ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode29

『離れて気づくもの』

― 人は、いなくなってからではなく、残していったものを見て気づく。―

Day:Monday(共同生活29日目)



Scene1

『いつもの朝』

Monday|08:00 AM



404 HOUSEの朝。



キッチンの窓から朝日が斜めに差し込み、

白いテーブルと床をやわらかく照らしている。

コーヒーの深い香りに、

鍋から立ちのぼる味噌汁の湯気が重なり、

外では鳥のさえずりが、春の空気を満たしていた。



共同生活が始まって一か月近く。



朝の準備も、

「誰かがやる」のではなく、

自然と手分けされるようになっていた。



チアキはエプロン姿で、

焼き上がったトーストを皿へ並べていく。



午後から国際線勤務。



夕方には空港へ向かい、

今夜は海外で一泊する予定だ。



それでも、

出発前だからと特別扱いすることはなく、

いつも通り朝食の準備を手伝っていた。



「おはよう。」



リビングへ現れたスングァンが、

眠そうに目をこすりながら席へ着く。



「おはようございます。」



チアキは笑顔で返事をし、

温かいスープをテーブルへ運んだ。



「今日からフライトだっけ?」



スングァンが何気なく尋ねる。



チアキは頷きかけ、

ほんの一瞬だけ視線を落としたあと、

思わず口を開く。



「うん……。」



言った直後、

空気がふっと止まった気がした。



自分でも、しまったと気づく。



「あ。」



耳まで赤くなり、

チアキは慌てて口元を押さえたあと、

照れ隠しみたいに小さく笑ってしまう。



「はい(笑)。」



「今日のお昼過ぎに出発です。」



スングァンは一拍置いてから吹き出した。



「今、『うん』って言った。」



「聞いた?」



隣にいたスニョンまで笑う。



「ちゃんと聞こえた。」



チアキは照れくさそうに肩をすくめる。



「最近ほんと気を抜くと……。」



「女子とは普通に話してるから、つい出ちゃうんです。」



「でも皆さんにはまだ慣れなくて……。」



「いや、十分慣れてるでしょ。」



スングァンが笑う。



「最初なんて、もっとカチカチだったじゃん。」



「そうでしたか?」



「そうだったよ。」



「今は笑う回数も増えたし。」



「ツッコミもするし。」



「そうかな……。」



照れながら小さく笑うチアキ。



その少し離れた場所では、

コーヒーを淹れていたミンギュが、

静かにそのやり取りを聞いていた。



「うん。」



たった一言。



けれど、

その何気ない響きが耳に落ちた瞬間、

ミンギュの指先が、ほんのわずかに止まる。



カップへ注ごうとしていたコーヒーの流れが、

一瞬だけ細く揺れた。



あの自然な言葉が、

嬉しくて仕方がない。



胸の奥が、くすぐったく熱を持つ。



チアキが自分たちの輪の中で、

気を張らずに言葉をこぼしたことが、

どうしようもなく嬉しかった。



カップへコーヒーを注ぎながら、

思わず口元が緩む。



その様子に気づいたジョンハンが、

隣で小さく微笑んだ。



何も言わない。



ただ、

その笑顔だけで十分だった。



食卓に全員が揃う。



「いただきます。」



十一人の声が重なる。



窓の外では、

鳥のさえずりが朝の空へ響いていた。



いつもと変わらない朝。



けれど、

少しずつ変わっているものもある。



気を抜いた時にこぼれる、

素の言葉。



それを笑って受け止めてくれる人たち。



404 HOUSEは、

もう「共同生活の場所」ではなく、

自然体で過ごせる居場所になり始めていた。



【STAFF NOTE】



共同生活29日目。



「うん。」



たった二文字の言葉。



それだけで、

距離の変化は伝わる。



無理をして変わったのではない。



安心できる相手ができたから、

自然と素の自分がこぼれ始めた。



その小さな変化に、

気づいている人は、

案外多かった。



次回 Scene2

『行ってきます』

Monday|01:00 PM



国際線フライトへ向かうチアキ。



玄関には、

気づけば全員が集まっていた。



いつもの「行ってらっしゃい」。



その言葉が、

今日は少しだけ特別に聞こえる。




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