ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode34

『あの日の続きを』

― 大人になった今だから楽しめる、忘れられない一日。―

Day:Saturday(共同生活34日目)



Scene4

『遊園地の時間A』

Saturday|13:00 PM



ロッテワールド。



午後。



園内には、甘いキャラメルポップコーンの香りと、焼きたてのワッフルの匂いがふわりと混ざって漂っていた。遠くではジェットコースターの金属音が響き、頭上を抜ける歓声が何度も波のように重なる。色とりどりの風船、きらめく装飾、陽射しを受けて反射するガラスの天井。歩くだけで、まるで別世界に入り込んだような気分になる。



スタッフから、

自由行動の時間が伝えられる。



「午後はグループに分かれて過ごしてください。」



「好きな場所へ行って、好きな時間を楽しんでください。」





11人の表情が明るくなる。



朝からずっと一緒だった。



でも。



同じ場所にいても、

一緒に過ごす相手によって、

見える景色は変わる。





Group 1

チアキ × ミンギュ × スニョン × ジョンハン



パレードが見えるレストラン。



窓の外には、

音楽と笑顔で溢れる園内。



赤や青の衣装をまとったキャストたちが通り過ぎ、軽快なリズムに合わせて手を振る。窓越しでも伝わる太鼓の振動、子どもたちの弾んだ声、遠くで鳴る汽笛のような演出音。ガラスの向こうは、まるで一枚の華やかな絵のようだった。



テーブルには料理。



湯気の立つ温かい皿からは、香ばしい匂いが立ちのぼる。カトラリーが触れ合う小さな音さえ、賑やかな空気の中で心地よく響いた。



チアキは楽しそうに周りを見る。





「すごいですね。」





ミンギュが笑う。





「こういう場所、久しぶり?」





「はい。」



少し考えて。



「大人になってから来ることって、あまりなかったです。」





ジョンハンが頷く。





「仕事中心になるよね。」





スニョンが笑う。





「でも今日は仕事じゃない。」





「ただ遊びに来てる。」





その言葉に、

チアキも笑う。





「そうですね。」





窓の外でパレードが始まる。





音楽。



歓声。



笑顔。



きらびやかな衣装の裾が揺れ、光を受けてきらりと瞬く。スピーカーから流れるメロディーが店内まで届き、テーブルの上のグラスの氷が小さく鳴った。外の熱気と、店内の涼しい空気。その境目に座っているだけで、特別な時間を過ごしているのが分かる。



4人は自然に写真を撮る。





「チアキ、こっち見て。」





ミンギュがスマホを向ける。





「え?」





「今の顔。」





「楽しそうだったから。」





チアキは少し照れる。





「写真苦手なんですけど。」





ジョンハンが笑う。





「でも今のは自然だった。」





スニョンも画面をのぞき込む。





「たしかに。いつもの“ちゃんとしなきゃ”って顔じゃない。」





「それ、褒めてます?」



チアキが困ったように笑うと、ミンギュがすぐに頷いた。





「もちろん褒めてる。」





ジョンハンが肩をすくめる。





「チアキは真面目だからね。こういう時くらい、もっと気楽でいいのに。」





「でも、そういうところもチアキらしいよ。」



スニョンの言葉に、チアキは少しだけ目を丸くする。





「……ありがとう。」





ミンギュが笑いながら、料理を指さす。





「ほら、まずは食べよう。せっかく来たんだから、景色だけじゃもったいない。」





「ミンギュ、さっきから一番楽しんでるの自分でしょ。」



ジョンハンが突っ込むと、ミンギュはあっさり認めた。





「そりゃそうでしょ。こういうの、好きだもん。」





「分かりやすいなあ。」



スニョンが笑うと、チアキもつられて笑った。





「でも、こうして一緒に食べるのもいいですね。」





その一言に、テーブルの空気が少しやわらぐ。





ジョンハンが静かに頷く。





「うん。こういう時間って、あとから思い出に残る。」





ミンギュが窓の外を見ながら言う。





「しかも今日はパレード付き。かなり贅沢。」





「じゃあ、写真もう一枚撮ります?」



チアキが少しだけ自分から提案すると、3人が同時に笑った。





「いいね。」





「今度はチアキが撮って。」





「え、私ですか?」





「そう。逃げないで。」



ジョンハンに軽く背中を押され、チアキは少し戸惑いながらもスマホを受け取る。そんなやり取りひとつひとつが、もう気を遣うだけの関係ではないことを静かに示していた。



Group 2

ユナ × スンチョル × ジウォン



園内をゆっくり歩く3人。





派手なアトラクションより、

景色を楽しむ時間。





足元には、磨かれた床に映る光の模様。すれ違う人々の笑い声、アイスクリームの甘い香り、どこかで鳴るメリーゴーラウンドの音楽。急がず歩くだけで、目に入るものすべてが少しずつ違って見える。



「こういう日もいいね。」



ジウォンが言う。





スンチョルが頷く。





「普段は予定を合わせるだけで大変だから。」





ユナが笑う。





「最初だったら、こんな風に歩けなかったと思う。」





3人とも頷く。





最初の頃。



誰も相手の距離感が分からなかった。





今は。



自然に会話が続く。





ふと立ち止まれば、近くの売店から甘い匂いが流れてくる。遠くのアトラクションからは、乗客の叫び声と笑い声が交互に聞こえ、園内全体が生き物みたいに脈打っていた。



ユナがショーウィンドウを見ながら、ふっと声を漏らす。





「このぬいぐるみ、ちょっとかわいい。」





ジウォンがすぐに反応する。





「ユナ、好きそう。」





「え、私そんなに分かりやすい?」





「分かりやすいよ。」



スンチョルが笑う。





「さっきから目で追ってた。」





「見てました?」



ユナが少し恥ずかしそうにすると、スンチョルは悪びれずに頷いた。





「うん。欲しいなら取ってあげようかと思って。」





ジウォンが目を細める。





「そういうところ、ほんと自然に優しいよね。」





「褒められてる?」





「もちろん。」





ユナが笑いながら首を振る。





「でも、取ってもらうほどじゃないです。見るだけで十分。」





「じゃあ、見るだけで終わらせるのももったいないから、写真だけ撮ろう。」



ジウォンがスマホを構えると、ユナが少し驚く。





「え、私たちですか?」





「うん。こういうの、あとで見返したら楽しいでしょ。」





スンチョルが少しだけ肩を寄せる。





「じゃあ、ユナの好きなぬいぐるみも一緒に入れよう。」





「……なんか、すごく記念写真っぽいですね。」





「記念写真だよ。」



ジウォンが笑う。





「今日はそういう日。」





シャッター音が鳴る。





撮った写真を見て、ユナが小さく笑った。





「……なんか、私だけちょっと緊張してる。」





スンチョルが即答する。





「それも可愛い。」





「ちょっと、そういうことをさらっと言わないでください。」



ユナが照れながら言うと、ジウォンが吹き出す。





「今の、完全に動揺してた。」





「してないです。」





「してた。」





スンチョルまで笑ってしまい、ユナは観念したようにため息をつく。





「……もう、二人とも意地悪。」





「でも嫌じゃないでしょ?」



ジウォンの問いに、ユナは少しだけ黙ってから、小さく笑った。





「……嫌じゃないです。」





その返事に、3人の間にやわらかな空気が流れる。最初はぎこちなかった歩幅も、今では自然に揃っていた。



Group 3

ウォヌ × ソヨン



少し離れたベンチ。





人の少ない場所で休憩。





ソヨンが飲み物を持つ。





冷たいカップには水滴がついていて、指先にひんやりとした感触が伝わる。近くの木陰には、風に揺れる葉の影が落ち、喧騒の中にも少しだけ静かな空気があった。



「疲れてない?」



ウォヌが聞く。





ソヨンは笑う。





「大丈夫。」





少し間を置いて。





「前なら、無理してでも大丈夫って言ってたと思う。」





ウォヌを見る。





「でも今は、疲れたって言えるようになった。」





ウォヌは静かに頷く。





「それは良いことだと思う。」





短い言葉。





でも、

ソヨンには十分伝わった。





ベンチの向こうでは、子どもたちのはしゃぐ声が風に乗って流れてくる。遠くのアトラクションの低い振動が、地面越しにかすかに伝わってきた。



ソヨンが飲み物をひと口飲んでから、少しだけ笑う。





「ウォヌさんって、こういう時ほんとに落ち着いてますよね。」





「そうかな。」





「そうです。隣にいると、急がなくていいって思える。」





ウォヌは少しだけ目を細める。





「それならよかった。」





「よかった、で終わるんですか?」



ソヨンがからかうように言うと、ウォヌは珍しく少しだけ困った顔をした。





「……他に何か言った方がいい?」





「ふふ。今の、ちょっと可愛いです。」





「可愛いは余計。」





「でも、そういう反応するところがいいんです。」



ソヨンが笑うと、ウォヌも小さく息を漏らすように笑った。





「ソヨンは、前より素直になった。」





「え?」





「疲れたって言えるのも、こうして休もうって言えるのも。」





ソヨンは少しだけ視線を落とす。





「……ここに来てから、そういうのを覚えた気がします。」





「みんなのおかげ?」





「はい。でも、ウォヌさんがいるのも大きいです。」





その言葉に、ウォヌはすぐには返さない。ただ静かに頷いて、ソヨンの持つカップを見た。





「飲み物、まだある?」





「あります。」





「じゃあ、もう少し休んでから戻ろう。」





「はい。」





短いやり取りなのに、そこには安心があった。言葉を重ねすぎなくても伝わるものが、もう二人の間には確かにあった。



Group 4

スングァン × チェリン



ゲームコーナー。





電子音が鳴り響き、景品のぬいぐるみが棚いっぱいに並ぶ。カラフルなライトが点滅して、床まで明るく照らしていた。コインの落ちる音、ボタンを押す音、勝敗が決まるたびに上がる歓声。空気まで少し熱を帯びている。



「絶対勝つから。」



スングァンが宣言する。





「毎回言ってるよね。」



チェリンが笑う。





結果。





負ける。





「……。」





「今のは機械が悪い。」





「言い訳(笑)」





二人の笑い声が響く。





チェリンが景品の並ぶ棚を見上げる。





「でも、あのうさぎはちょっと欲しかったかも。」





スングァンがすぐに振り向く。





「え、ほんと?」





「うん。耳が長いの、かわいい。」





「じゃあ、もう一回やる。」





「さっき負けたばっかりなのに?」





「今度は勝つ。」





「その自信、どこから来るの?」





「気合い。」



スングァンが胸を張ると、チェリンは笑いながら肩をすくめた。





「じゃあ、応援してあげる。」





「え、応援してくれるの?」





「うん。スングァン、応援されると単純に頑張るでしょ。」





「……それは否定できない。」





チェリンが少し離れて見守る中、スングァンは真剣な顔でボタンを押す。結果は惜しくも外れたが、本人はなぜか満足そうだった。





「今の、かなり惜しかったよね?」





「惜しかったけど、外れたよ。」



チェリンが笑うと、スングァンは悔しそうに唇を尖らせる。





「次こそは取る。」





「じゃあ、次は私が見てる。」





「ほんと?」





「うん。だから、ちゃんと頑張って。」





その一言で、スングァンの目が少しだけ輝く。





「任せて。」





「その顔、急に頼もしい。」





「今のは褒められた。」





「そうだよ。」



チェリンが笑うと、スングァンもつられて笑った。負けても、悔しくても、隣で笑ってくれる相手がいるだけで、ゲームの時間はずっと楽しくなる。



リビングのような時間





別々に行動している。



でも。



写真を送り合う。



メッセージを送る。





「今ここいる!」



「これ見て!」



「このアトラクション、思ったより怖い!」



「え、ほんと? じゃあ次は一緒に乗ろうよ。」



「チアキ、写真の顔かわいい。」



「やめてください、送らないでください。」



「もう送った。」



「スンチョルさん、早いです。」



「ユナ、ぬいぐるみ似合ってる。」



「え、ほんとですか? ちょっと嬉しいです。」



「ソヨン、休憩してるなら水分ちゃんと取って。」



「ウォヌさんみたいに落ち着いたメッセージですね。」



「スングァン、また勝てなかったの?」



「チェリン、見てたなら応援してよ!」



「応援したよ。だから次は勝って。」





離れていても、

同じ一日を共有している感覚。





それは、

共同生活を始めた頃にはなかったものだった。





園内のどこにいても、誰かの笑い声や音楽が聞こえる。甘い匂い、冷たい風、手に残る飲み物の温度。そうしたひとつひとつが、同じ場所にいることを確かに感じさせていた。



【STAFF NOTE】



共同生活34日目。



近づくということは、

いつも隣にいることではない。





別々の時間を過ごしても、

同じ思い出を持てること。





それもまた、

距離が縮まった証だった。



次回 Scene5

『集合写真』



一日の最後。



11人で撮る一枚の写真。



最初の日の距離と比べた時、

そこに映っていたものは――。




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