ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―
Episode37
『残された言葉』
― 誰かを想って残したものが、誰かを傷つけることもある。―
Day:Tuesday(共同生活37日目)
⸻
Scene1
『いつもの朝』
Tuesday|Morning
⸻
404 HOUSE。
⸻
朝。
⸻
いつものように、
キッチンには朝食の準備をする音が響いていた。
⸻
フライパンの音。
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食器を並べる音。
⸻
誰かの笑い声。
⸻
⸻
共同生活が始まった頃なら、
この時間は少し緊張があった。
⸻
誰が先に起きているのか。
⸻
誰に話しかければいいのか。
⸻
そんな小さな距離感を、
みんなが探っていた。
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そのたびに、
胸の奥が少しだけそわそわして、
何気ない一言さえ慎重に選んでいた。
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でも今は。
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「おはよう。」
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「眠そうだね。」
⸻
「昨日、何時に寝たの?」
⸻
自然に会話が始まる。
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その自然さが、
少し前までの自分たちには信じられないほどだった。
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⸻
ダイニング
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ウォヌは、
いつものようにコーヒーを飲んでいた。
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⸻
静かな表情。
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落ち着いた仕草。
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誰が見ても、
いつものウォヌだった。
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けれど、その静けさの奥に、
ほんのわずかな揺れがあることを、
近くにいる人なら気づけたかもしれない。
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⸻
でも。
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⸻
スタッフだけは知っている。
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⸻
昨日のインタビューで語られた、
まだ誰にも話していない過去。
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⸻
言葉を書く人だからこそ、
言葉の重さに苦しんだこと。
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その傷は、
今も完全には消えていない。
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話したあとも、
きっと何度も胸の中で同じ場面をなぞったはずだ。
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言ってよかったのか。
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あれで伝わったのか。
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誰かを不安にさせていないか。
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そんな思いが、
静かな顔の裏で小さく波打っていたとしても不思議ではなかった。
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⸻
それでも。
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ウォヌはいつものように、
みんなと同じ朝を過ごしていた。
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その姿に、
周囲は安心しながらも、
どこかでそっと気を配っていた。
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「ウォヌ、今日仕事?」
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スニョンが聞く。
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「うん、午後から。」
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「じゃあ、少しはゆっくりできるね。」
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「そうだね。」
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短いやり取り。
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でも。
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その短さが、
今の404 HOUSEでは自然だった。
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言葉を重ねすぎなくても、
互いの気配で気持ちを察することができる。
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そんな関係が、
少しずつこの家に根づいていた。
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玄関
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チアキは、
フライトの準備をしていた。
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今日は午前から勤務。
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スーツケースを確認する。
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「忘れ物ない?」
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ミンギュが声をかける。
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チアキが振り返る。
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「大丈夫です。」
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少し間。
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「……たぶん。」
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その言葉に、
ミンギュが笑う。
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「またそれ言ってる。」
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チアキも笑う。
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「もう一回、確認します。」
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バッグの中をもう一度見る。
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その姿を見ながら、
ミンギュは自然に車の鍵を手に取った。
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「送るよ。」
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チアキが少し驚く。
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「ほんとに、いいんですか?」
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ミンギュは首を振る。
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⸻
「うん。俺が送りたいだけ。ちょうど時間もあるし。」
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その言葉は、
あまりにも自然だった。
⸻
けれどチアキには、
その自然さが少しだけ眩しかった。
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誰かに気を遣われることに慣れていないわけではない。
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それでも、
「送りたいだけ」と言われた瞬間、
胸の奥がふっと温かくなるのを感じた。
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チアキは一瞬、
返事を忘れる。
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以前なら。
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「申し訳ないです。」
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そう言っていた。
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相手に負担をかけたくなくて、
頼る前に引いてしまうことが多かった。
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でも。
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今は少しだけ違う。
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「……じゃあ、お願いします。」
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小さな声。
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その一言を口にするまでに、
ほんの少しだけ勇気が要った。
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けれど言えた自分に、
チアキ自身が少し驚いていた。
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ミンギュは少し笑う。
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「うん。」
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「そうやって頼ってくれると、うれしい。」
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チアキは少し照れる。
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「もう、からかわないでください。」
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その言葉に、
ミンギュが笑う。
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⸻
そして。
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チアキ自身も気づく。
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男性陣に対しても、
少しずつ自然な言葉が増えていることに。
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以前なら飲み込んでいた一言が、
今は少しだけ素直に出てくる。
⸻
その変化がうれしい反面、
慣れないぶんだけくすぐったくもあった。
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車内
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朝の道路。
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⸻
窓の外を流れる景色。
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会話は、
特別なものではなかった。
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「今日、何時頃終わる?」
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「夜です。」
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「じゃあ、帰る頃は寒いかもね。」
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⸻
「そうですね。」
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「迎えに行くよ。上着ないでしょ?」
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「大丈夫ですよ。今も送ってもらってるのに。」
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「いいの。俺がしたいだけだから。」
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「じゃあ…お願いします。」
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⸻
「うん。」
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⸻
「このままだと、甘えん坊になっちゃうな…。」
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⸻
「俺のせい?」
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⸻
「うん。ミンギュさんのせいです。」
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⸻
少し間。
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⸻
チアキが窓の外を見ながら、
ぽつりと言う。
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ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―
Episode37
『残された言葉』
― 誰かを想って残したものが、誰かを傷つけることもある。―
Day:Tuesday(共同生活37日目)
Scene1
『いつもの朝』
Tuesday|Morning
404 HOUSE。
朝。
いつものように、
キッチンには朝食の準備をする音が響いていた。
フライパンの音。
食器を並べる音。
誰かの笑い声。
共同生活が始まった頃なら、
この時間は少し緊張があった。
誰が先に起きているのか。
誰に話しかければいいのか。
そんな小さな距離感を、
みんなが探っていた。
そのたびに、
胸の奥が少しだけそわそわして、
何気ない一言さえ慎重に選んでいた。
でも今は。
「おはよう。」
「眠そうだね。」
「昨日、何時に寝たの?」
自然に会話が始まる。
その自然さが、
少し前までの自分たちには信じられないほどだった。
ダイニング
ウォヌは、
いつものようにコーヒーを飲んでいた。
静かな表情。
落ち着いた仕草。
誰が見ても、
いつものウォヌだった。
けれど、その静けさの奥に、
ほんのわずかな揺れがあることを、
近くにいる人なら気づけたかもしれない。
でも。
スタッフだけは知っている。
昨日のインタビューで語られた、
まだ誰にも話していない過去。
言葉を書く人だからこそ、
言葉の重さに苦しんだこと。
その傷は、
今も完全には消えていない。
話したあとも、
きっと何度も胸の中で同じ場面をなぞったはずだ。
言ってよかったのか。
あれで伝わったのか。
誰かを不安にさせていないか。
そんな思いが、
静かな顔の裏で小さく波打っていたとしても不思議ではなかった。
それでも。
ウォヌはいつものように、
みんなと同じ朝を過ごしていた。
その姿に、
周囲は安心しながらも、
どこかでそっと気を配っていた。
「ウォヌ、今日仕事?」
スニョンが聞く。
「うん、午後から。」
「じゃあ、少しはゆっくりできるね。」
「そうだね。」
短いやり取り。
でも。
その短さが、
今の404 HOUSEでは自然だった。
言葉を重ねすぎなくても、
互いの気配で気持ちを察することができる。
そんな関係が、
少しずつこの家に根づいていた。
玄関
チアキは、
フライトの準備をしていた。
今日は午前から勤務。
スーツケースを確認する。
「忘れ物ない?」
ミンギュが声をかける。
チアキが振り返る。
「大丈夫です。」
少し間。
「……たぶん。」
その言葉に、
ミンギュが笑う。
「またそれ言ってる。」
チアキも笑う。
「もう一回、確認します。」
バッグの中をもう一度見る。
その姿を見ながら、
ミンギュは自然に車の鍵を手に取った。
「送るよ。」
チアキが少し驚く。
「ほんとに、いいんですか?」
ミンギュは首を振る。
「うん。ちょうど時間あるし。ひとりで行かせるより、俺も安心する。」
その言葉は、
あまりにも自然だった。
けれどチアキには、
その自然さが少しだけ眩しかった。
誰かに気を遣われることに慣れていないわけではない。
それでも、
「安心する」と言われた瞬間、
胸の奥がふっと温かくなるのを感じた。
チアキは一瞬、
返事を忘れる。
以前なら。
「申し訳ないです。」
そう言っていた。
相手に負担をかけたくなくて、
頼る前に引いてしまうことが多かった。
でも。
今は少しだけ違う。
「……じゃあ、お願いします。」
小さな声。
その一言を口にするまでに、
ほんの少しだけ勇気が要った。
けれど言えた自分に、
チアキ自身が少し驚いていた。
ミンギュは少し笑う。
「うん。」
「そうやって頼ってくれると、うれしい。」
チアキは少し照れる。
「もう、からかわないでください。」
その言葉に、
ミンギュが笑う。
そして。
チアキ自身も気づく。
男性陣に対しても、
少しずつ自然な言葉が増えていることに。
以前なら飲み込んでいた一言が、
今は少しだけ素直に出てくる。
その変化がうれしい反面、
慣れないぶんだけくすぐったくもあった。
車内
朝の道路。
窓の外を流れる景色。
会話は、
特別なものではなかった。
「今日、何時頃終わる?」
「迎えに行くよ。上着ないでしょ?」
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「大丈夫ですよ。今も送ってもらってるのに。」
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「いいの。俺がしたいだけだから。」
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⸻
「じゃあ…お願いします。」
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「うん。任せて。」
「ありがとうございます。」
「そんなにかしこまらなくていいよ。」
「でも、うれしいから。」
「それならよかった。」
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「このままだと、甘えん坊になっちゃうな…。」
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「俺のせい?」
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⸻
「うん。ミンギュさんのせいです。」
「ミンギュさんに頼りっぱなしになっちゃいそうです。」
「頼ってくれていいよ。」
「……迷惑かけたくないです。」
「迷惑じゃないよ。俺、頼られるのとかそういうの、嫌じゃないから。」
「じゃあ、少しだけ。」
「少しだけじゃなくてもいいけど。」
「それは、さすがに申し訳ないです…。」
「じゃあ、今は少しだけってことにしておくか。」
「うん、そうしてください。」
2人で笑い合う。
少し間。
チアキが窓の外を見ながら、
ぽつりと言う。
「最近、ミンギュさんの車に乗ると、なんだか落ち着きます。」
言ったあと、
自分で少し驚く。
こんなふうに、
思ったことをそのまま口にするのはまだ少し苦手だった。
けれど今は、
言葉にした瞬間の空気が怖くなかった。
ミンギュが笑う。
「それ、車のおかげ?」
チアキは少し考える。
「……車のおかげじゃなくて、ミンギュさんがいるからかな…。」
一瞬。
自然に出た言葉。
そしてすぐに気づく。
ミンギュは嬉しそうに笑う。
「…今の、嬉しいな。」
チアキは恥ずかしそうに笑う。
「忘れてください。」
「無理だよ。」
「……ミンギュさん、意地悪です。」
「そういう顔、初めて見たかも。」
「見ないでください。」
「見ちゃうよ。隣だし。」
「前見てください!」
「笑」
朝の車内に、
小さな笑い声が広がる。
その笑い声に、
チアキは少しだけ肩の力が抜けるのを感じていた。
⸻
【STAFF NOTE】
⸻
共同生活37日目。
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⸻
変化は、
大きな出来事だけで起こるものではない。
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⸻
「ありがとう」と言えること。
⸻
頼ることができること。
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素直な言葉が、
少しずつ増えていくこと。
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⸻
そして。
⸻
⸻
誰かを大切に思う気持ちは、
いつも特別な瞬間から始まるわけではない。
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何気ない朝。
⸻
いつもの会話。
⸻
その積み重ねの中に、
少しずつ形になっていく。
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⸻
次回 Scene2
『ウォヌの仕事』
⸻
言葉を扱う仕事。
⸻
誰かに届けるために書く人が、
言葉の重さを知った理由。
→
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