ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode30

『404 Choice』

―「気になる」は、まだ恋とは限らない。―

Day:Tuesday(共同生活30日目)



Scene1

『帰ってくる日』

Tuesday|08:00 AM



共同生活30日目。



404 HOUSEの朝。



カーテンの隙間から柔らかな朝日が差し込み、

キッチンにはコーヒーの香りがゆっくりと広がっていた。



食パンが焼ける音。



味噌汁の湯気。



「おはよう。」



「おはよう。」



いつもの挨拶が、

自然とリビングに重なっていく。



テーブルには十人分の朝食。



一席だけ空いた椅子が、

今日はいつもより少しだけ目についた。



スングァンが牛乳をコップに注ぎながら、

ふと思い出したように顔を上げる。



「そういえば。」



「今日はチアキが帰ってくる日だよね。」



その一言に、

何人かが同時に頷いた。



ユナは箸を持ったまま一度だけ視線を上げ、

すぐにスマートフォンの予定画面へ目を落とす。



「夜には戻るって、昨日ちゃんと連絡来てたよ。」



落ち着いた声だったけれど、

その指先は画面をなぞるたび、ほんの少しだけ速かった。



スニョンはパンを頬張りながら、少しだけ口元をゆるめた。



「昨日から、なんか家の中が静かだったもんな。」



言いながら、空いた椅子をちらりと見て、

それから何でもないふうに肩をすくめる。



「チアキって、ああ見えて空気動かすタイプだし。」



チェリンも小さく笑う。



「キッチンに立つと、特にそう思う。」



「さっきも無意識に『チアキ、これどこ?』って言いそうになった。」



そう言って、手元の皿を整える仕草が少しだけ丁寧になる。



みんなが優しく笑う。



その空気を見渡しながら、

スングァンが悪戯っぽく口角を上げた。



「今日はさ。」



「みんな、帰ってくるの早くなりそう。」



スニョンがすぐに反応する。



「なんで?」



「いや。」



スングァンは肩をすくめる。



「なんとなく(笑)。」



「でもさ、」



「今日は”おかえり”を一番に言いたい人、多そうじゃない?」



一瞬だけ、

食卓が静かになる。



誰かがコップを置く音だけが、小さく響いた。



その沈黙を破るように、

ジョンハンがコーヒーカップを置いた。



「それはあるかも。」



「今日は、家に戻る足が少しだけ早くなりそうだね。」



穏やかな口調。



けれどその視線は、さりげなく空いた席に触れてから、

すぐに窓の外へ流れていく。



その言葉に、

スンチョルも笑って頷く。



「仕事終わったら、寄り道せず帰る。」



「今日はちゃんと顔を見たいから。」



言い終えたあと、

自分でも少し照れたように、湯気の立つ味噌汁へ視線を落とす。



「俺も。」



ウォヌが短く答える。



その声はいつも通り静かだったが、

箸を持つ手だけが、ほんのわずかに止まっていた。



その何気ない会話に、

「……俺も、早めに戻ろうかな。」

とミンギュも続けた。



言ったあとで、

自分の言葉を誤魔化すように水をひと口飲む。



スングァンはその反応を見て、

思わず吹き出す。



「ほら!」



「やっぱりじゃん(笑)!」



ミンギュは少し照れたように笑う。



「別に。」



「たまたま、今日は予定が早いだけ。」



「はいはい。」



スニョンが笑いながら肩を叩く。



「そういうことにしとく。」



朝の光が、

ダイニングテーブルを優しく照らしていた。



笑い声が響く、

いつもの朝。



けれど今日は、

その笑いの向こうで、

誰もが同じ時間を少しだけ待っていた。



ふと誰かが玄関のほうを見て、

すぐに何でもない顔で視線を戻す。



スマートフォンを手に取っては、

まだ通知のない画面を閉じる。



コップの水を飲み干して、

空いた手で無意識に椅子の背を撫でる。



そんな小さな仕草のひとつひとつに、

期待の熱と、少しだけ足りない寂しさが混ざっていた。



「ただいま。」



その一言が聞こえる夜を。



【STAFF NOTE】



共同生活30日目。



たった数日離れていただけ。



それなのに、

「帰ってくる日」が話題になる。



「今日は早く帰ろう。」



そんな一言に、

理由はいらない。



誰かの帰宅を待つことが、

404 HOUSEでは、

もう特別ではなく日常になっていた。



けれど、その日常の中には、

空いた椅子を見つめる時間や、

玄関の音に少しだけ敏感になる瞬間がある。



待つことに慣れたはずなのに、

帰ってくる気配を思うたび、

胸の奥がほんの少しだけ温かく、そして静かに寂しい。



次回 Scene2

『迎えに行く理由』

Tuesday|04:30 PM



午後。



ジョンハンが静かに外出の準備を始める。



「どこか行くの?」



その問いに返ってきた答えは、

とてもジョンハンらしいものだった。




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