ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode30

『404 Choice』

―「気になる」は、まだ恋とは限らない。―

Day:Tuesday(共同生活30日目)



Scene6

『選ぶ時間』

Tuesday|09:00 PM



リビング。



スタッフが用意した小さな箱が、

テーブルの上に静かに置かれている。



その横には、

白いカードと一本のペン。



誰もその箱を見ようとしない。



見てしまえば、

何かが決まってしまう気がしていた。



スタッフの声が、

いつもより少しだけ低く響く。



「お一人ずつ別室へお越しください。」



その一言のあと、

部屋の空気が、すっと薄くなった。



名前を呼ばれた順番に、

メンバーたちが立ち上がる。



椅子が床をかすかに鳴らし、

誰かが小さく息をのむ。



けれど、

誰も何も言わない。



視線だけが、

一瞬だけ交わって、

すぐに逸れていく。



部屋には、

机と椅子が一つずつ。



余計なものは何もない。



ただ、

自分とカードだけが残される。



目の前に置かれたカード。



そこには、たった二つの空欄。



『今、一番気になる人』



『理由』



たったそれだけ。



なのに、

その二行が、

やけに重く見えた。



誰もすぐにはペンを動かせなかった。



Interview Room



最初に入ったスンチョル。



椅子に座っても、

すぐにはカードを見ない。



一度だけ天井へ視線を上げ、

それからゆっくりと目を伏せた。



ペンを持つ指先が、

わずかに止まる。



「一か月か……。」



小さく呟き、

静かにカードへ視線を落とした。



書ける名前はある。



けれど、

その名前を今ここで書くことの意味を、

何度も考えてしまう。



Another Room



ジョンハンは椅子にもたれ、

カードをじっと見つめている。



視線は動かない。



動かないまま、

何かを確かめるように、

何度も同じ文字を追っていた。



「気になる、か。」



笑うでもなく、

困るでもなく。



ただ静かな表情のまま、

ゆっくりとペンを握った。



その手が、

すぐには紙に触れない。



Another Room



ウォヌは何度かペン先を浮かせ、

また止める。



書こうとして、

やめる。



その繰り返しのたびに、

部屋の静けさが深くなる。



思い返すのは、

一緒に過ごした何気ない日常。



大きな出来事ではなく、

ふとした瞬間に交わした視線。



「おはよう。」

「おかえり。」



そんな毎日の積み重ねが、

今になって胸の奥に残っていた。



Another Room



スニョンは思わず苦笑いする。



「難しいな。」



そう言ったあと、

しばらく黙り込む。



「一人って言われると。」



その言葉の先は続かない。



誰かの顔を思い浮かべたまま、

視線だけがカードの上をさまよう。



やがて、

少しずつ表情が真剣になっていく。



Another Room



スングァンはペンを回しながら、

天井を見上げた。



何かを考えているようで、

何も考えられないようでもある。



「気づけば……か。」



その言葉を、

何度も心の中で繰り返す。



誰かを思い浮かべるたび、

別の誰かの顔も浮かんでしまう。



だからこそ、

余計に決められない。



Another Room



チアキはカードを前に、

静かに息をついた。



一か月。



この家で笑って、

悩んで、

助けられて、

助けて。



いろいろな時間があった。



けれど、

そのどれもが、

今この一枚のカードに繋がっている気がした。



「気になる人。」



小さく口にしてみる。



頭に浮かぶのは、

優しく声を掛けてくれた人。



何も言わず隣にいてくれた人。



疲れて帰る自分を、

ただ黙って見ていた人。



迎えに来てくれた人。



その一人ひとりの顔が、

順番に浮かんでは消えていく。



「……。」



チアキは目を閉じる。



誰かを選ぶということは、

誰かを選ばないということでもある。



その重さを、

静かに受け止めるように。



少しだけ微笑み、

ゆっくりとペンを紙へ下ろした。



別の部屋でも、

それぞれが同じように、

自分の心と向き合っていた。



書く前に、

一度だけ止まる。



視線を落とす。



誰かの顔を思い浮かべる。



そしてまた、

静かにペンを持ち直す。



恋なのか。



信頼なのか。



安心なのか。



まだ誰にも分からない。



けれど、

分からないままでも、

名前は書けてしまう。



そのことが、

かえって怖かった。



一人の名前を書くということは、

自分の気持ちを認めることでもある。



同時に、

その名前を見た誰かが、

何を思うのかも分からない。



静かな夜。



十一人それぞれのペン先が、

白いカードの上をゆっくりと走っていく。



書く音さえ、

聞こえないほどに静かだった。



【STAFF NOTE】



共同生活30日目。



名前を書く前に、

思い浮かぶ時間がある。



迷う時間がある。



視線が止まり、

手が止まり、

それでも最後には、

ひとつの名前へたどり着く。



その迷いもまた、

この一か月で育った気持ちの証。



「気になる。」



まだ恋とは呼ばない感情が、

静かに紙の上へ綴られていく。



次回 Scene7

『投票箱』

Tuesday|09:30 PM



書き終えたカードを、

一人ずつ投票箱へ入れていく。



十一枚のカード。



その中にある答えを知る者は、

まだ誰もいない。




ノベルに戻る I Addict