ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode26

『言葉にならない距離』

― 気づいているのに、まだ名前をつけられない感情。 ―

Day:Friday(共同生活26日目)



Scene5

『リビングの会話』

Friday|22:00 PM



404 HOUSE。



夜。



11人が久しぶりに揃ったリビング。



テレビには小さな音で番組が流れている。



誰かがソファに座り、

誰かが床にクッションを置いている。



特別なイベントではない。



ただ、

一日の終わりに自然と集まる時間。





最初の頃には、

こんな時間はなかった。



誰がどこに座るのか。



どんな話をすればいいのか。



少し探りながら過ごしていた。



でも今は。



沈黙すら、

気まずいものではなくなっていた。





Living Room



スングァンがリモコンを置く。



「そういえば。」





みんなが顔を向ける。



テレビの音が、少しだけ遠くに感じられる。



「最初の日のこと覚えてる?」





少し笑いながら続ける。





「正直、みんなちょっと怖かったよね。」





一瞬の沈黙。



それぞれが思い出を探るように視線を泳がせ、

やがて、

笑い声が広がる。





スニョン。

「怖かった?」





スングァン。

「いや、怖いっていうか……。」





少し考える。





「全員、ちゃんとして見えたんだよ。」





「何考えてるか分からない感じ。」





「俺だけ騒いで大丈夫かなって思った。」





また笑いが起こる。



ソファの背にもたれていたチアキも、

思わず肩の力が抜けるのを感じる。





チアキ



チアキは、

みんなの顔を見ながら笑う。



照明のやわらかい光が頬に落ちて、

笑うたびに少しだけ熱を帯びるのが分かった。



「私は……緊張していました。」





「最初、みなさん有名な方ですし。」





少し照れたように笑う。



指先を膝の上でそっと重ねながら、

視線を上げるのが少しだけためらわれる。



それでも、ひとりずつ顔を見ていく途中で、

ふとミンギュと目が合う。



ほんの一瞬。



先に逸らしたのはどちらだったのか分からないくらい短い間だったのに、

なぜか胸の奥が静かに温かくなる。



「どう接したらいいのか分からなかったんです。」





その言葉に、

何人かが静かに耳を傾ける。



誰も茶化さない。



その静けさが、逆に胸の奥をやわらかく押した。



ミンギュ。

「でも、最初から普通に話してくれたよね。」





チアキは少し驚く。



自分では、ただ必死だっただけだった。



「そうでしたか?」





ミンギュ。

「うん。」





「変に距離を置かなかった。」





短い言葉。



けれど、そこにある記憶の確かさが、

チアキの胸の奥を静かに温める。



ミンギュが覚えていたことに、

チアキは少し目を細める。



その表情を見たミンギュは、

何か言いかけたように口を開きかけて、

結局、何も言わずに視線を落とした。





ジョンハン



「俺は逆に。」





ジョンハンがソファにもたれながら話す。



肘をついたまま、少しだけ身を起こし、

どこか見透かすような目でチアキを見る。



その視線は鋭いのに、不思議と責める感じはない。



むしろ、逃げないで見ているようだった。



「チアキが一番、無理してるように見えた。」





チアキ。

「え?」





思わず声が少しだけ上ずる。



自分では隠していたつもりだったものが、

あっさり言い当てられた気がした。



ジョンハン。

「何でも大丈夫って言うから。」





その言葉に、

チアキは少し黙る。



喉の奥が、ほんの少しだけ詰まる。



「……癖かもしれません。」





小さな声。





「迷惑をかけたくないんです。」





その瞬間。



リビングの空気が少しだけ変わる。



テレビの音が、さっきよりも遠くに感じられる。



誰も否定しない。



誰も急かさない。





ただ、

その言葉を受け取る。





ウォヌ。

「でも最近は。」





静かに口を開く。



声は低いのに、妙にまっすぐ届く。



「前より頼ってくれるようになったと思う。」





チアキは少し驚いた顔をする。



自分では気づいていなかった変化だった。



「そうですか?」





ウォヌは頷く。





「うん。」





「それ、たぶんみんな嬉しいと思う。」





その言葉に、

周りを見るチアキ。





スンチョルも。



スングァンも。



スニョンも。





静かに頷いている。



その表情を見ていると、

胸の奥にあった小さな緊張が、

少しずつほどけていくのが分かった。





ミンギュ



ミンギュは、

少し視線を落とす。



膝の上で指先を軽く組み直してから、

ゆっくりと言葉を探すように息をつく。



「最初は。」





「この家で一番しっかりしてる人だと思ってた。」





チアキ。

「え?」





思わず聞き返す。



自分がそう見えていたことに、

少しだけくすぐったさが混じる。



ミンギュ。

「何でもできるから。」





少し間を置く。



言葉を選ぶように、視線が一度だけテーブルの上をなぞる。



それから、ほんの少しだけ顔を上げて、

チアキの様子を確かめるように見る。



「でも。」





「最近は、ちゃんと疲れてるんだなって思うようになった。」





チアキは何も言わない。



その一言が、妙にやさしく胸に残る。



ただ、

少しだけ笑う。





「ありがとうございます。」





その笑顔を見て、

ミンギュは一瞬だけ視線を止める。



ほんの短い間だったのに、

なぜか目を合わせたままではいられなくなる。



すぐに目を逸らす。



自分でも理由が分からないまま。



けれど、逸らしたあとも、

どこか落ち着かないように指先が膝の上を小さく動いていた。





Living Room



話題は、

最初の日の印象から、

今の404 HOUSEへ変わっていく。





「変わったこと。」





「安心するようになった。」





「帰ってきたいと思うようになった。」





誰かが言うたび、

みんなが頷く。



そのたびに、リビングの空気が少しずつやわらかくなる。





恋愛ではない。





まだ、

誰も名前をつけていない。





でも。





最初はただの共同生活だった場所が、

少しずつ、

「帰りたい場所」になっていた。





【STAFF NOTE】



距離が近づく瞬間は、

大きな出来事ではない。





何気ない会話。



何気ない視線。



何気ない「ありがとう」。





その積み重ねの中で、

人は少しずつ特別になっていく。





気づいているのに、

まだ名前をつけられない感情。





それが、

404 HOUSEの中に静かに増えていた。





次回 Scene6

『今、一番変わったと思うこと』



共同生活26日目。



11人が語る、

404 HOUSEで変わった自分。



そして、

誰かを大切に思う気持ちの形。




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