ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode30

『404 Choice』

―「気になる」は、まだ恋とは限らない。―

Day:Tuesday(共同生活30日目)



Scene5

『404 Choice』

Tuesday|08:30 PM



夕食を終え、

それぞれが食後の時間を過ごしていた。



スングァンとスニョンはソファでテレビを眺め、

チェリンとユナはキッチンで食器を片付けている。



チアキもエプロンを外し、

「手伝います。」

と言ってキッチンへ向かおうとした、その時だった。



ピンポーン。



玄関のチャイムが鳴る。



一瞬、誰も動かなかった。



テレビの音だけが、やけに遠く聞こえる。



スングァンが画面から視線を外し、

スニョンも手を止める。



チェリンは持っていた皿をそっとシンクに置き、

ユナは思わず顔を上げた。



チアキも足を止めたまま、

玄関の方へ視線を向ける。



「スタッフさんかな?」



誰かがそう言った声は、

少しだけいつもより小さかった。



スンチョルが立ち上がり、

玄関へ向かう。



ドアの向こうで短いやり取りがあり、

鍵を開ける音がして、

それから、紙の擦れるような気配がした。



しばらくして戻ってきた彼の手には、

見慣れた白い封筒があった。



スンチョルはすぐにはそれを見せず、

一度だけ封筒を見下ろす。



その指先が、わずかに封の端をなぞる。



表には、大きく書かれている。



404 Choice



その文字を見た瞬間、

リビングの空気が少しだけ変わる。



さっきまでの食後のゆるんだ空気が、

すっと引き締まっていく。



「来た……。」



スングァンが小さく呟く。



その声に、誰もすぐには返事をしない。



ジョンハンは静かに封筒を見つめ、

ウォヌは閉じかけていた本を、完全に閉じた。



チェリンは濡れた手をエプロンで拭きながら、

封筒を見つめたまま動かない。



ユナも、片付けの手を止めたまま、

無意識に息をひそめていた。



チアキは自分の手元を見下ろし、

指先を軽く握ってから、もう一度封筒へ視線を戻す。



スンチョルが封を開ける。



紙が擦れる小さな音が、

妙に大きく響いた。



中のカードを取り出すと、

彼は一度だけ全員の顔を見渡す。



誰も急かさない。



けれど、その沈黙が、

かえって次の言葉を待たせた。



ゆっくりと読み上げる。



『共同生活30日目。』



その一文だけで、

誰かが小さく息をのむ。



『共同生活を始めて、一か月が経ちました。』



スングァンが膝の上で組んだ手に、

そっと力を入れる。



『今、この家で一番気になる人を、一人だけ選んでください。』



リビングが静まり返る。



さっきまであった微かな物音さえ、

すべて吸い込まれたみたいだった。



スンチョルは続きを読む。



『理由も一言だけ添えてください。』



『結果は最終日まで、誰にも公開されません。』



その言葉に、

何人かの視線が、ほんの少しだけ揺れる。



『これは恋愛感情だけを問うものではありません。』



『安心する人。』



『もっと話してみたい人。』



『気づけば目で追ってしまう人。』



『あなたが今、一番気になる相手を選んでください。』



読み終えると、

誰もすぐには口を開かなかった。



静かな沈黙。



それぞれが、今の言葉を頭の中で反芻しているようだった。



やがてスングァンが、

少し照れたように笑う。



「急に言われると難しいな。」



その笑い方は軽いのに、

どこか本音が混じっていた。



「そうだね。」



ソヨンも小さく頷く。



「“気になる”って、人によって意味が違うもんね。」



チェリンがカードを見つめながら言う。



「恋って言われた方が、逆に簡単だったかも。」



その言葉に、

何人かが思わず笑う。



けれど笑い声は長く続かず、

すぐにまた、静けさが戻ってきた。



ジョンハンが穏やかな声で続ける。



「だからなんじゃない?」



「まだ恋じゃない気持ちも、大事にしたいってことなんだと思う。」



ウォヌも静かに頷いた。



「答えは、一つじゃないからね。」



チアキは手元のカードを見つめる。



紙の端を、親指でそっと押さえる。



“今、一番気になる人”



その短い一文が、

思っていた以上に心に残る。



誰かの笑顔。



誰かの言葉。



誰かの優しさ。



この一か月の出来事が、

静かに頭の中を巡っていく。



「一人だけ……。」



チアキは小さく呟いた。



誰にも聞こえないほどの声。



その言葉に、

答えはまだ出ていなかった。



【STAFF NOTE】



共同生活30日目。



初めて訪れた、

「選ぶ」という時間。



恋かどうかは、

まだ分からない。



それでも、

心が自然と向かう相手はいる。



その名前を書くことは、

誰かを選ぶこと以上に、

自分の気持ちと向き合うことなのかもしれない。



次回 Scene6

『選ぶ時間』

Tuesday|09:00 PM



一人ずつ別室へ。



白いカードを前に、

全員が静かにペンを握る。



書こうとして、

止まる。



「気になる」とは、

自分にとって何なのか。



それぞれが、

初めてその答えを探し始める。




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