ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode19

『いない時間』

― いつもある存在が、いない時に初めて大きさに気付く。 ―

Day:Friday(共同生活19日目)



Scene5

『夜の404 HOUSE』

Friday|18:00 PM



404 HOUSE。



夕方。



いつもの夕食時間。



でも。



今日は少しだけ違った。





リビング



テーブルには夕食。



湯気の立つ皿が並び、

箸が触れる小さな音だけが、

やけに広く響いていた。



集まっている人数は、

いつもより少ない。



椅子が二つ、ぽつんと空いている。



その空席が、

ただの空白ではなく、

そこに誰かの気配があったことを

静かに思い出させていた。





チアキは国際線勤務。



ソヨンは夜勤前の準備中。





たった二人。



でも。



その二人がいないだけで、

部屋の空気が少し変わっていた。



冷蔵庫の低い唸り声が、

いつもよりはっきり聞こえる。



換気扇の回る音も、

時計の秒針も、

普段なら気にならないのに、

今日は妙に耳に残った。





スングァンが周りを見る。



視線が、無意識に空いた席へ向かう。



そこにチアキが座っていた時の、

背筋を少し伸ばした姿勢や、

食器を置くときの静かな手つきが、

ふと目に浮かぶ。





「……。」





「なんか静かじゃない?」





声を出したあと、

スングァン自身がその静けさを確かめるように、

一度だけ口を閉じる。



箸が止まり、

誰かが飲み込む音まで聞こえる。





スニョンが頷く。





「うん。」





「チアキがいないからかな。」





その一言で、

みんなの視線がまた自然と集まる。



誰も大げさには反応しない。



けれど、

それぞれの目が、

同じことを思っているのが分かった。





チアキは、

いつも大きな声で場を盛り上げるタイプではない。





誰かの話を聞いて。



少し笑って。



困っている人がいたら、

自然に手を貸す。





食卓の端で、

誰かが落とした箸をそっと拾う。



話の流れが途切れた時には、

さりげなく次の言葉をつなぐ。



そんな、目立たないのに、

気づけばそこにある存在だった。





だからこそ。



いない時に、

その存在の大きさが分かる。





食卓



ミンギュが料理を取り分ける。



皿に箸を伸ばす動きが、

いつもより少しだけ慎重になる。





ふと。



手が止まる。





「これ……。」





「チアキ、好きだったよね。」





自分で言って、

少し驚く。



言葉にした瞬間、

その記憶が急に鮮明になる。



前にここで、

チアキが少し目を細めて食べていた顔。



「おいしいです」と小さく言って、

静かに笑っていた声。





スングァンが笑う。





「覚えてるじゃん。」





ミンギュは少し照れたように笑う。





「前に食べてたから。」





その笑い方も、

どこか控えめで、

空いた席を見ないようにしているみたいだった。





ジョンハンが箸を置く。





「最初の頃はさ。」





「チアキが何好きなのか、全然知らなかったよね。」





ウォヌが頷く。





「今は自然に分かる。」





誰かが教えたわけでもない。





一緒に過ごす時間の中で、

少しずつ覚えていった。



チアキが何を食べるか。



どんな時に笑うか。



どんな時に黙るか。



その一つひとつが、

この家の中に積み重なっていた。





チアキからのメッセージ



その時。



スマートフォンが震える。



テーブルの上で短く鳴ったその音に、

全員の視線が一斉に向く。



404 HOUSEのグループチャット。





チアキから。





『少し休憩に入りました。』



『みなさん夕食食べましたか?』





スングァンが画面を見る。





「自分が疲れてるのに。」





小さく笑う。



その笑いには、

さっきまでの静けさをほどくような、

少しだけ安心した空気が混じっていた。





「やっぱりチアキだね。」







ミンギュは返信する。





『食べたよ。』



『チアキもちゃんと食べて。』





送信。





すぐに返事。





『はい。ありがとうございます。』





短い文章。





でも。



その場にいた全員の表情が少し柔らかくなる。



たった数行なのに、

空いていた席の輪郭が、

少しだけ埋まった気がした。









ソヨンは夜勤の準備をしている。





リビングに戻ってくる。



バッグを肩にかけ直しながら、

一度だけ部屋を見回す。



いつもなら、

そこにいるはずの人の気配を探すように。





「今日、チアキいないと変な感じするね。」





その言葉に、

みんな頷く。





「静か。」





「でも、嫌な静かさじゃない。」





ウォヌが言う。





「いつもある音がない感じ。」





その言葉に、

誰もすぐには返せない。





チアキの声は、

決して大きくない。





でも。



「お疲れ様です。」



「ありがとうございます。」



「大丈夫ですか?」





そんな小さな言葉が、

毎日の空気を作っていた。



食器を置く音の間に、

ふっと差し込まれる声。



誰かが立ち上がる時に、

自然と向けられる視線。



困っている人に気づいた時の、

ほんの少し早い動き。



それらが重なって、

この部屋の温度を保っていた。





だから。



今日は少し寂しい。





誰も口にはしないけれど。



全員が少しだけ、

帰ってくる時間を気にしていた。



時計を見る回数が増える。



玄関の方へ、

無意識に耳が向く。



ドアノブが回る音を、

誰かが待っている。





【STAFF NOTE】

共同生活19日目。



存在感とは、

目立つことではない。





静かな人ほど、

いなくなった時に分かることがある。





その人が作っていた空気。



その人がくれていた安心。





404 HOUSEは、

少しずつ誰かの「帰る場所」になっていた。



そして、

その場所の静けささえも、

誰かの存在によって支えられていた。



次回 Scene6

『夜勤へ向かうソヨン』

夜。



ソヨンが出勤する時間。



自然に交わされる「行ってらっしゃい」。



共同生活の距離は、さらに近づいていく。




ノベルに戻る I Addict