ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode36

『近づくほど見えるもの』

― 知れば知るほど、相手の知らない部分が見えてくる。―

Day:Monday(共同生活36日目)



Scene2

『仕事の顔』

Monday|Afternoon



404 HOUSEの外。



それぞれが、

それぞれの場所で一日を過ごしていた。



同じ家で暮らしていても。



仕事中の姿は、

誰も知らない。





空港



チアキ。



制服姿で、

搭乗準備を確認している。





404 HOUSEで見せる、

穏やかな笑顔。



少し控えめな話し方。



誰かを気遣う優しさ。





でも。



職場では少し違った。





「お客様のお荷物はこちらでお預かりします。」



「お気をつけてお過ごしください。」





落ち着いた声。



迷いのない動き。



周囲をよく見て、

先回りして対応する姿。





同じ笑顔でも、

そこにはプロとしての表情があった。





搭乗口の近くで、

同僚が小さく声をかける。



「チアキさん、さっきの案内、すごく分かりやすかったです。」



チアキは手元の書類から顔を上げる。



「ありがとうございます。」



「でも、まだ少し早口でしたよね。」



同僚はすぐに首を振った。



「いえいえ、全然です。」



「むしろ、あの落ち着いた感じがちょうどよかったです。」



「お客様も安心してましたし。」



チアキは少しだけ目を細める。



「そうですか。」



「そう言ってもらえると、ほっとします。」



同僚は笑って肩をすくめた。



「チアキさんって、褒めるとすぐ控えめになるんですよね。」



「でも、そこもいいところです。」



その言葉に、チアキは少し照れたように視線を落とす。



「……ありがとうございます。」



「次はもう少し、ゆっくり話してみます。」



「それで十分だと思います。」



同僚はそう返してから、ふと思い出したように続ける。



「そういえば、さっきの年配のお客様、チアキさんに案内してもらってすごく安心したみたいですよ。」



「『あの子に聞けば大丈夫そうだね』って。」



チアキは少し驚いたように目を丸くする。



「そんなふうに言ってくださったんですか。」



「はい。」



「やっぱり、ちゃんと伝わってるんですね。」



チアキは小さく息をついて、柔らかく笑った。



「伝わっていたなら、よかったです。」





少しして、

年配の乗客が案内カウンターに立ち止まる。



「すみません、乗り継ぎの場所が少し不安で……。」



チアキはすぐに地図を取り出した。



「ご案内します。こちらから行くと分かりやすいです。」



「もし途中で迷われたら、ここに戻ってきてください。」



乗客はほっとしたように笑う。



「あなた、頼もしいね。」



チアキは少しだけ目を丸くして、

それから柔らかく笑った。



「ありがとうございます。」



「無事にご搭乗いただけるよう、最後までお手伝いします。」



乗客はうなずきながら、少し安心したように言う。



「こういう時、慌てずに話してくれる人がいると助かるよ。」



「あなたみたいな人がいると、空港って心強いね。」



チアキは丁寧に頭を下げる。



「そう言っていただけて嬉しいです。」



「お気をつけて、いってらっしゃいませ。」





そのやり取りを見ていた後輩が、

休憩室でぽつりとつぶやく。



「チアキさんって、優しいだけじゃないんですね。」



「ちゃんと相手を安心させる言い方を知ってるというか……。」



別のスタッフが頷く。



「うん。あの人、空気を読むのが上手いよね。」



「でも、ただ合わせてるだけじゃない。」



「相手が何を求めてるか、ちゃんと考えて動いてる感じがする。」



後輩は少し考えてから、素直に言った。



「なんか……話しかけやすいのに、ちゃんと頼れるんですよね。」



「それって、すごいことだと思います。」



別のスタッフが笑う。



「わかる。」



「しかも、さりげなくフォローしてくれるから助かるんだよ。」



「さっきも、書類の置き場所が違ってたのを、誰にも気づかれないように直してくれてたし。」



後輩が目を丸くする。



「え、そうなんですか?」



「うん。」



「そういうところ、ほんとにチアキさんらしいよね。」





その頃、

チアキは少し離れた場所で、

窓の外を見ていた。



忙しさの合間に訪れる静かな時間。



ふと、胸の奥に浮かぶのは、

404 HOUSEでの何気ない会話だった。



『無理してない?』



誰かにそう聞かれた時、

いつもなら笑ってごまかしてしまう。



でも最近は、

その問いに少しだけ立ち止まるようになった。



“ちゃんと見てくれている人がいる。”



そう思えるだけで、

背筋が少し伸びる。





スタッフコメント



「404 HOUSEの中と外で、一番印象が違う人かもしれません。」





「家では、みんなに合わせて自然に笑っている印象ですが……。」





「仕事中のチアキさんは、すごく堂々としていて、自分の役割をしっかり理解している。」





「同じ人なのに、違う一面が見えます。」





会社





スンチョル。





仕事の打ち合わせ。





真剣な表情で資料を確認する。





普段、

404 HOUSEでは、

みんなの話を聞きながら笑う姿。





でも。



仕事では、

判断する側の顔になる。





「ここはもう少し調整しよう。」





冷静な声。





責任を背負う立場。





会議が終わったあと、

後輩スタッフが少し迷いながら声をかける。



「スンチョルさん、ひとつ聞いてもいいですか。」



「どうした?」



「ROOM404、見てるんですけど……。」



スンチョルは少しだけ眉を上げる。



「見てるの?」



「はい。」



後輩は少し照れたように笑って、続ける。



「チアキさん、最初は控えめだったのに、気付いたら目で追っちゃいますよね。しかも、優しいだけじゃなくてちゃんとしてる人なんだなって。」



スンチョルは少し黙ってから、

ゆっくり頷いた。



「そうだね。」



「チアキは、誰かに合わせるのが上手い。」



「でも本当は、合わせてるだけじゃない。」



「相手が安心できるように、自分で考えて動いてる。」



後輩が目を瞬かせる。



「……よく見てるんですね。」



その言葉に、スンチョルは一瞬だけ視線を落とす。



「見てるというより……。」



少し考えてから、静かに言う。



「気づくようになった、かな。」



後輩は少し笑って、でもどこか納得したようにうなずく。



「なんか、いいですね。」



「そういうの。」



スンチョルは資料を閉じながら、短く息をつく。



「何が?」



「相手のことを、ちゃんと見てる感じです。」



「仕事でも、家でも。」



その言葉に、スンチョルは少しだけ口元を緩めた。



「……そう見えるなら、悪くないな。」





その言葉は、

自分でも少し意外だった。



誰かのことを説明する時。



いつの間にか、

その人の内側まで見て話していることに。





休憩室を出たあと、

スンチョルはスマートフォンを手に取る。



画面には、まだ送っていないメッセージ。



『今日、忙しい?』



短い文なのに、

送るまでに少し時間がかかる。



“忙しかったら、迷惑だろうか”



そんなふうに思ってしまう自分に、

スンチョルは小さく息をついた。



それでも、意を決して送信する。



少しして、返事が来る。



『大忙しです!』



今までなら、こんなふうに冗談めかして返してくることはなかった。



その一文に、スンチョルは思わず目を瞬かせる。



忙しいはずなのに、

どこか軽やかな返事。



それが妙にうれしくて、

口元がわずかに緩んだ。



夕方





それぞれの場所で、

仕事を終える。





家での姿。



仕事での姿。





どちらも、

その人の一部。





一緒に暮らしているからこそ、

少しずつ知っていく。





強さ。



責任感。



不器用さ。





そして。





まだ知らない過去。





【STAFF NOTE】



共同生活36日目。





人は、

一緒にいる時間だけでは分からないことがある。





仕事をする姿。



誰かに頼られる姿。



一人で戦っている姿。





その人の別の顔を知った時、

距離はまた少し変わっていく。





次回 Scene3

『迎えに行く』



予定より遅れるフライト。



一つのメッセージから、

404 HOUSEの優しさが見えてくる。




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