ROOM 404 ― 恋愛禁止の家で、秘密と恋が始まる ―

Episode40

『完璧じゃなくても』

― ありのままの自分を受け入れる。―

Day:Friday(共同生活40日目)



Scene2

『ミンギュの仕事』

Friday|Afternoon



ソウル市内。



午後。



高層ビルの一角。



ミンギュの職場。



打ち合わせが終わり、

スタッフたちが資料をまとめている。



「ミンギュさん。」



後輩が声をかける。



「この資料、最終確認お願いできますか?」



「もちろん。」



ミンギュは自然に資料を受け取り、

すぐに目を通し始める。



修正箇所を見つける。



「ここだけ直そう。」



「ありがとうございます!」



後輩は安心したように笑う。



少し離れた場所で、

別の社員が話している。



「あの人、本当に頼りになるよね。」



「何でもできるし。」



「困ったら、とりあえずミンギュさん。」



そんな言葉が、

何気なく聞こえてくる。



ミンギュは気づいていない。



いや。



気づかないふりをしていた。



期待されることは、

昔から当たり前だった。



褒められるたびに、

嬉しいはずなのに胸の奥が少しだけ重くなる。



「できる人」でいることが、

いつの間にか自分の役目になっていたから。



失敗しないように。



迷惑をかけないように。



誰かの期待を裏切らないように。



そうやって、

笑顔のまま何度も自分を整えてきた。



だから今日も、

「できて当然」のように笑う。



休憩スペース



コーヒーを片手に、

一人で窓の外を見る。



そこへ、

番組スタッフがインタビューに入る。



カメラが回る。



スタッフが静かに尋ねる。



「職場でも、かなり頼られてますよね。」



ミンギュは少し笑う。



「そうですね。ありがたいです。」



「でも、正直……ちょっとプレッシャーでもあります。」



その笑顔は慣れている。



けれど、

その裏ではいつも、

少しだけ息を止めている。



期待に応えるたび、

誰かの安心した顔を見るたび、

ほっとするのに、

同時にまた次も完璧でいなければと思ってしまう。



スタッフ。



「昔から、期待されることが多かったですか?」



ミンギュは少しだけ視線を落とす。



窓ガラスに映る自分を見る。



そこにいるのは、

いつも通り落ち着いて見える自分だった。



でも、

その表情の奥には、

ずっと隠してきた疲れがある。



そして、

ゆっくり頷いた。



「はい。」



短い返事。



でも、

その一言の中には、

長い時間が詰まっていた。



「小さい頃からずっと。」



「『ミンギュならできる』って、よく言われていました。」



少し笑う。



「最初は、すごく嬉しかったです。」



「期待してもらえるのが。」



「ちゃんと見てもらえてる気がして。」



誰かに必要とされることが、

自分の価値を確かめる唯一の方法みたいに思えた。



だから、

頼られるたびに頑張った。



疲れていても、

弱音を飲み込んだ。



できないと言えば、

がっかりされる気がした。



助けてと言えば、

期待を下げられる気がした。



そうしているうちに、

「大丈夫」と言うのが癖になった。



本当は大丈夫じゃない日でも。



少し間が空く。



「でも。」



「期待されるのが当たり前になると。」



「応えられない自分が、すごく怖くなるんです。」



スタッフは黙って聞いている。



ミンギュは苦笑する。



「だから今でも。」



「失敗すると。」



「誰も責めてないのに。」



「自分だけが、ずっと自分を責めてしまうんです。」



たとえば、

ほんの少し返事が遅れただけで、

もっと早く気づけたはずだと考えてしまう。



たとえば、

資料の一行を見落としただけで、

自分はやっぱり足りないのではないかと不安になる。



たとえば、

誰かが「気にしないで」と笑ってくれても、

その言葉を素直に受け取れず、

次は絶対に失敗しないようにと、

さらに肩に力を入れてしまう。



静かな休憩スペース。



その言葉だけが、

ゆっくりと響く。



スタッフが微笑む。



「ROOM404では、少し変わりましたか?」



ミンギュは少し考える。



昨日の夜。



チアキが言った言葉を思い出す。



『完璧じゃなくても、いいと思います。』



その声は、

責めるでもなく、

無理に励ますでもなく、

ただ静かに寄り添うようだった。



そして、

朝の味見。



『美味しい。』



何気ない一言。



でも、

その言葉は、

ずっと欲しかったものだったのかもしれない。



失敗してもいい。



うまくできなくてもいい。



頑張りすぎなくても、

ここにいていい。



そんなふうに、

初めて許された気がした。



ミンギュは少し照れたように笑う。



「……はい。少しだけ。」



「まだ、すぐには難しいですけど。」



「『そのままでいい』って言ってもらえると、」



「すごく救われます。」



その言葉を口にした瞬間、

胸の奥にずっと張りついていたものが、

ほんの少しだけほどける。



誰かの期待に応えるためではなく、

自分のままでいてもいいのだと、

初めて思えた気がした。



その表情は、

以前より少しだけ穏やかだった。



【STAFF NOTE】



職場では、

頼れる人。



家では、

料理ができる人。



誰にとっても、

「何でもできるミンギュ」。



でも。



404 HOUSEでは、

少しずつ違う姿も見え始めていた。



完璧じゃなくても、

受け入れてくれる人がいる。



その事実が、

長い間張りつめていた心を、

少しずつほどいていた。



次回 Scene3

『ミンギュの秘密』



「成功している自分にしか、
価値がないと思っていた。」



笑顔の裏に隠し続けた、

本当の理由が明かされる。




ノベルに戻る I Addict