ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode24

『待っている理由』

― 誰かを待つことが、当たり前になる。 ―

Day:Wednesday(共同生活24日目)



Scene4

『いない404 HOUSE』

Wednesday|Daytime



404 HOUSE。



朝のキッチンも、リビングも、いつもと同じはずだった。



けれど、空気だけが少し違っていた。



Kitchen



スングァンが冷蔵庫を開ける。



中には、整然と並んだ食材。



マグネットボードには、チアキの丸い字で書かれた買い足しメモが一枚、端を少しめくったまま残っている。



テーブルには、人数分ではない朝食。



スングァンは、無意識にいつもの場所へ目を向けた。



そこに、誰もいない。



チアキがいない。



それだけで、朝の流れがひとつ途切れた気がした。



冷蔵庫を開ければ誰かの気配があって、「それ、あとで使うやつですか」とか、「コーヒー淹れますね」とか、小さな声が自然に重なっていた。



今日は、その続きがない。



「チアキ、今日いないんだった。」



小さく呟く。



朝食を作る人がいないから困るわけではない。



ただ、そこにあるはずの気配が最初から抜け落ちている。



そのことに気づいた瞬間、胸の奥が静かに沈んだ。



Living Room



ウォヌがソファで本を読んでいる。



静かなリビングに、ページをめくる音だけが落ちる。



チアキは、普段から大きな声で話すタイプではない。



それでも彼女がいる日は、生活の音が少し増えていた。



キッチンで食器を置く音。



誰かに声をかける声。



「お疲れ様です」と笑う声。



ソファの端には、いつも彼女が置いていた細いヘアゴムがそのまま残っている。



ウォヌはそれを見て、視線を少し止めた。



小さな音。



小さなもの。



けれど、それはもう家の一部になっていた。



いないと気づいた途端、静けさの輪郭だけがくっきりする。



ウォヌは本から顔を上げる。



「……静かだね。」



向かいにいたジョンハンが笑う。



「いつも静かな家じゃない?」



ウォヌは少し考えてから答える。



「そうなんだけど。」



「なんか違う。」



ジョンハンも、短く頷いた。



「分かる。」



言葉はそれだけだったが、ふたりとも何が違うのかを分かっていた。



チアキの声がないだけで、部屋は少し広く、少し冷たく感じる。



その違和感は小さいのに、なぜかずっと残った。



Kitchen



スングァンがコーヒーを淹れる。



ブラック。



ミルク入り。



何気なく揃っていたものが、誰かの気遣いでできていたと気づく。



スングァン

「チアキってさ。」



ウォヌ

「うん?」



「やっぱり、いないと分かるタイプだよね。」



ウォヌは静かに頷く。



「普段から目立つわけじゃないから。」



「余計に。」



スングァンはカップを持ったまま、少し視線を落とす。



目立たないのに、いなくなるとこんなにも分かる。



それは存在感が薄いという意味ではない。



毎日の中で、誰かの動きや気分や時間の流れを、そっと整えていたからだ。



そのことを思うと、胸の奥に言葉にならない空白が残る。



午後



それぞれが自分の時間を過ごす。



ミンギュは仕事。



スンチョルは打ち合わせ。



スニョンはレッスン。



スングァンは収録。



いつも通りの一日。



それでも、ふとした瞬間に冷蔵庫横のメモや、ソファの端に残った小さなものが、この家にチアキがいた時間を思い出させる。



誰も口には出さない。



けれど、それぞれが別々の場所で、同じように一度だけ立ち止まっていた。



「あ、いないんだ」



その気づきは、驚きではなく、少し遅れてやってくる寂しさに近かった。



「明日の昼過ぎに帰ってくるんだよな。」



そう考える。



帰ってくると分かっていても、今この家にいないという事実だけが、妙に長く残る。



ミンギュ



仕事の合間、スマホを見る。



まだ連絡はない。



確認する理由なんてない。



ただ。



「無事に着いたかな。」



そう思っただけだ。



自分に言い聞かせるように、小さく笑う。



「心配しすぎ。」



それでも表情は、少し柔らかかった。



ミンギュは画面を閉じても、しばらく手を止めたままだった。



連絡がないこと自体は何でもないはずなのに、今日はそれが少し気になる。



家に戻れば、そこにいる。



だからこそ、今はまだ見えない距離が、静かに胸へ残っていた。



【STAFF NOTE】



人の存在は、大きな音では残らない。



毎日の小さな習慣。



何気ない声。



冷蔵庫の横に残った買い足しメモ。



ソファの端に置き忘れられたヘアゴム。



いつもの場所。



失って初めて気づくのではなく。



いなくなった瞬間に、その人がどれだけ日常の中にいたのかを知る。



404 HOUSEにとって、チアキはもう「一緒に住んでいる人」ではなくなり始めていた。



それでも、その気配はまだ家のどこかに静かに残っている。



次回 Scene5

『それぞれの夜』

Wednesday|Evening



一日の終わり。



離れていても、気になる存在。



帰ってくる夜を思うだけで、いつもの部屋の輪郭が少しだけ変わって見える。



そんな気持ちに、少しずつ名前が近づいていく。




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