ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode39

『完璧じゃない自分』

― 誰かに優しくできる人ほど、自分には厳しい。―

Day:Thursday(共同生活39日目)



Scene5

『弱さを隠す癖』

Thursday|Night



デザートを食べ終えた404 HOUSE。



リビングには、穏やかな空気が流れていた。



テレビではバラエティ番組がついている。



誰かが笑い、誰かがソファにもたれる。



いつもの夜だった。



スングァンが、ミンギュを見ながら笑う。



「でもさ。」



「ミンギュって、ほんと何でもできるよね。」



スニョンも頷く。



「料理もできるし。」



「仕事もできるし。」



「気も回るし。」



ジョンハンが笑いながら口を挟む。



「困ったら、とりあえずミンギュに聞けばなんとかなるもんね。」



リビングに笑いが広がる。



ミンギュは照れくさそうに笑った。



「いやいや、そんなことないって。」



そう言いながらも、目だけが少し泳ぐ。



褒められるのは嬉しい。



けれど、“何でもできる人”として見られるたび、その期待を崩したくない気持ちが強くなる。



できないところを見せた瞬間、自分の価値まで薄れてしまう気がするからだ。



「できないことだって普通にあるよ。」



スングァンは首を振る。



「えー、でもさ。」



「ミンギュが『できない』って言ってるとこ、あんまり見たことない。」



その言葉に、ミンギュの笑顔がわずかに止まる。



すぐに何でもないふうに笑い直す。



「見せてないだけかもね。」



冗談めかして返す。



けれどテーブルの下で組んだ指には、少しだけ力が入っていた。



本当は、“見せていない”というより、“見せられない”に近い。



弱さを出したら、頼られる自分ではいられなくなる気がする。



誰かに迷惑をかけるのが怖い。



期待を裏切るのも怖い。



そして何より、「大丈夫じゃない」と言った自分を、自分で許せなくなりそうで怖かった。



チアキは、静かにミンギュを見る。



今日一日、仕事の話をしている時も、デザートを作っていた時も、同じ顔をしていた。



失敗しないように気を張った、少し眉間に力の入った顔。



誰かが困らないように先回りして、平気なふりを重ねる顔。



自分にだけ厳しい人の顔。



チアキはゆっくり口を開く。



「でも……。」



みんながチアキを見る。



「完璧じゃなくても、いいと思います。」



静かな声だった。



「できないことがあるのって、普通ですし。」



少し照れたように笑う。



「私も、いっぱいあります。」



「失敗もします。」



「だから……。」



言葉を探してから、続ける。



「ミンギュさんが失敗しても、出来ないことがあっても、誰も責めないと思います。」



リビングが静かになる。



ミンギュは少し驚いたようにチアキを見ていた。



その言葉は、慰めではなかった。



無理に励まそうとしているわけでもない。



ただ、当たり前のことを当たり前みたいに伝えてくれていた。



ミンギュの喉が、かすかに上下する。



笑おうとして、うまく笑えない。



目を伏せたまま、一度だけ唇を結ぶ。



安心したい気持ちと、まだ受け取るのが怖い気持ちが、同時に滲んでいた。



ミンギュは小さく笑う。



「……ありがとう。」



声は穏やかだったが、少し掠れていた。



少し間を置いて、続ける。



「でもさ。」



「自分のことって、なかなかそう思えないんだよね。」



その言葉を口にした瞬間、ミンギュは自分でも気づかないほど肩を落とした。



強がるのは慣れている。



平気な顔をするのも、誰かの前で弱音を飲み込むのも、もう癖みたいなものだった。



けれど本当は、誰よりも先に自分を責めてしまう。



少しでも失敗すると、「やっぱり自分はまだ足りない」と、頭の中で何度も繰り返してしまう。



だからこそ、人前では余計に隙を見せたくなかった。



弱さを見せることは、甘えることではなく、自分の中の不安をそのまま差し出すことに近い。



それが怖い。



チアキは頷く。



「分かります。」



「私も『大丈夫です』って、つい言いすぎちゃうので。」



その一言に、ジョンハンがふっと笑う。



「確かに。」



ウォヌも静かに頷く。



「最近はちょっと減ったけどね。」



チアキは少し照れて笑う。



「皆さんが気づいてくれるからです。」



その言葉で、部屋の空気が少し柔らかくなる。



スングァンが笑いながら言う。



「じゃあ今度からミンギュにも言おう。」



「大丈夫だよって。」



スニョンも笑う。



「毎日言う?」



「朝昼晩で(笑)」



ミンギュは吹き出す。



「それは多いって。」



そう言って笑った顔は、さっきまでの硬さが消えていた。



目尻がやわらかく下がり、張りつめていた肩の力も少し抜ける。



久しぶりに、心の底から笑ったみたいな顔だった。



チアキもつられて笑う。



その笑顔を見て、ミンギュは思う。



完璧じゃなくてもいい。



その言葉は、まだ全部は信じきれない。



けれど、ずっと握りしめていたものを少しだけ緩めてもいいのかもしれない。



誰かに弱さを見せても、すぐに壊れるわけじゃない。



そう思えたのは、チアキが責めずに、ただ受け止めてくれたからだった。



チアキが言うと、少しだけ信じてみてもいいのかもしれない。



そんな気がした。



【STAFF NOTE】



弱さを隠す人は、強い人ではない。



弱さを見せる方法を、まだ知らないだけなのかもしれない。



そして、その方法を教えてくれるのは、「頑張れ」という言葉ではなく。



「そのままで大丈夫。」



そう言ってくれる、誰かの存在なのかもしれない。



次回 Scene6【UNSEEN】

スタッフインタビュー。



「頼られる人ほど、
弱さを隠してしまう。」



ミンギュが初めて語る、
“完璧でいなければならなかった理由”。




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