ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode35

『言えないままの気持ち』

― 楽しい時間の後に残る、小さな違和感。―

Day:Sunday(共同生活35日目)



Scene3

『気づく人』

Sunday|15:00 PM



404 HOUSE。



午後。



リビングでは、

映画を観ていたメンバーが少し休憩していた。





ウォヌとソヨンは飲み物を取りにキッチンへ。





スングァンはトイレへ。





スニョンとチェリンは散歩からまだ戻っていない。





少しだけ静かになったリビング。





ミンギュは、

何気なく視線を向ける。





そこにいたチアキ。





リビングの隅。





昨日着た制服を、

丁寧に畳んでいる。





その姿を見た瞬間。





ミンギュの中で、

ある記憶が重なった。





一昨日。



スタッフから制服が届いた夜。



箱を開けた瞬間。



みんなが楽しそうに話していた中で、

チアキだけが一瞬、

寂しそうな顔をしていた。





あの時は、

気のせいかもしれないと思った。



けれど今、同じように伏せられたまつ毛と、

どこか遠くを見ているような横顔を見て、

ミンギュは胸の奥が静かにざわつくのを感じた。





楽しそうな思い出を見ているはずなのに。



どこか遠くを見るような顔。





ミンギュは、

少し迷う。





声をかければ、

その表情の理由に触れてしまうかもしれない。



でも、

何も言わなければ、

見なかったことにしたみたいで嫌だった。





ただ気になっただけだと流してしまうには、

あの一瞬の寂しさが、

どうしても胸に残っていた。





聞いていいのか。





それとも、

聞かない方がいいのか。





相手が隠しているものに、

無理に踏み込むのは違う。



けれど、

気づいたまま黙っているのも、

優しさとは少し違う気がした。





どう言えば、

負担をかけずに済むだろう。





どう聞けば、

詮索に聞こえないだろう。





そんなふうに考えているうちに、

チアキの手元ばかりを見ていた視線が、

自然と止まる。





でも。





気づいてしまった。





自分が思っていた以上に、

あの表情が気になっている。



ただの興味じゃない。



放っておけないと思ってしまうこと自体に、

ミンギュは少し戸惑っていた。





リビング





「チアキ。」





名前を呼ばれて、

チアキが顔を上げる。





「はい?」





いつもの声。





でも。



その一言に、ほんの少しだけ警戒が混じっているのを、

ミンギュは見逃さなかった。



自分の声が重かっただろうか。



急に呼び止められて、

嫌な予感をさせてしまったかもしれない。





ミンギュは少しだけ言葉を選ぶ。





いきなり理由を聞けば、

チアキを困らせるかもしれない。



だから、

責めるようにも、探るようにもならない言い方を探す。





「一昨日、制服見た時も……。」





チアキの手が止まる。





その瞬間、

ミンギュは自分の胸がわずかに痛むのを感じた。



やっぱり触れない方がよかったのかもしれない。



そう思いかけたのに、

それでも言葉を引っ込めなかったのは、

目の前の彼女が、無理に笑っているように見えたからだった。





「その顔してた。」





「……え?」





「少し悲しそうな顔。」





数秒。





静かな時間が流れる。





チアキは驚いたようにミンギュを見る。





まさか。





気づかれていたとは思わなかった。





胸の奥を見透かされたようで、

少しだけ息が詰まる。



でも同時に、

誰にも見せていないはずの揺れを、

この人はちゃんと見ていたのだと思ってしまう。





「……そう見えました?」





小さな声。





否定することもできたはずなのに、

チアキはできなかった。



見抜かれたことへの驚きと、

見抜いた相手がミンギュだったことへの戸惑いが、

静かに混ざり合っていた。





ミンギュは頷く。





「うん。」





「でも。」





少し間を置く。





「聞かない方がいい気がしたから。」





その言葉に、

チアキの表情が少し変わる。





理由を聞こうとしない。





無理に踏み込まない。





ただ、

気づいてくれていた。





それだけだった。





その“それだけ”が、

思っていた以上に胸に沁みる。



誰かに見られていることが、

こんなにも安心につながるなんて知らなかった。





「そっか……。」





チアキは制服を見る。





そして、

小さく笑う。





その笑みは、さっきまでの曖昧な影を少しだけほどいていた。





「ありがとう。」





ミンギュも少し笑う。





「うん。」





「いつか。」





「チアキが話したくなったらでいいから。」





「その時に、聞かせて。」





チアキは少し驚いた顔をする。





“いつか”という言葉が、

急かされていないことを伝えてくれる。



今すぐ答えなくていい。



隠したままでもいい。



そう言われた気がして、

胸の奥の固さが少しだけほどけた。





「……はい。」





短い返事。





でも。



その声には、

少しだけ安心した響きがあった。





ミンギュもまた、

その変化に気づいていた。



ほんのわずかでも、

彼女の表情がやわらいだことが嬉しかった。



自分の言葉が届いたのだと思うと、

静かに胸が温かくなる。





少し後





ミンギュは映画の続きを見るため、

ソファへ戻る。





チアキは制服を片付ける。





まだ。



秘密は話さない。





まだ。



過去を開く準備はできていない。





でも。





初めて。



「無理に笑わなくてもいい相手」

ができた気がした。





そしてミンギュもまた、

その背中を見ながら、

自分がただ気を遣っただけではないことに気づいていた。



彼女の沈黙を守りたいと思った。



その気持ちは、もう単なる優しさだけでは説明できない。





スタッフカメラ





遠くから映像を見るスタッフ。





ディレクターが静かに言う。





「聞かなかったですね。」





スタッフが頷く。





「だからこそ、話せる日が来るのかもしれません。」





画面の中。





チアキはいつものように笑っている。





でも。



その笑顔の奥にあるものを、

初めて誰かが見つけた瞬間だった。





【STAFF NOTE】



共同生活35日目。





人との距離が近づく時。





必ずしも、

秘密を聞き出した時ではない。





話せないことがあると知ること。



待つことができること。





その優しさが、

信頼へ変わっていく。





次回 Scene4

『404 HOUSEの夕食』



いつもの食卓。



いつもの会話。



でも。



少しずつ変わっていく距離。



そして、

チアキの変化に気づく人が増えていく。




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