ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode33

『気づけば、隣に』

― いつもの日常の中に、特別な存在が増えていく。―

Day:Friday(共同生活33日目)



Scene1

『変わらない朝』

Friday|Morning



404 HOUSE。



平日の朝。



かつては、それぞれが自分の支度を済ませるだけで、家の中は静かに流れていた。



けれど今は違う。



キッチンに誰かの気配がすれば、自然と声が飛ぶ。



急いでいる背中を見れば、

「忘れ物ない?」

と、誰かが声をかける。



大げさな変化ではない。



それでも、気づけばそれが当たり前になっていた。



いちばんその変化に鈍いのは、きっと当の本人たちだ。





Kitchen



ミンギュは水を飲みながら、冷蔵庫の中をのぞき込んでいた。



「今日、買い物に行かないと。」



ぽつりと漏れた独り言。



以前なら、足りないものに気づいても、ひとりで何とかしようとしていただろう。



誰かに頼るより、自分で片づけたほうが早いと思っていたからだ。



けれど今は、冷蔵庫の前で立ち止まることさえ、少しだけ自然になっている。



そこへソヨンが通りかかる。



「何か足りないの?」



「野菜が少し。」



「じゃあ、帰りに私も見てくる。」



「ありがとう。」



その返事は、驚くほどすんなり口をついた。



ミンギュは知らないうちに、誰かと分け合うことを覚えていた。



ソヨンもまた、その短いやり取りに、胸の奥がふっと温かくなるのを感じていた。



ただの買い物の相談なのに、「一緒に選ぶ」という響きが、やけにやさしい。



それが気のせいではないことを、彼女はまだ言葉にできないまま、小さく笑った。





Living Room



チアキは制服姿のまま、出発の支度を整えている。



時計に目をやる。



「そろそろ行かないと。」



バッグを手に取った、そのとき。



ウォヌが本から顔を上げた。



「今日勤務長いんだよね?」



チアキは少し目を見開く。



自分から話していなかった予定を、彼は当然のように覚えていた。



「はい。」



「夜までです。」



「無理しないで。」



短い言葉だった。



それなのに、その声はいつもより少しだけやわらかく聞こえた。



チアキは思わず笑みをこぼす。



「ありがとうございます。」



そして、少しだけ迷ってから付け足した。



「ウォヌさんも、ちゃんと休んでくださいね。」



言ったあとで、ほんの少しだけ頬が熱くなる。



以前のチアキなら、誰かの体調を気にするだけで、こんなふうに胸がざわつくことはなかった。



けれど今は違う。



相手を思いやるたび、その人のことをもっと知りたいと思ってしまう。



ウォヌもまた、その言葉を聞いた瞬間、本のページをめくる手を止めた。



心配されることに慣れていないわけではない。



それでも、チアキから向けられる気遣いだけは、静かに胸の奥へ残っていく。



「……気をつけて。」



そう返した声は、自分でも驚くほど低く、やさしかった。



チアキは一瞬だけ目を伏せる。



その短い一言が、慌ただしい朝の中で、妙に長く心に残った。





Entrance



出発の時間。



玄関には、いつの間にか数人が集まっていた。



「行ってきます。」



「行ってらっしゃい。」



いつものやり取り。



けれど、最初の頃とは少し違う。



ただの挨拶ではなく、相手の一日をそっと気にかける言葉になっていた。



その変化は、誰かが誰かにとって特別になり始めた証でもある。





チアキが靴を履いていると、スンチョルも玄関へやって来る。



「お、チアキも今出る?じゃあ駅まで一緒に行こうか。」



「はい。」



二人は自然に並んで外へ出た。



並んで歩くことに、もう気まずさはない。



それでも、何も感じていないわけではなかった。



チアキは、隣を歩くスンチョルの歩幅に、無意識のうちに自分を合わせていた。



そのことに気づいた瞬間、胸が小さく跳ねる。



スンチョルもまた、横顔を見ないようにしながら、彼女が隣にいることを確かめていた。



ほんの少し前までなら、ただの同居人として見ていたはずなのに。



今では、朝の光の中で並ぶその姿が、妙に目に焼きつく。



言葉にしなくても、隣にいるだけで落ち着く。



そんな感覚が、静かに芽を出し始めていた。





少し後ろで見ていたスングァンが、小さく笑う。



「もう普通になったよね。」



スニョンが頷く。



「何が?」



「誰かと一緒に行動すること。」



スングァンはそう言いながら、自分の胸の奥にも生まれ始めた変化に気づいていた。



誰かの帰りを待つこと。



誰かの声を聞くだけで安心すること。



そんなささやかなことが、いつの間にか嬉しくなっている。



それはきっと、恋に似た何かの始まりだった。



スニョンも、その言葉にすぐには返さなかった。



ただ、玄関の外へ向かう二人の背中を見つめる。



最初は、同じ家にいるだけだった。



でも今は違う。



相手の予定を覚え、体調を気にかけ、帰りを少しだけ待つ。



その積み重ねが、「気になる」という感情に、少しずつ輪郭を与えていく。



スニョンは、その変化をまだ誰にも言えない。



けれど、言葉にできないまま胸に残る熱が、嫌ではなかった。





【STAFF NOTE】



共同生活33日目。



距離が近づく瞬間は、いつも大きな出来事とは限らない。





「気を付けて。」



「頑張って。」



「帰ったら話そう。」





そんな小さな言葉の積み重ねが、いつの間にか、誰かを特別な存在へ変えていく。



404 HOUSEの朝は、今日も変わらない。



でも。



昨日までと、まったく同じ朝ではなかった。



誰かを思って、ほんの少し足を止める。



その一瞬が増えるたび、この家の空気は静かにやわらいでいく。



そしてそのやわらかさが、まだ名前のない感情を、そっと育てていた。



次回 Scene2

『それぞれの時間』

Friday|Afternoon



それぞれが、

それぞれの人生へ戻る時間。



共同生活だけではない。



11人には、

それぞれの「いつもの日常」がある。




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