ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode29

『離れて気づくもの』

― 人は、いなくなってからではなく、残していったものを見て気づく。―

Day:Monday(共同生活29日目)



Scene3

『残っていたもの』

Monday|03:30 PM



チアキが家を出てから、

二時間ほどが過ぎた。



404 HOUSEは、

昼下がりの穏やかな静けさに包まれている。



リビングには、

窓から柔らかな陽射しが差し込み、

カーテンが風に揺れていた。



休日のジョンハンとウォヌは、

それぞれソファで本を読んだり、

静かに過ごしている。



ユナはキッチンで、

夕食の準備をしようと冷蔵庫を開けた。



「あ。」



思わず小さな声が漏れる。



一段目には、

ガラスの保存容器がいくつも並んでいた。



ふた越しにもわかる、

ほんのりとした湯気の名残。



冷蔵庫のひんやりした空気の中で、

まだ少しだけ温もりを抱えているように見える。



きんぴらごぼう。



ほうれん草の胡麻和え。



かぼちゃの煮物。



彩りよく作られた副菜が、

一つひとつ丁寧にラップをかけられている。



その横には、

小さな付箋。



『温めて食べてね☺︎』



丸みのある、

見慣れた字。



ユナは思わず笑みを浮かべた。



けれどその笑みは、

すぐに少しだけ胸の奥へ沈んでいく。



「もう……。」



小さくこぼれた声には、

呆れたような響きと、

それ以上に、じんわりと広がるあたたかさが混じっていた。



「出発前まで作ってたんだ。」



その声に気づき、

チェリンもキッチンへやって来る。



「どうしたの?」



「見て。」



ユナが指さした先を見たチェリンは、

ふっと息をついて、

優しく目を細めた。



「こういうところ、本当にチアキだよね。」



「自分も忙しいはずなのに。」



「私たちの夜ご飯まで考えてくれてる。」



その言葉を聞いたユナは、

保存容器をそっと取り出す。



ガラス越しに伝わる冷たさが、

指先に静かに触れた。



それなのに、

胸の中は不思議なくらいあたたかい。



「帰ってきたら、お礼言わなきゃ。」



「うん。」



チェリンは静かに頷いた。



「言葉だけじゃ足りないくらい。」



その頃、

リビングではウォヌが本を閉じ、

キッチンの方へ歩いてくる。



「何かあった?」



ユナは付箋を指差した。



ウォヌはそれを見て、

ほんの少しだけ目を和らげる。



「らしいね。」



短い一言。



でも、

その表情には、いつもの落ち着きの奥に、

確かな優しさが滲んでいた。



ジョンハンもコーヒーカップを片手に近づいてくる。



付箋を見るなり、

ふっと笑みを浮かべる。



「出掛ける直前まで、動いてたもんね。」



「ちゃんと自分の準備したのかな。」



その言葉に、

三人は顔を見合わせる。



誰かのために動くことが、

あまりにも自然な人。



だからこそ、

その優しさは本人には特別なことではない。



でも、

受け取る側には、

ちゃんと残っている。



家の中には、

チアキの姿はない。



それなのに、

キッチンには、

確かにチアキがいた時間が残っていた。



保存容器を並べる手。



冷蔵庫に貼られた付箋。



「気を付けて行ってきます。」

と笑った朝の声。



そのひとつひとつを思い返すたび、

ユナの胸の奥がきゅっと締めつけられる。



いなくなってしまった寂しさより先に、

残していったものの大きさが、

静かに沁みてくる。



人は、

いなくなって初めて存在に気づくという。



けれど、

404 HOUSEでは少し違った。



その人が残していった優しさが、

姿が見えなくなったあとも、

静かに誰かの心を温めていた。



【STAFF NOTE】



共同生活29日目。



優しさは、

大きな言葉ではなく、

小さな気遣いの積み重ねで伝わっていく。



作り置きのおかず。



冷蔵庫の付箋。



何気ない思いやりは、

その人がいない時間ほど、

温かく感じられる。



誰かの存在は、

姿ではなく、

残していった優しさの中にも生き続けていた。



次回 Scene4

『それぞれの時間』

Monday|06:00 PM



それぞれの日常を過ごす404 HOUSE。



離れていても、

ふとした瞬間に思い出す人がいる。




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