ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode38

『静かな時間』

― 一緒にいる理由は、いつも特別な出来事ではない。―

Day:Wednesday(共同生活38日目)



Scene1

『珍しい休日』

Wednesday|Morning



404 HOUSE。



平日の朝。



いつも通り、

キッチンには朝食の準備をする音が響いていた。



トースターの音。



コーヒーを淹れる音。



食器が触れ合う小さな音。





いつもの朝。



でも。



今日は少しだけ違った。





仕事へ向かう人。



休みの人。



それぞれの予定が違う。





朝食



テーブルを囲む11人。



スンチョルは時計を確認しながら、

予定を話す。



「今日は午後まで打ち合わせ。」





スングァンが頷く。



「じゃあ帰り遅い?」





「たぶん夕方。」





ミンギュも鞄を持ちながら言う。



「俺も今日は外で仕事。」





「頑張って。」



チアキが自然に声をかける。





ミンギュが少し目を丸くして、

それから笑う。



「うん、行ってくる。」





以前なら。





「頑張ってください。」





そう言っていた。





でも最近は、

少しずつ言葉が変わってきていた。





「頑張って。」





その一言が、

自然に出るようになっている。





男性陣も、

もう驚くことはない。



ただ。



その距離が少し近くなったことを、

嬉しく感じながら受け取っていた。





ジョンハンがパンをかじりながら、

にやりと笑う。



「チアキ、今日は休み?」





「はい。」





「じゃあ、ゆっくりできるね。」





「そうですね。」





スングァンがコーヒーを飲みながら、

ふと思い出したように言う。



「でも、チアキって休みの日も結局何かしてそう。」





チアキは少し困ったように笑う。





「そんなことないですよ。」





ウォヌが静かに目を上げる。



「……でも、たしかに家にいるだけで終わる感じはしない。」





その言い方に、

チアキは思わず吹き出す。





「ウォヌさん、それ褒めてます?」





ウォヌは少しだけ考えてから、

淡々と答える。



「たぶん。」





そのやり取りに、

テーブルのあちこちから小さな笑いが起きる。





そんな中で。





スンチョルが時計を見て立ち上がる。



「そろそろ行く。」





「いってらっしゃい。」





「行ってきます。」





続いて、

ミンギュ、スニョン、スングァン、ジョンハンも席を立つ。





玄関





出発するメンバーが、

順番に靴を履く。





「ネクタイ、曲がってますよ。」



チアキがスンチョルの襟元を見て言う。





スンチョルは少しだけ眉を上げる。



「ほんと?」





チアキが手を伸ばして直す。





「はい。これで大丈夫です。」





「……ありがとう。」





その短いやり取りを見て、

ミンギュが小さく笑う。



「なんか夫婦みたい。」





「違います。」



チアキが即答すると、

ジョンハンが面白そうに肩を揺らす。



「即答が早い。」





スングァンも続ける。



「でも、今のはちょっと自然だったよね。」





チアキは少しだけ視線をそらす。





「そうですか?」





ウォヌが玄関の少し後ろから、

静かにその様子を見ている。





「行ってきます。」





「行ってらっしゃい。」





何度も繰り返される言葉。





その中で。



チアキは、

ミンギュ、スンチョル、スニョン、スングァン、ジョンハンを見送る。





「気をつけてね。」





自然な声。





ミンギュが少し笑う。





「チアキも。」





「今日は休みだからって、ちゃんと休んで。」





「……はい。」





一瞬。



いつもの返事に戻る。





でも。





チアキは少し笑って、

言い直す。





「うん。」





自分でも少し驚いたような顔。





でも。





誰も何も言わない。





ただ。





その自然な変化を、

静かに受け取っていた。





最後に靴を履き終えたスンチョルが、

振り返って言う。



「何かあったら連絡して。」





「はい。」





「……あと、昼ごはんは適当に済ませないで。」





チアキが少し笑う。





「わかりました。」





「本当に?」





「本当に。」





そのやり取りに、

スンチョルもようやく安心したように頷く。





リビング





出勤組が出て行き、

404 HOUSEが少し静かになる。





残ったのは。



チアキ。



そして、

ウォヌ。





平日の昼前。



珍しい二人の休日。





チアキはソファに座り、

コーヒーを飲んでいた。





ウォヌは向かい側で本を読んでいる。





会話はない。





でも。





気まずさはなかった。





ページをめくる音。





カップを置く音。





窓から入る光。





ただ同じ空間にいる。





それだけで、

落ち着く時間だった。





しばらくして。





ウォヌが本から顔を上げる。





「今日、予定ある?」





チアキは顔を上げる。





「特にないです。」





少し間。





ウォヌは窓の外を見る。





「……公園、行かない?」





チアキは少し驚く。





「珍しいですね。」





ウォヌは少し首を傾げる。





「そう?」





チアキは笑う。





「はい。」





少し考えて。





「ウォヌさんから誘うの、なんか意外です。」





ウォヌは少しだけ笑う。





「たまにはいいかなと思って。」





その言葉は、

いつものウォヌらしい静かなものだった。





でも。





以前のウォヌなら、

きっと言わなかった誘い。





誰かと予定を合わせること。



誰かと時間を過ごすこと。





それ自体が、

少しずつ変化している証だった。





チアキはコーヒーを置く。





「じゃあ、お願いします。」





その返事も、

以前より自然だった。





ウォヌが本を閉じる。





「歩くの、平気?」





「はい。むしろ好きです。」





「ならよかった。」





その一言が、

あまりにもさらりとしていて。





チアキは少しだけ目を瞬かせる。





「……今の、なんか優しいですね。」





ウォヌは立ち上がりながら、

何でもないように答える。



「いつも通り。」





「そういうところです。」





チアキが小さく笑うと、

ウォヌもほんの少しだけ口元を緩める。





二人は準備を始める。





特別な予定ではない。





デートでもない。





ただ。





休みの日に、

一緒に公園へ行く。





それだけ。





でも。





今の二人にとっては、

それだけの時間が、

少しだけ大切になっていた。





玄関で靴を履きながら、

チアキがふと聞く。



「ウォヌさん、飲み物持っていきます?」





ウォヌは少し考える。



「……あったほうがいいかも。」





「じゃあ、冷蔵庫見てきます。」





「うん。」





短いやり取りなのに、

どこか息が合っている。





チアキがキッチンへ向かうと、

ウォヌはその背中を見送りながら、

静かに待っていた。





【STAFF NOTE】



人との距離が変わる瞬間は、

大きな出来事だけではない。





同じ部屋で静かに過ごせること。





何気なく予定を聞けること。





「一緒に行く?」

と自然に言えること。





その小さな積み重ねが、

少しずつ関係を変えていく。





次回 Scene2

『公園』



ソウル郊外の静かな公園。



散歩。



ベンチ。



コンビニで買った飲み物。





会話は多くない。



でも。



沈黙が苦しくない時間が、

二人の間に流れていた。




ノベルに戻る I Addict