ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode24

『待っている理由』

― 誰かを待つことが、当たり前になる。 ―

Day:Wednesday(共同生活24日目)



Scene1

『早朝の出発』

Wednesday|04:30 AM



まだ夜の名残が残る時間。



404 HOUSE。



窓の外は暗く、

街はまだ眠っている。



聞こえるのは、

時計の音と、

小さな生活音だけ。





チアキの部屋



アラームが鳴る前に、

チアキは目を開けた。



国際線勤務の日。



いつもより早い出発。





眠気が残る目で、

ゆっくり起き上がる。



少しだけ重いまぶたをこすって、

深く息を吐く。





鏡を見る。



少し疲れた表情。



でも、

いつものように髪を整え、

制服へ着替える。





「大丈夫。」



小さく呟く。



それは、

誰かに言うためではなく、

自分に言い聞かせるような言葉だった。





キッチン



静かに水を飲む。



いつもの朝なら、

誰かが起きてくる時間まで、

まだ少し余裕がある。





音を立てないように、

荷物を確認する。



パスポート。



社員証。



必要なものを鞄へ入れる。





そして。



玄関へ向かう。





玄関



靴を履く。



鍵を手に取る。





その時。





カチッ。





リビングの電気がついた。





チアキが振り返る。





そこにいたのは。



ミンギュ。





寝起きのような髪。



でも、

もう着替えている。





チアキ

「……起きてたんですか?」





ミンギュは少しだけ肩をすくめる。



まだ眠そうな目をしているのに、

視線だけはまっすぐだった。





「うん。」





短い返事。





チアキは時計を見る。





「まだ4時半ですよ。」





ミンギュ

「知ってる。」





その答えに、

チアキは小さく笑う。



笑ったつもりだったけれど、

胸の奥がほんの少しだけざわついた。





「眠いですよね?」





ミンギュは一度まばたきをして、

少しだけ口元をゆるめる。



「チアキもでしょ。」





返す言葉がなくて、

チアキは小さく笑った。



その笑い方が、

自分でも少しだけ頼りなく感じる。





玄関前



ミンギュは車の鍵を持っている。



指先でそれを軽く回しながら、

チアキの顔を見る。





チアキは気づく。





「……何処かに行くんですか?」





ミンギュ

「チアキを送ろうと思って。」





チアキはすぐ首を振る。



反射みたいな動きだった。



いつものように、

大丈夫です、と言えば済むはずだった。





「大丈夫ですよ。」





いつもの言葉。





でも。



今回は、

ミンギュはすぐに否定しなかった。





少しだけ見つめる。



その沈黙が、

断られる前提ではないことを告げているみたいで、

チアキは一瞬だけ言葉を失う。





そして。





「知ってる。」





「チアキなら大丈夫なのは。」





少し間。



ミンギュは鍵を握り直し、

それから、静かに続ける。



「でも。」





「送らせて。」





その言葉に、

チアキは驚いたように目を瞬く。



断る理由を探そうとしたのに、

頭の中がうまく回らない。



自分で行ける。



いつもそうしてきた。



誰かに気を遣わせる前に、

先に引いてしまうほうが楽だった。



でも今は、

その“いつも”を押し返すほどの強さが、

ミンギュの声にはなかった。



ただ、静かにそこにあった。



だから。



今日は。



その優しさを断る理由が見つからなかった。





「……ありがとうございます。」



少しだけ視線を落としてから、

チアキは小さく息を吸う。



「お言葉に甘えます。」



言ったあとで、

ほんの少しだけ指先が鞄の持ち手を強く握った。



受け入れた瞬間、

胸の奥がふわりとほどける。



同時に、

こんなふうに簡単に甘えてしまっていいのかという戸惑いも、

遅れて静かに追いかけてくる。



ミンギュは少し笑う。





「それも言うと思った。」





チアキ

「え?」





「ありがとうって。」





チアキは少し照れたように笑う。



その笑みはすぐに消えたけれど、

耳のあたりが少し熱い。





「癖なので。」





ミンギュ

「知ってる。甘えてくれてありがとう。」





その言葉が、

妙に優しかった。





404 HOUSEの外



二人で玄関を出る。





冷たい朝の空気。



まだ人の少ない道。





いつもなら、

一人で向かうはずだった空港までの道。





今日は隣に、

誰かがいる。





ミンギュはまだ気づいていない。





「送る」という小さな行動が、

自分にとってどれだけ自然になっているのか。





そして。



チアキもまだ知らない。





誰かが自分のために、

朝の4時半に起きてくれることが、

どれほど特別なことなのか。





少しだけ歩幅を合わせながら、

チアキは横顔を盗み見る。



何でもないふうを装っているけれど、

その存在が隣にあるだけで、

さっきまでの静けさとは違う温度が生まれていた。



言葉は少ない。



けれど、

沈黙が気まずさではなくなっていくのを、

チアキはまだうまく説明できないまま感じている。





次回 Scene2

『空港までの道』

Wednesday|05:00 AM



静かな朝の道路。



二人だけの時間。



多くの言葉はない。



でも、

その沈黙が少しずつ心地よくなっていく。




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