ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―
Episode24
『待っている理由』
― 誰かを待つことが、当たり前になる。 ―
Day:Wednesday(共同生活24日目)
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Scene3
『いってらっしゃい』
Wednesday|空港
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朝の空港。
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大きな窓から差し込む光が、
出発ロビーの床を淡く照らしている。
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キャリーケースの音。
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アナウンスの声。
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行き交う人の足音。
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いつもの仕事の場所。
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でも。
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今日は少しだけ違う。
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隣に、
見送ってくれる人がいる。
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出発ロビー
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ミンギュはチアキの荷物を降ろす。
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その動きはいつも通りなのに、
手を離す瞬間だけ、ほんの少しだけ名残惜しそうだった。
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チアキもすぐには手を伸ばさず、
一度だけ荷物の持ち手に視線を落としてから、静かに受け取る。
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「ここまでで大丈夫です。」
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チアキが言う。
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その声はいつもより少しだけ柔らかくて、
ミンギュはそれを聞き逃さないように、静かに目を向けた。
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ミンギュは少し笑う。
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「分かった。」
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そう答えながらも、
すぐには動かなかった。
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チアキもまた、すぐに背を向けない。
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ほんの一拍だけ、
互いに何か言い足りないものがあるように、視線だけが行き来する。
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朝4時半。
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まだ眠い時間に起きて、
ここまで来た。
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その時間が、
思ったより短く感じていた。
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チアキ
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「朝からありがとうございました。」
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チアキが改めて伝える。
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その声はいつもより少しだけ柔らかくて、
ミンギュはそれを聞き逃さないように、静かに目を向けた。
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チアキは言い終えてから、少しだけ視線を落とす。
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礼を言うことに慣れているはずなのに、
今日はどこか、言葉の端に気遣いが滲んでいた。
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ミンギュは少し笑う。
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「そんなに気にしなくていいのに。」
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チアキは少し首を傾げる。
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その仕草が、眠気の残る朝の空気の中で妙にやわらかく見えて、
ミンギュは一瞬だけ視線を逸らしそうになった。
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けれど結局、逸らさずに見つめ返す。
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「でも……。」
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「助かりました。」
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その言葉に、
ミンギュは少し目を細める。
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「ならよかった。」
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短い返事。
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でも。
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その表情は、
本当に安心したようだった。
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チアキが自分の言葉で少しでも楽になったことが、
それだけで十分だと言うように。
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その安心した顔を見て、チアキもわずかに肩の力を抜く。
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出発ゲート前
人の流れが少しずつ増えていく。
スーツケースの車輪、靴音、遠くの呼び出し。
チアキは社員証を確認する。
仕事の顔へ戻る瞬間。
ミンギュは、
その様子を静かに見る。
チアキがストラップを整える指先を、何気ないふりをして目で追う。
いつも周りを優先すること。
疲れていても笑うこと。
頼ることが苦手なこと。
最近、
少しずつ分かってきた。
だから。
「チアキ。」
名前を呼ばれて、
チアキが振り返る。
その瞬間、ミンギュの視線と真正面からぶつかって、
チアキはほんの少しだけ息を止めた。
ミンギュもまた、呼んだあとにすぐ言葉を続けず、
相手の反応を待つように、静かに立っている。
「はい?」
今日は自然と口から出た。
「無理しないで。」
チアキが顔を上げる。
少し驚いた表情。
その目が一瞬だけ揺れて、
すぐにやわらかく細められる。
「……はい。」
短い返事。
でも。
その声は、
いつもの返事より少し柔らかかった。
ミンギュはその柔らかさに気づいて、
なぜか息をするのを一瞬だけ忘れた。
ミンギュは少し視線を逸らす。
「ちゃんと休める時に休んで。」
「分かりました。」
チアキは笑う。
「ミンギュさんもですよ。」
「俺?」
「はい。」
「朝早く起きて送ってくれたので。」
その言葉に、
ミンギュは少し黙る。
自分では、
特別なことをしたつもりはなかった。
ただ。
行こうと思った。
それだけだった。
でも、そう言われると、
胸の奥が少しだけくすぐったくなる。
送り迎えなんて、ただの日常のはずだった。
なのに今は、その一言が妙にあたたかい。
「……気をつけて。」
言葉を変えるように、
もう一度伝える。
チアキは頷く。
「はい。」
そして。
一拍置いてから、
まるでその一言を確かめるみたいに、
小さく息を吸う。
その呼吸の音が、近くで静かに聞こえた。
「行ってきます。」
ミンギュは一瞬だけ目を伏せる。
その言葉が、
なぜか胸に残った。
ただの挨拶のはずなのに、
送り出す側ではなく、
待つ側に立たされたような気がした。
「行ってきます」は、こんなに胸に触れる言葉だっただろうか。
「行ってらっしゃい、チアキ。」
名前を呼ぶ。
以前なら、
少し距離を置くために名字や敬称を選んでいた。
でも今は。
自然に出てきた。
呼んだあと、
自分でも少しだけ驚いて、
それを悟られないように口元を引き締める。
チアキはすぐには返事をしなかった。
ミンギュの顔を見て、
そのあとほんの少しだけ視線を落とす。
何か言いかけたように唇が動いて、
けれど声にはならない。
その沈黙のあいだに、
二人の間の空気だけが静かに変わっていく。
やがてチアキは、
小さく息を吐くように笑った。
その笑みは、
さっきまでの仕事の顔とも違っていた。
ほんの少しだけ、
安心したような顔だった。
その表情を見た瞬間、
ミンギュの胸の奥が、静かに熱を持つ。
「行ってきます。」
もう一度そう言って、
今度こそ出発ゲートへ向かう。
ミンギュ
その背中を見送る。
人混みの中へ消えていく姿。
ほんの数秒。
それだけなのに。
なぜか、
少し寂しく感じた。
「……。」
自分でも理由が分からない。
ただ、さっきまで隣にあった気配が、急に遠くなる。
さっき交わした言葉だけが、
耳の奥に静かに残っている。
また帰ってくることを、
当たり前のように思っていた。
その当たり前が、
少しだけ形を持った気がした。
「いってらっしゃい」が、ただの見送りじゃなくなる瞬間がある。
空港出口
外へ出るミンギュ。
朝の冷たい空気。
頬に触れる風が少しだけ鋭い。
スマホを見る。
まだ何も届いていない。
それを確認して、
自分で少し笑う。
「何してるんだろ。」
小さく呟く。
でも。
その表情は、
少し嬉しそうだった。
【STAFF NOTE】
「いってらっしゃい」は、
ただ送り出す言葉。
「おかえり」は、
帰りを待つ言葉。
その間にある時間を、
気にするようになった時。
誰かの存在は、
少しずつ特別になっていく。
次回 Scene4
『いない404 HOUSE』
Wednesday|Daytime
いつもの家。
でも、
いつもの場所にいない人がいるだけで、
少しだけ空気が変わる。
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