ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode38

『静かな時間』

― 一緒にいる理由は、いつも特別な出来事ではない。―

Day:Wednesday(共同生活38日目)



Scene2

『公園』

Wednesday|Afternoon



ソウル郊外。



街の中心から少し離れた、

木々に囲まれた静かな公園。



平日の昼下がりで、

園内の人影はまばらだった。



やわらかな日差しが、

まだ少し冷たい空気を透かして地面に落ちている。



木々の枝先では、

季節の移ろいを知らせるように色づき始めた葉が揺れていた。



風が吹くたび、

乾いた葉がかすかに擦れ合い、

足元の芝生の上を小さく転がっていく。



遠くでは子どもたちの笑い声が響き、

遊具のある広場のほうからは、

ボールを追いかける軽い足音も聞こえてくる。



ベンチの並ぶ散歩道には、

落ち葉と細い影がまだらに重なり、

ゆっくりと流れる時間だけがそこにあった。



404 HOUSEとは違う場所なのに、

不思議と落ち着く空気だった。



公園入口



チアキとウォヌは、

並んでゆっくり歩いていた。



「こういうところ、よく来るんですか?」



チアキが聞く。



ウォヌは少しだけ視線を上げる。



「昔は、わりと来てた。」



「一人で?」



「うん。」



短い返事。



でも、チアキは無理に話を広げようとはしなかった。



以前のチアキなら、

沈黙を埋めようとしていたかもしれない。



でも今は、

相手の静けさもその人らしさだと分かっている。



「……ここ、静かですね。」



チアキが周りを見ながら言う。



ウォヌはうなずく。



「人が少ない時間のほうが、歩きやすいから。」



「ウォヌさんらしいですね。」



「そう?」



「はい。なんとなく。」



ウォヌは少しだけ口元をゆるめる。



「チアキも、こういう場所は嫌いじゃないでしょ。」



「……はい。」



少し間を置いて、

チアキは小さく笑う。



「落ち着きます。」



その一言に、

ウォヌは何も言わずに前を向いた。



二人の間には、

穏やかな時間が流れる。



足元で小さな砂利が鳴る音、

風に揺れる木の葉の音、

遠くを走る自転車のタイヤの音。



そんなささやかな気配が、

静けさをやわらかく包んでいた。



ベンチ



少し歩いた後、

二人はベンチに座る。



途中で買った飲み物。



チアキは温かいコーヒー。

ウォヌはアイスコーヒー。



紙カップから立ちのぼる湯気が、

冷えた空気の中でゆっくりほどけていく。



季節の変わり目の風が、

頬に触れるたび少し冷たく感じる。



「寒くない?」



ウォヌが聞く。



チアキは首を振る。



「大丈夫です。」



言ったあと、

少し止まる。



「あ。」



ウォヌを見る。



「……また言った。」



ウォヌは小さく笑う。



「うん。」



「もう、癖ですね。」



チアキは少し恥ずかしそうに笑う。



「本当に気をつけてるんですけど。」



「気づいたら出てるんだよね。」



ウォヌは飲み物を持ちながら、静かに言う。



「でも、前よりは言ったあとに自分で気づけるようになった。」



チアキは少し考える。



確かに。



以前なら、

「大丈夫です。」



その言葉で終わらせていた。



でも今は、

誰かがその奥を見る。



だから、

自分でも少しだけ立ち止まれる。



「……そうかもしれません。」



自然に出た言葉。



また、

少しだけタメ口。



でも今回は、

チアキ自身も気づかなかった。



ウォヌは何も言わない。



ただ、

少しだけ表情が柔らかくなる。



その距離が、

以前より近くなったことを感じていた。



ベンチの向こうでは、

風に押された木の枝がゆっくり揺れ、

そのたびに光と影が静かに動く。



「チアキ。」



ウォヌがふと呼ぶ。



「はい?」



「さっきの花、もう少し見ていく?」



チアキは少し驚いてから、

すぐにうなずく。



「……見たいです。」



「じゃあ、もう少し歩こうか。」



その何気ない一言が、

次の時間を自然につないでいく。



散歩道



二人は再び歩き出す。



会話は、

特別なものではない。



好きな季節。



最近読んだ本。



行ってみたい場所。



そんな話。



でも、

相手の話を聞く時間が心地よかった。



チアキが立ち止まる。



小さな花を見つける。



芝生の端に咲いた、

風に揺れる淡い色の花だった。



「綺麗。」



ウォヌも見る。



「気に入った?」



「うん。」



また自然な返事。



言ったあと、

チアキは少しだけ目を丸くする。



でも、

もう訂正しなかった。



ウォヌも、

それを特別扱いしなかった。



ただ、

普通の会話として受け取る。



それが、

今の二人には心地よかった。



「こういうの、写真に撮りたくなりますね。」



チアキが言う。



ウォヌは少しだけ花に目を落とす。



「撮る?」



「……いいんですか?」



「いいよ。」



チアキはスマホを取り出し、

花の近くにしゃがみこむ。



ウォヌはその様子を見ながら、

静かに言う。



「前より、迷わなくなったね。」



チアキは画面を見たまま、

小さく笑う。



「ウォヌさんが、待ってくれるからです。」



その返事に、

ウォヌは少しだけ目を細める。



散歩道の先では、

ベビーカーを押す親子がゆっくり通り過ぎ、

少し離れた芝生では、

犬が落ち葉の上を楽しそうに走っている。



そんな何気ない景色の中で、

二人の歩く速度だけが、

自然にそろっていた。



ベンチ



少し疲れて、

もう一度ベンチへ戻る。



ウォヌが空を見る。



薄く広がった雲の向こうに、

午後の光がやわらかく滲んでいた。



「こういう時間。」



チアキを見る。



「悪くない。」



チアキは笑う。



「うん。」



今度は、

自然に返した。



二人とも、

そのことに触れない。



でも、

その小さな変化は確かにそこにあった。



風が少し強くなり、

木々の葉がさらさらと鳴る。



公園の奥からは、

誰かがボールを蹴る乾いた音が一度だけ響き、

また静けさが戻ってきた。



「ねえ、ウォヌさん。」



チアキがカップを両手で包みながら言う。



「はい。」



「こういうの、また来てもいいですか?」



ウォヌは少しだけ間を置いてから答える。



「もちろん。」



「……じゃあ、次はもう少し暖かい日に。」



「そうだね。」



「そのときは、もう少し長く歩けるかも。」



ウォヌの言葉に、

チアキはうれしそうにうなずく。



「はい。楽しみです。」



その返事は、

さっきよりも少しだけはっきりしていた。



【STAFF NOTE】



近づくということは、

たくさん話すことだけではない。



相手のペースを受け入れること。



何気ない返事が、

少しずつ自然になること。



その積み重ねが、

人との距離を変えていく。



次回 Scene3

『少しだけ話す過去』



ベンチで休憩する二人。



ウォヌが、

自分の距離の取り方について話し始める。



そして。



チアキもまた、

まだ誰にも話していない過去を少しだけ見せる。




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