ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode29

『離れて気づくもの』

― 人は、いなくなってからではなく、残していったものを見て気づく。―

Day:Monday(共同生活29日目)



Scene4

『それぞれの時間』

Monday|06:00 PM



夕暮れ。



西日が404 HOUSEの窓を橙色に染め、

長く伸びた影が静かなリビングを横切っていた。



一日を終えた人。



これから帰ってくる人。



それぞれの時間が、

少しずつまた重なり始める。



仕事帰りのスンチョルは、

スーパーの袋を片手に玄関のドアを開けた。



「ただいま。」



返事は、

リビングにいたジョンハンとウォヌから返ってくる。



「おかえり。」



その声はいつも通りなのに、

どこか少しだけ、間が空いて聞こえた。



スンチョルは買ってきた食材をキッチンへ運ぶ。



冷蔵庫を開けると、

昼間に見つけたチアキの作り置きが、

きれいに並んでいた。



ラップの端まで丁寧に整えられた容器。



中身がひと目でわかるように貼られた小さなメモ。



その几帳面さに、思わず息がゆるむ。



「今日はこれがあるから助かるな。」



誰に言うでもなく、

小さく呟く。



その声は、少しだけ自分を安心させるためのものだった。



ジョンハンはその言葉を聞き、

冷蔵庫の前で立ち止まったままのスンチョルを見て、

静かに微笑んだ。



「帰ってきたら、また買いすぎって言われそう。」



冗談めかした口調だったが、

そのあとに続く沈黙が、ほんの少しだけ長い。



三人が小さく笑う。



笑い声は軽いのに、

どこかで同じ人の不在を確かめ合っているようでもあった。



夕方。



ウォヌは自室で読書を終え、

本棚へ本を戻そうとして手を止めた。



机の上には、

昨日までチアキが読んでいた本。



開いたページに、

栞が挟まれたままになっている。



ウォヌはその栞を指先でそっとつまみ、

位置を少しだけ整えた。



ページの端に残った、わずかな折れ目。



そこに彼女がいた時間の名残が、

妙に鮮明に見える。



ウォヌはページを閉じ、

本を両手で軽く押さえてから、

そっと机の端へ戻した。



「続き、帰ってきたら読めるように。」



誰にも聞こえないほど小さな声。



言い終えたあと、

自分でも気づかないほど短く息を吐く。



それだけ言って、

静かに部屋を出る。



その頃、

スニョンはソファに寝転びながら、

テレビを眺めていた。



画面の音はついているのに、

耳に入ってくるのは、やけに静かな部屋の気配ばかりだった。



ふと思い出したように口を開く。



「そういえばさ。」



スングァンが顔を上げる。



「ん?」



「チアキ、お土産買ってきてくれるかな。」



言ったあとで、自分でも少し気まずくなったのか、

スニョンは視線をそらしながら鼻先をかく。



スングァンは笑う。



「結局それ?」



「いや、冗談(笑)。」



スニョンも笑い返す。



けれど笑い終わったあと、

ソファの背にもたれたまま、ふっと天井を見上げた。



少し間を置いて、

照れくさそうに続けた。



「でも、帰ってきたらまた皆でご飯食べたい。」



その言葉に、

スングァンも静かに頷く。



「それは思う。」



「一人いないだけで、なんか静かだよね。」



言いながらスングァンは、

無意識にテーブルの上を見た。



そこにいつもあったはずの、

誰かが置きっぱなしにしたカップや、

ふとした拍子に聞こえる笑い声を探すみたいに。



リビングに、

一瞬だけ穏やかな沈黙が流れた。



ジョンハンはスマートフォンを手に取り、

翌日の予定を確認する。



画面をスクロールする指先が、

いつもより少しだけゆっくりしている。



画面を閉じようとした時、

ふと空港から404 HOUSEまでの到着時間を検索している自分に気づく。



「……。」



思わず苦笑する。



「明日の夜には帰ってくるのに。」



そう言いながらも、

検索履歴を消す指はどこかためらいがちだった。



誰に言うでもなく呟き、

スマートフォンを静かに伏せた。



家の中には、

いつもより少しだけ静かな時間が流れていた。



たった一人、

不在なだけ。



それなのに、

どこか物足りなく感じる。



誰かが笑う声。



「おかえり」と返す声。



忙しそうにキッチンを歩く足音。



その一つひとつが、

404 HOUSEの日常になっていた。



そして今は、そのどれもが少しだけ遠い。



【STAFF NOTE】



共同生活29日目。



離れている時間は、

寂しさだけを教えてくれるわけではない。



いつもなら気にも留めない小さな音や、

何気なく交わしていた短い言葉が、

こんなにも部屋の空気を支えていたのだと気づかせる。



その人がいることが、

どれほど自然に日常へ溶け込んでいたのか。



それを、

何気ない夕暮れが静かに教えてくれる。



次回 Scene5

『気づけば』

Monday|08:00 PM



夕食の時間。



チアキが残してくれた料理を囲みながら、

11人は改めて、

その優しさの大きさに気づいていく。




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