ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode30

『404 Choice』

―「気になる」は、まだ恋とは限らない。―

Day:Tuesday(共同生活30日目)



Scene3

『おかえり』

Tuesday|06:00 PM



夕暮れの空港。



到着ロビーには、

仕事帰りの人や家族を待つ人たちが行き交っていた。



自動ドアが開くたび、

様々な再会の声が響く。



ジョンハンは柱にもたれ、

静かに到着口を見つめていた。



腕を組むでもなく、

ただ片手をポケットに入れたまま、

視線だけをまっすぐ向けている。



時計の針が、

午後六時を少し過ぎる。



その時。



人混みの向こうに、

見慣れた制服姿が現れた。



キャリーケースを引きながら歩くチアキ。



少し疲れた表情。



けれど、

前を向いて歩く姿はいつも通りだった。



ふと顔を上げる。



そして、

ジョンハンの姿を見つけた。



一瞬だけ目を見開いて、

それから、確かめるようにもう一度見る。



「……ジョンハンさん?」



驚いたように立ち止まる。



ジョンハンも、

ほんの少しだけ目を細めた。



「お疲れ。」



その一言だけで、

チアキの表情がふっと柔らかくなる。



肩の力が抜けたみたいに、

握っていたキャリーケースの持ち手を少し持ち直した。



「迎えに来てくれたんですか?」



「うん。」



「約束してないけど。」



冗談っぽく笑う。



その笑い方はいつもより少しだけ優しくて、

チアキも思わず笑った。



「びっくりしました。」



ジョンハンはチアキのキャリーケースへ手を伸ばす。



「貸して。」



「大丈夫です。」



反射的にそう答えたチアキ。



ジョンハンは少しだけ眉を上げる。



「また『大丈夫』?」



その言葉に、

チアキは照れたように視線を逸らし、

それから小さく笑う。



「……癖ですね。」



「知ってる。」



ジョンハンは笑いながら、

今度は急がず、チアキの顔を一度見てから、

そのままキャリーケースを受け取った。



「今日は俺が持つ。」



「ありがとうございます。」



チアキは少しだけ間を置いてから、

もう一度、控えめに頭を下げる。



二人は並んで、

駐車場へ向かって歩き出す。



歩幅を合わせるみたいに、

ジョンハンがほんの少しだけ歩く速度を落とした。



それに気づいたチアキが、

横目で彼を見る。



ジョンハンは気づかないふりをして前を向いたまま、

口元だけをわずかに緩めた。



夕方の風が、

少しだけ涼しく感じられた。



Car



車が静かに走り出す。



窓の外には、

夕焼けに染まる街並み。



しばらくは、

心地よい沈黙だけが流れていた。



チアキはシートベルトを確かめるように一度手元を見て、

それから窓の外を眺めながら、

ぽつりと口を開く。



「迎えに来てくださって、本当にありがとうございました。」



ジョンハンは前を向いたまま、

穏やかに答える。



「今日は休みだったし。」



「ちょうど時間もあったから。」



「それに。」



少し笑う。



「荷物、多いと思った。」



チアキも笑う。



「正解です。」



「今回はいつもより多かったです。」



少しだけ沈黙。



車内には、

静かな音楽が流れている。



チアキは窓の外へ目を向けたまま、

小さく呟いた。



「なんか……。」



言いかけて、

少しだけ言葉を探すように間を置く。



「安心します。」



ジョンハンはその言葉に、

すぐには返事をしなかった。



信号待ちの赤い光が、

彼の横顔を静かに照らす。



ただ、

口元が少しだけ緩む。



「それならよかった。」



短い返事。



それだけで十分だった。



チアキはその横顔を一瞬だけ見て、

すぐにまた視線を外す。



胸の奥が、

ほんの少しだけ落ち着かない。



安心する。



そう思うのに、

その安心の中に混じる温度が、

少しだけ気になってしまう。



車は夕暮れの街を抜け、

404 HOUSEへ向かって走っていく。



帰る場所がある。



待っていてくれる人がいる。



その当たり前が、

今日のチアキには、

いつもより少しだけ温かく感じられた。



【STAFF NOTE】



共同生活30日目。



「迎えに行く。」



「迎えに来てくれる。」



その時間に、

特別な約束はなかった。



それでも、

誰かが待っていてくれる安心感は、

長い一日の疲れを静かにほどいていく。



優しさとは、

言葉よりも先に、

行動で伝わるものなのかもしれない。



次回 Scene4

『いつもの家』

Tuesday|07:00 PM



404 HOUSE。



玄関の扉が開く。



「ただいま。」



いつもと同じはずのその一言が、

今日は少しだけ特別に響いた。




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