ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―
Episode28
『言葉の向こう側』
― 少しずつ”特別”になっていく日常。―
Day:Sunday(共同生活28日目)
⸻
Scene3
『自然に出た言葉』
Sunday|01:00 PM
⸻
昼どきが近づき、
キッチンには昼食の準備を始める音が響いていた。
⸻
冷蔵庫が開く音。
⸻
包丁がまな板を叩く軽やかな音。
⸻
窓から吹き込む風が、
カーテンをゆっくり揺らしている。
⸻
「今日は俺がメイン作る。」
⸻
ミンギュがエプロンを身につけながら言う。
⸻
「じゃあ、私はお手伝いします。」
⸻
チアキも自然と隣へ立ち、
野菜を洗い始めた。
⸻
もう役割を決めなくても、
お互いに何をすればいいのか分かっている。
⸻
ミンギュがフライパンを温め、
チアキが手際よく野菜を切る。
⸻
「そのボウル取って。」
⸻
ミンギュが振り向かずに声を掛ける。
⸻
チアキは何も考えず、
棚からボウルを取り、
そのまま差し出した。
⸻
「うん──」
⸻
言いかけて、
はっとする。
⸻
「あ……。」
⸻
思わず自分の口元を押さえ、
照れたように笑う。
⸻
「ごめんなさい。」
⸻
ミンギュがボウルを受け取りながら首を傾げた。
⸻
「何が?」
⸻
「今……。」
⸻
チアキは少し恥ずかしそうに目を伏せる。
⸻
「『はい』じゃなくて、『うん』って言いそうになっちゃって。」
⸻
一瞬の静けさ。
⸻
次の瞬間、
ミンギュは小さく笑った。
⸻
「別にいいじゃん。」
⸻
「でも……。」
⸻
「癖で敬語になっちゃうので。」
⸻
チアキは照れ笑いを浮かべる。
⸻
ミンギュは包丁を置き、
チアキの方を見た。
⸻
「俺は、その方が嬉しいけど。」
⸻
その言葉に、
チアキの動きが一瞬止まる。
⸻
目が合う。
⸻
照れくさそうに笑ったのは、
ほとんど同時だった。
⸻
「……少しずつ。」
⸻
チアキは小さく呟く。
⸻
「少しずつ、慣れます。」
⸻
「うん。」
⸻
「ゆっくりでいいよ。」
⸻
そのやり取りを、
少し離れたダイニングから見ていた二人がいた。
⸻
スングァンはスニョンの腕を軽くつつく。
⸻
「今、聞いた?」
⸻
スニョンは視線だけをキッチンへ向ける。
⸻
「聞いた。」
⸻
「タメ口出そうになってたよね。」
⸻
スングァンは嬉しそうに笑う。
⸻
「最初だったら絶対なかった。」
⸻
スニョンも優しく頷いた。
⸻
「距離、縮まってる証拠だな。」
⸻
「うん。」
⸻
「チアキ、自分では気づいてないんだろうけど。」
⸻
キッチンでは、
何事もなかったように昼食作りが続いている。
⸻
「味見お願いします。」
⸻
「はい……。」
⸻
そこまで言って、
チアキはまた笑う。
⸻
「……うん。」
⸻
今度は、
言い直さなかった。
⸻
ミンギュも何も言わない。
⸻
ただ、
少しだけ嬉しそうに笑った。
⸻
窓の外では、
真夏を思わせる青空がどこまでも広がっている。
⸻
ほんの一言。
⸻
たった一文字違うだけの返事。
⸻
それなのに、
二人の間の空気は、
昨日までとは少しだけ違っていた。
⸻
【STAFF NOTE】
⸻
言葉は、
距離を映す鏡。
⸻
敬語から、
自然な一言へ。
⸻
無意識にこぼれた「うん」は、
安心している証拠だった。
⸻
本人が気づくより先に、
周りの仲間たちは、
その小さな変化に気づき始めている。
⸻
次回 Scene4
『買い物、行く人?』
⸻
昼食を終えた午後。
⸻
来週のフライト準備のため、
チアキは買い物へ出掛けようとする。
⸻
その一言に、
思いがけない声が次々と返ってくる。
→
ノベルに戻る I
Addict