ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―
Episode29
『離れて気づくもの』
― 人は、いなくなってからではなく、残していったものを見て気づく。―
Day:Monday(共同生活29日目)
⸻
Scene5
『気づけば』
Monday|08:00 PM
⸻
夜。
⸻
キッチンから漂う温かな湯気が、
リビングまでゆっくりと広がっていく。
⸻
窓の外では虫の声が響き、
昼間の暑さを忘れさせるような、
少し涼しい風がカーテンを揺らしていた。
⸻
「できたよ。」
⸻
ユナが声をかけると、
それぞれが席へ集まってくる。
⸻
テーブルの中央には、
チアキが作ってくれた副菜が並んでいた。
⸻
ひとつ空いた席が、
その静けさをいっそう際立たせている。
⸻
「いただきます。」
⸻
十人の声が重なる。
⸻
いつもより一人少ないその声が、
少しだけ広い食卓に響いた。
⸻
ミンギュは、
きんぴらごぼうを一口食べる。
⸻
箸を止めて、ほんの少しだけ目を伏せた。
⸻
「……美味しい。」
⸻
思わず漏れた言葉。
⸻
「これ、昨日のうちに作ってたんだ。」
⸻
保存容器を見つめながら、
静かに呟く。
⸻
スングァンが頷く。
⸻
箸先で器の縁を軽くつつきながら、
「出発前まで動いてたもんね。」
と、小さく息をついた。
⸻
「自分の準備だけでも大変なのに。」
⸻
チェリンが箸を置き、
目尻をやわらげて優しく笑う。
⸻
「最後まで、私たちのこと考えてくれてたんだね。」
⸻
「帰ってきたら、ちゃんとありがとうって言お。」
⸻
ユナも微笑みながら頷いた。
⸻
湯気の向こうで少し目を細め、
胸の奥に残る温かさを確かめるように。
⸻
その言葉を聞き、
ジョンハンは味噌汁のお椀を手にしたまま、
静かに食卓を見渡す。
⸻
指先で椀の縁をなぞりながら、
ひとつひとつの顔を確かめるように視線を送った。
⸻
「こういうのって。」
⸻
穏やかな声が、
食卓に落ちる。
⸻
「やってもらってる時は、当たり前になっちゃうんだよね。」
⸻
「でも、いなくなると気づく。」
⸻
「いつも誰かがやってくれてたんだなって。」
⸻
誰もすぐには返事をしなかった。
⸻
ただ、
その言葉が、
一人ひとりの胸にゆっくりと沈んでいく。
⸻
スンチョルは小さく頷く。
⸻
口元をわずかに緩めながら、
「俺たちも、もっと頼られないとな。」
⸻
「頼るだけじゃなくて。」
⸻
「支えられるようにならないと。」
⸻
ウォヌも静かに口を開く。
⸻
視線を落としたまま、
「きっと本人は。」
⸻
「特別なことだと思ってないんだろうね。」
⸻
「だから余計に。」
⸻
「すごい。」
⸻
短い言葉だった。
⸻
けれど、
そこには尊敬が滲んでいた。
⸻
食卓に穏やかな笑顔が戻る。
⸻
スニョンが副菜をもう一口食べて、
ふっと笑う。
⸻
「これ、帰ってきたらまた作り方聞こう。」
⸻
「今度は皆で作ればいいじゃん。」
⸻
スングァンの提案に、
「それいい。」
と何人もの声が重なる。
⸻
誰か一人に任せるのではなく、
皆で支え合う。
⸻
それが、
今の404 HOUSEらしかった。
⸻
食事を終え、
食器を片付ける頃には、
「帰ってきたら。」
⸻
その言葉が、
何度も自然に交わされていた。
⸻
まだ一日しか離れていない。
⸻
それでも、
帰ってくる日が待ち遠しい。
⸻
そんな気持ちを、
誰も口にはしなかった。
⸻
【STAFF NOTE】
⸻
共同生活29日目。
⸻
誰かがいない食卓は、
静かになる。
⸻
けれど、
その静けさは寂しさだけではない。
⸻
残してくれた優しさを囲みながら、
人は初めて、
その存在の大きさに気づいていく。
⸻
「また一緒に食べよう。」
⸻
その何気ない約束は、
もう家族のような願いになっていた。
⸻
次回 Scene6
『Interview』
Monday|09:30 PM
⸻
テーマ
「最近、一番自然に思い出す人」
⸻
名前は言わない。
⸻
それでも、
答えるまでの沈黙が、
誰かの存在を物語っていた。
→
ノベルに戻る I
Addict