ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode32

『知らなかった横顔』

― 笑顔の裏側にある、本当の自分。―

Day:Thursday(共同生活32日目)



Scene5

『ただいま』

Thursday|09:10 PM



夜。



404 HOUSE。



玄関のドアが静かに開く。



「ただいま。」



午後勤務を終えたチアキが帰宅した。



少し疲れた表情。



肩にはいつものバッグ。



靴を脱ぐ動きも、どこか少しだけゆっくりしている。



その声に、

リビングからミンギュが顔を出す。



「おかえり。遅かったね。」



自然な一言。



けれど、チアキの顔を見た瞬間、

ミンギュの目がわずかにやわらぐ。



今日は少し無理をしていたのかもしれない。



そんな気配を、彼はすぐに感じ取っていた。



チアキも、その声にふっと肩の力を抜いて笑顔になる。



帰ってきた、と実感した途端、

張っていたものが少しだけほどける。



「ただいま……。ちょっと残業になりました。」



ミンギュはそのまま玄関まで歩いてくると、

チアキの肩に掛かっていたバッグへ手を伸ばし、

ためらいなく、でもそっと受け取る。



指先がストラップに触れた瞬間、

チアキは一瞬だけ目を瞬かせた。



「持つよ。重そうだし。」



「え、でも……」



言葉が、途中でふわりと止まる。



自分でも気づかないうちに、

バッグを離す手に少しだけ力が入っていた。



一瞬だけ目を丸くして、

すぐに視線を落としながら、照れたように笑う。



こんなふうに気遣われると、

うまく返せなくなる。



「……ありがとう。」



敬語ではない、

ごく自然な一言。



言った本人が一番驚いていた。



「あっ……。」



思わず口元を押さえる。



しまった、というより、

つい出てしまった、という顔だった。



「また?」



耳が少し赤くなる。



ミンギュはその反応に気づいて、

思わず肩を揺らした。



「すみません、今の……」



「謝らなくていいって。」



「今の、かなり自然だったよ。」



「惜しかったな。もう少しで完全にタメ口だった。」



チアキは困ったように笑いながら、

それでもどこか嬉しそうに目を細める。



気まずさより先に、

安心が胸に残っている。



「最近、本当に気を抜くと出ちゃうんです。」



「でも、まだちょっと恥ずかしくて……。」



「そのままでいいと思う。」



ミンギュは優しく答える。



「無理に変えなくていいし。」



「自然に出た言葉のほうが、チアキらしいから。」



その言葉に、

チアキは少しだけ目を伏せてから、

小さく笑った。



褒められたわけでもないのに、

胸の奥が静かに温かくなる。



「……ありがとうございます。」



「今日は荷物も多かったので、助かります。」



「今日は忙しかった?」



「はい。」



チアキは靴を脱ぎながら頷く。



その横顔を見ながら、

ミンギュはもう少しだけ何か言いたそうにしたが、

結局、いつもの調子で問いかける。



「でも、ちゃんと終わりました。」



「そっか。おつかれさま。」



「ごはんは、もう食べた?」



「まだです。帰ってから食べようと思ってました。」



「じゃあ、温めておくよ。先に手洗ってきて。」



「……ありがとうございます。」



バッグを受け取ったまま、

ミンギュは穏やかに笑う。



チアキも、ほんの少しだけ笑みを深くする。



たったそれだけのやり取りなのに、

胸の奥がじんわりと落ち着いていく。



“ただいま”と”おかえり”。



その短いやり取りが、

今日も404 HOUSEを、

少しだけ温かくしていた。



【STAFF NOTE】



共同生活32日目。



言葉遣いは、

心の距離を映すものではない。



それでも、

思わずこぼれた一言には、

安心した時間だけが持つ自然さがある。



その小さな変化に気づく人がいることも、

また、この家の日常になり始めていた。



次回 Scene6

『この家で、一番安心する時間』

Thursday|Interview



今回のテーマは、

「この家で、一番安心する時間」



それぞれの答えは違う。



けれど、

最も多かった答えは、

意外にも同じ時間だった。




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