ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode37

『残された言葉』

― 誰かを想って残したものが、誰かを傷つけることもある。―

Day:Tuesday(共同生活37日目)



Scene3

『ウォヌの秘密』

Tuesday|Evening



スタッフインタビュー。



静かな部屋。



照明は少し落とされ、

ウォヌの表情がゆっくり映し出される。



普段の404 HOUSEで見せる、

穏やかな表情。



でも。



今日は少し違った。



言葉を選ぶ時間が、

いつもより長い。



彼の中では、答えはもう決まっているはずだった。

けれど、それを口にするたびに、あの時の空気まで一緒に戻ってきてしまう気がした。

言えば楽になるわけではない。

むしろ、また誰かを傷つけるかもしれない。

そう思うたび、喉の奥が静かに固くなる。



スタッフ

「ウォヌさん。」



「以前、人との距離を取るようになった理由について話してくださいました。」



「その出来事について、もう少し聞かせてもらえますか?」





ウォヌはしばらく黙る。





机の上に置かれた手。



指先が少しだけ動く。



その沈黙の中で、彼は何度も言葉を飲み込んでいた。

あの頃の自分は、何を守ろうとしていたのか。

誰を守れなかったのか。

考えれば考えるほど、胸の奥に残るのは後悔ばかりだった。



「……昔。」





「恋愛経験を元にした作品を書いたことがあります。」





「自分の中では、すごく大切な作品でした。」





言いながら、ウォヌは思う。

大切だったからこそ、軽く扱いたくなかった。

本当に残したかったのは、誰かを傷つけるための記録ではなく、確かにそこにあった感情のはずだった。

けれど、その区別を、当時の自分は十分にできていなかった。



「その時の感情。」



「その時見た景色。」



「忘れたくなかった時間。」





「全部、正直に書きました。」





その作品は、

多くの人に届いた。





評価された。





「リアルな恋愛作品」





そう言われた。





たくさんの人が共感した。





ウォヌにとって、

初めて自分の言葉が大きく誰かに届いた瞬間だった。





でも。





その中には、

一人の女性との記憶があった。





元恋人。





自分が大切にしていた人。





彼女の笑い方も、黙り込む時の癖も、まだ鮮明に覚えている。

忘れたかったわけじゃない。

忘れられなかっただけだ。

それを作品にした時、自分はどこかで「伝わるはずだ」と思っていた。

でも、伝わることと、許されることは違った。



スタッフ

「その方は、作品を読まれたんですか?」





ウォヌは小さく頷く。





「はい。」





「そして……傷つきました。」





少し間。





その一言を口にするだけで、胸の奥が痛む。

あの時の彼女の顔を、今でもはっきり思い出せるわけではない。

けれど、沈黙の重さだけは忘れられなかった。

自分の言葉が、相手の中に残してしまったものの大きさを、その時初めて知った。



「自分の知らない場所で。」



「自分の人生の一部だったものが。」



「誰かに見られるものになっていたから。」





ウォヌの声は静かだった。





でも。





その言葉の奥には、

今でも残る後悔があった。





「僕にとっては、作品でした。」





「でも。」





「相手にとっては、人生の一部だった。」





「そこを、ちゃんと考えられていなかった。」





言い終えたあと、ウォヌはほんの少し目を伏せる。

自分の中では整理したつもりだった。

けれど、こうして言葉にすると、まだ整理しきれていない感情があることを思い知らされる。

あの時、もっと早く気づけていたら。

もっと違う伝え方ができていたら。

そんな「もしも」が、今も静かに残っていた。



スタッフ

「その経験が、人との距離を取るきっかけになったんですか?」





ウォヌはゆっくり頷く。





「はい。」





「自分では大切にしているつもりでも。」





「相手を傷つけてしまうことがある。」





「それが怖くなりました。」





「近づけば。」





「また誰かを傷つけるかもしれない。」





「そう思うようになりました。」





だから。





簡単に自分の中へ人を入れなくなった。





深く関わることを避けるようになった。





優しくすることすら、

時には相手を傷つけるのではないかと考えるようになった。





それは逃げだったのかもしれない。

そう思う瞬間もある。

けれど、逃げることでしか守れないものがあると、あの経験は彼に教えてしまった。

誰かを失う痛みより、誰かを傷つける痛みのほうが怖くなっていた。



スタッフ

「でも、404 HOUSEでは少し変化が見えます。」





ウォヌは少し笑う。





「……そうですね。」





「最初は、ここでも距離を取るつもりでした。」





「必要以上に踏み込まないように。」





「相手にも、自分にも。」





でも。





この家では。





誰かが無理に近づいてくるわけではなかった。





話したくない時は、

そっとしてくれる。





一人でいたい時は、

その時間を尊重してくれる。





でも。





必要な時には、

自然に隣にいてくれる。





「それが……。」





「少し不思議でした。」





「距離を取らなくても。」





「傷つけない関係もあるんだなって。」





ウォヌは静かに笑う。





その笑みの裏で、彼はまだ少しだけ疑っていた。

本当にそんな関係があるのか。

自分がそう思いたいだけではないのか。

けれど、誰かの何気ない気遣いに救われるたび、その疑いは少しずつ形を変えていった。



「まだ、全部信じられているわけじゃないです。」





「でも。」





「少しずつ変わっている気はします。」





【STAFF NOTE】



言葉は、

残る。





書いた本人が忘れても。



読んだ人の中には、

ずっと残ることがある。





ウォヌは、

その重さを誰より知っていた。





だからこそ。



簡単に近づけなかった。



簡単に心を開けなかった。





でも。





404 HOUSEで積み重ねた37日間。





誰かの笑顔。



誰かの「おかえり」。



誰かの何気ない優しさ。





それらは、

過去の痛みとは違う形で、

少しずつウォヌの中に残り始めていた。





次回 Scene4

『404 HOUSEでのウォヌ』



過去を語った夜。



それでも変わらない日常。



そして。



誰かが深く聞かなくても、

そばにいる優しさ。




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