ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode36

『近づくほど見えるもの』

― 知れば知るほど、相手の知らない部分が見えてくる。―

Day:Monday(共同生活36日目)



Scene4

『自然な会話』

Monday|Night



404 HOUSE。



玄関のドアが開く。



「ただいま。」



チアキの声は、少しだけ疲れていた。

それでも、家に帰ってきた安心がにじんでいる。





「おかえり、チアキ。」



リビングから返ってきたミンギュの声は、いつもより少し柔らかかった。





その瞬間。



チアキの表情が、ふっと緩む。

張りつめていた肩の力が、目に見えてほどけた。





いつもの場所。

いつもの声。





でも。



長い一日のあとに聞く「おかえり」は、

ただの挨拶なのに、胸の奥を静かに温めた。





リビング





時計はもう遅い時間。





みんなの夕食は、

すでに終わっていた。





テーブルの上には、

片付けられた食器。





「ご飯、もう終わってたんだ。」





チアキが少し残念そうに言う。

その声には、申し訳なさと、ほんの少しの寂しさが混じっていた。





「遅くなってごめん。」





すぐにスングァンが反応する。





「なんで謝るの。」





「仕事で遅くなっただけでしょ。」





スニョンも頷く。





「そうそう。」





「それより、顔つかれてるよ。」





チアキは少し黙る。

誰かに気づかれるほど、自分は疲れた顔をしていたのだろうか、と少しだけ恥ずかしくなる。





以前なら。



「すみません。」



「ありがとうございます。」





そう言って終わらせていた。





でも今は。





「……うん。」





自然に返事が出る。

その短い言葉が、自分でも驚くほど素直だった。





その一言に、

本人が一番驚く。





キッチン





ミンギュが立ち上がる。



その動きは迷いがなくて、まるで最初からそうするつもりだったみたいだった。





「チアキ。」





「スープ、温める。」





チアキが振り返る。

ミンギュの顔を見た瞬間、少しだけ胸が跳ねる。





「え、いいの?」





ミンギュはキッチンへ向かいながら笑う。

その笑顔は軽いのに、どこか気遣うようで、チアキは目を逸らしそうになる。





「朝、言ったじゃん。」





「帰ってきたら、昨日のスープの続き食べようって。」





「玉ねぎ、まだ残ってるし。」





「チアキが『今度はちゃんと食べたい』って言ってたから、ちゃんと覚えてた。」





朝。





空港へ向かう車の中。





何気なく話したこと。





その言葉を、

ミンギュは覚えていた。





チアキは、少しだけ息をのむ。

そんなふうに覚えていてくれたことが、思った以上に嬉しかった。

嬉しいのに、どうしていいかわからなくて、視線が落ちる。





「でも……。」





チアキが言いかける。

遠慮しようとしたのに、声が少し弱くなる。





ミンギュが振り返る。





「なに?」





その問いかけは優しかった。

まっすぐ見られると、胸の奥が落ち着かなくなる。





チアキは少し迷う。

言えば、また自分の気持ちが顔に出てしまいそうで、ほんの一瞬だけためらう。





「……ありがとう。」





自然に出た言葉。





敬語ではない。





言ったあと、

一瞬だけ固まる。

自分で言っておきながら、急に恥ずかしくなる。





「あ……。」





ミンギュが笑う。

その笑い方はからかうというより、嬉しそうだった。





「今の、聞こえた。」





チアキの顔が赤くなる。

耳まで熱くなるのがわかって、ますます視線を上げられない。





「忘れて。」





「無理。」





ミンギュは笑いながら、

スープをテーブルへ置く。



その横顔を見ていると、チアキはなぜか少しだけ悔しくなる。

自分だけがこんなに動揺しているみたいで。





「はい、どうぞ。」





チアキがスプーンを持つ。





一口飲む。





温かい味。





疲れた体に、

ゆっくり染みていく。





「……美味しい。」





少し間。





「ほんとに、美味しい。」





言い直す。

今度は、ちゃんと伝えたくて。





ミンギュが少し笑う。

その笑顔を見た瞬間、チアキはまた胸がざわつく。褒められたわけでもないのに、なぜか嬉しくて、少しだけ苦しい。





「うん、その言い方のほうがチアキっぽい。」





チアキも照れながら笑う。

笑ったあとで、自分がミンギュの前でこんなふうに自然に笑えるようになっていることに気づいて、少しだけ戸惑う。





リビング





その様子を見ていたスングァンが、

小声でスニョンに言う。





「また出た。」





スニョンが笑う。





「最近ほんと多いよな。」





「チアキ、ああいうの自分じゃ気づいてないのがまた面白い。」





二人の会話に、

ジョンハンも少し笑う。





でも。





誰もからかったりはしない。





その小さな変化が、

この家の日常になり始めているから。





【STAFF NOTE】



共同生活36日目。





距離が近づくということは、

大きな出来事が起きることではない。





名前を呼ぶこと。

頼ること。

「ありがとう」を素直に言えること。





そんな小さな変化の積み重ね。





そして。



誰かが覚えていてくれることは、

言葉以上に安心を与える。





次回 Scene5

『秘密の気配』



ウォヌが語る、

過去につながる記憶。



まだ明かされない秘密の向こう側に、

一つの後悔が残っていた。




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