンさん」
「ミンギュさん」
「スングァンさん」
と、一人ひとりに敬語で話しかける。
⸻
その距離感は、
まだ恋愛ではなく、
彼女が大切にしてきた礼儀だった。
⸻
けれど、
“チアキちゃん”から”チアキ”へ。
⸻
たった二文字が変わっただけで、
404 HOUSEの空気は、
ほんの少しだけ温かくなった。
⸻
【STAFF NOTE】
共同生活14日目。
⸻
人との距離は、
大きな出来事ではなく、
こんな何気ない瞬間に変わる。
⸻
呼び方。
敬語。
笑うタイミング。
⸻
それは、
毎日一緒に過ごしたからこそ生まれた自然な変化だった。
⸻
今日から、
韓国人メンバーは「チアキ」と呼ぶ。
⸻
けれどチアキは、
これまでと変わらず敬語のまま。
⸻
その少しだけ違う距離感も、
404 HOUSEらしい心地よさになっていた。
⸻
そしてスタッフは、
もう一つの変化にも気づいていた。
⸻
「チアキ。」
⸻
その名前を呼んだミンギュの声は、
言い直す前よりも、
どこか自然だったことを。
⸻
次回 Scene7
Sunday|10:00 PM
📖 404 Diary(第3回)
テーマ
「今日、一番笑顔だった人へ」
名前は書けない。
それでも、
今日という一日にありがとうを込めて、
11人は静かにペンを走らせる。
→
ノベルに戻る I
Addict